社会的連帯経済基本法レポート 第3回

レポート
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このレポートを始めるにあたって

韓国の「社会連帯経済基本法」は、報道を読んだだけでは、その制度の全体像や、日本社会に照らしたときにどのような意味を持つのかが理解しにくい法律だった。そこで、成立した基本法と関連政策をより深く理解し、その過程を読者と共有するため、このレポートを始めることにした。

本レポートでは、韓国政府等が公表した資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本との比較、原稿の下書きを行い、筆者が問題の設定、構成、採用する記述を判断し、編集している。

このレポートの作成方法と資料上の限界

筆者は韓国語の法律原文を独力で読解できる者でも、韓国の法制度を専門とする研究者でもない。本レポートでは、韓国政府、国会、法令情報などが公表した一次資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本の行政制度との比較、原稿の下書きを行っている。二つの参考資料も、主としてこの方法によって作成したものである。

そのうえで、何を問題として捉えるか、日本の制度とどのように比較するか、どの記述を採用するかについては、筆者が判断し、編集している。

法律に関する記述については、韓国語原文に加え、日本協同組合連携機構が公開した日本語仮訳などとも照合する。ただし、翻訳や制度の理解に誤りが含まれる可能性を完全には排除できない。このレポートは法律の専門的な逐条解説ではなく、現時点で確認できる資料から制度の意味を考えようとする調査と検討の記録である。

基本法は国会を通過したばかりであり、具体的な施行令、基本計画、予算、評価方法などはこれから明らかになる。新たな資料が公表された場合や、記述の誤りが確認された場合は、随時修正する。

韓国の制度を礼賛することが目的ではない。市場だけでも行政だけでも解決できなくなった問題に対して、社会はどのような第三の制度をつくることができるのか。そして、自治体の成果を「行政に残った金」ではなく「市民の側に残った豊かさ」によって測ることができるのか。その問いを、読者とともに考えていきたい。

社会的連帯経済は、何を地域に残すのか

三つの事例から見えてくるもの

前回は、大企業中心の成長や首都圏集中、高齢化を背景に、市場では採算が取りにくく、行政だけでも支えきれない問題が広がり、その狭間で協同組合、社会的企業、自活企業などが、地域に必要なサービスと仕事をつくってきたことを見た。

ただし、事業の内容だけを見れば、医療、介護、住宅改修、農産物の販売などは、一般の企業や行政の委託事業でも行われている。では、社会的連帯経済の実践は、何が違うのだろうか。

三つの事例から見えてくるのは、社会的連帯経済が、単に行政に代わって民間の組織がサービスを提供するしくみではなく、地域の人や組織の関係を組み替える可能性である。

その関係性を、三つの側面から見る。一つ目は、サービスを受ける人や地域住民が、出資や運営にも参加しているか。二つ目は、一つの事業が、サービスの提供だけでなく、雇用、技能、環境、地域内循環など複数の価値を生んでいるか。三つ目は、個々の組織の活動だけでなく、組織どうしが協力する関係が地域に育っているかである。

医療を受ける住民が、運営にも参加する

ソウル市恩平区のサリム医療福祉社会的協同組合は、2009年に「女性主義医療生協」の準備会として活動を始め、2012年に設立された。

「サリム」という名称には、「生命を生かす」「人を生かす」という意味と、女性が主に担ってきた家事労働という二つの意味があるという。病気の治療だけでなく、人の生活全体を支える医療と介護をめざし、家庭のなかで女性に偏ってきたケア労働の価値も問い直している。

通常、患者が医療機関の経営や運営方針に関わる機会はほとんどない。サリムでは、地域の人びとが出資して組合員となり、医療と介護の運営を支える。組合員は診療やケアを受ける利用者であると同時に、どのような医療を地域に必要とするのかを考える構成員でもある。

したがって、一般の医療機関との違いを、診療費が安いかどうかで捉えることはできない。違いは、医療を提供する側と受ける側の関係、そして意思決定に誰が参加するかにある。

ここで見えるのは、「出資する人」「運営を考える人」「サービスを受ける人」が、別々に固定されない組織のあり方である。

住宅改修が、居住支援と仕事をつなぐ

韓国住居福祉社会的協同組合の前身は、2008年に約180の自活企業が参加して設立した韓国エネルギー福祉センターである。2015年に社会的協同組合へ移行した。

自活企業は、生活保障制度の受給者やその周辺の低所得層が、共同で事業を立ち上げ、継続的な仕事と所得を得ることをめざす組織である。韓国住居福祉社会的協同組合では、各地の自活企業が、老朽住宅の水回りの改修、省エネルギー化、太陽光パネルの設置などを担ってきた。2018年には269戸を改修し、売上高は33億ウォンだったと報告されている。

