【住之江抽水所事故検証②】ゲリラ豪雨がひき起こした内部破壊の衝撃

レポート
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今回も前回に引き続き、排水ポンプが水没してしまった住之江抽水所事故について、ぼう•けん 防災×建築計画研究所 のぼう・けんさんのリポートをベースにお届けします。

「原因究明の取組みについて」

2026年7月17日、大阪市は事故発生から約3週間ぶりに「原因究明の取組みについて」と題する公式文書(調査状況)を公表した。
排水作業が進み、地下5階までの目視調査によって明かされたのは、行政が当初説明していた「単純な水没事故」のイメージを覆す施設内部での凄まじい「物理的破壊」の痕跡であった。

公表された「3つの現場事実」

大阪市が公表した調査状況の要点は、以下の3点に集約される。
1. ポンプ自体の破損はなし(地下5階最下層の目視確認)
2. なにわ大放水路とポンプ施設をつなぐジョイント部の破損
3. 地下階における浸水による仕切り壁の破壊


ポンプ本体が損壊したのではなく、「水密が保たれているはずの空間の障壁」が内部から破壊されていたという事実である。
公表された調査報告の事実のみを紡ぎ合わせ、どのようなメカニズムで事故が起こったのか、一級建築士の視点から読み解く。

[検証①]なぜ、ジョイント部分が破損したのか

出典:大阪市『「なにわ大放水路」の雨水ポンプ運転不能の原因究明の取組みについて』(令和8年7月17日公表資料)

建設港湾委員会(26.06.30)(設備課長)
今回の豪雨は、なにわ大放水路の集水区域である、平野区内の観測所で1時間に、83mmの降水を記録するなど、設計の想定を上回る降水が発生し、通常は雨水が入ることのないエリアに何らかの原因で、水が侵入しポンプ設備が水没したものでございます。

「入るはずのない場所に水が入った」と強調しているが、構造を知る立場からすれば、なぜそこまで断定的な説明ができるのかは疑問が残る。

頑丈な巨大トンネル「なにわ大放水路」と強固な「住之江抽水所」施設は、それぞれが独立した構造体で、その両者を繋ぐジョイント部には柔軟性(可撓性)の高い「ゴム」が使われている。
大地震が起きれば、この接合部があえて外れたり破損したりすることで構造物の致命的な破壊を防ぎ、地震後にズレを補正して繋ぎ直すことを前提とした設計となっている。

つまり、ジョイント部は最初から「いざという時には外れる・破れる」ことは、織り込むべき前提であり、経年劣化がなかったとしても、設計を超える過