改修を受けるのは、自力では住環境を改善しにくい世帯である。一方、工事を担うのも、生活の安定や就労に困難を抱え、公的な支援とつながってきた人びとである。支援を受ける人と提供する人が同一だという意味ではない。しかし、人を支援の対象としてだけ固定せず、別の人の生活を支える担い手にもなる道をつくっている。

また、一軒の住宅改修から生まれるものは、工事の完成だけではない。住環境が改善し、地域に仕事と技能が残り、省エネルギー化によって光熱費や環境負荷の軽減にもつながる。

この事例から見えるのは、一つの支出が、居住支援、就労、技能の蓄積、環境という複数の成果を生む可能性である。

平常時の関係が、危機のときに働く

三つ目は、一つの組織ではなく、地域にある組織どうしの関係である。

新型コロナウイルスの感染が広がった2020年、京畿道城南市では、休校によって学校給食が止まり、農家が野菜を出荷できなくなった。城南市協同組合協議会や生協が野菜を引き取り、組合員や市民に販売した。3日間の購入額は1300万ウォンにのぼった。生産者と協同組合をつないだのは、城南市社会的経済支援センターだった。

また、消毒や防疫を行う社会的企業や協同組合、約20団体が、地域児童センター、高齢者施設、外国人や独居高齢者の住居など約50か所で防疫を行った。費用には、各組織が集めた募金と京畿道の支援金が使われた。住民信用協同組合は、所有する建物に入居する店舗の家賃を、3か月間30%引き下げた。

農家、生協、防疫を担う事業者、信用協同組合、支援センター、地方政府は、それぞれ別の組織である。それでも動けたのは、平常時から地域のなかに関係があり、支援センターが各組織の役割を把握していたからだと考えられる。

この事例が示すのは、地域に残る価値には、施設や金だけでなく、必要なときに協力できる組織間の関係も含まれるということである。

地域に残る新たな関係性

三つの事例に共通するのは、それまで分けられていた人や仕事、組織の間に、新たな関係が生まれていることである。

サリムでは、医療を受ける人と運営を考える人の境界が変わる。住居福祉社会的協同組合では、公的な支援とつながってきた人が、別の人の生活を支える側にもなる。城南市では、それぞれ別に活動していた組織が、地域の課題に共同で対応する関係をつくる。

こうした関係が生まれるなかで、住民が意思決定に参加する回路、地域で働く場と技能、危機のときにも協力できる組織間のつながりが残る。これらは、企業の売上や行政の支出額だけでは捉えにくい。サービスを何件提供したか、いくらで発注したかだけを成果とすれば、その過程で誰が決める力を持ったのか、地域にどのような力が残ったのかは見えなくなる。

第1回で示した「市民の側に残る豊かさ」とは、このような価値を含むのではないか。

組織の名称だけでは保証されない

もっとも、協同組合や社会的企業であれば、これらの価値が必ず生まれるわけではない。

韓国では、政府の支援によって組織数が増えた一方、活動を継続できない組織もある。行政の認証や補助金を得ること自体が目的になれば、地域の必要から事業を考える力が弱くなる。行政の委託を受けても、低い委託料によって働く人の賃金や雇用条件が抑えられるなら、公的サービスを安く外部化しただけになりかねない。

住民参加も、組合員名簿や会議があるだけでは判断できない。利用者や働く人の意見が、事業の内容や利益の使い方に反映されているのか。補助が終わったあとも事業を続けられるのか。行政にとって都合のよい役割だけを担わされていないか。組織の実態を確かめる必要がある。

社会的連帯経済は、行政の責任を住民の善意に置き換えるしくみであってはならない。必要な財源とサービスの基準を行政が保障したうえで、住民や働く人が意思決定に参加できるかが問われる。

基本法が成果として数えるべきもの

社会連帯経済基本法が担おうとしているのは、各地の実践を個別の成功例で終わらせず、国と地方政府の計画、財政、金融、公共調達、統計、評価につなぐことである。

このレポートの視点からいえば、基本法が成果として数えるべきものは、社会的企業や協同組合の数、売上高、契約件数だけではない。地域に残る新たな関係性である。

住民がサービスの受け手にとどまらず、意思決定にも参加できるようになったか。支援される側に置かれてきた人が、別の人や地域を支える担い手にもなれたか。異なる組織と行政が、地域の課題に共同で対応できる関係を築いたか。こうした変化を政策の成果として位置づけ、検証できるかが問われる。

法律の理念と、実際の予算、調達、評価との間には、なお距離がある。次回は、韓国の基本法が、分かれてきた政策をどのようなしくみでつなごうとしているのかを、政府の基本計画、関係省庁、地方政府、公共調達、金融、行政評価から見ていく。

主な資料

※韓国の法律・政策の原語は「社会連帯経済」。本レポートでは、日本語で国際的に用いられることの多い「社会的連帯経済」を表題と本文の基本用語とした。

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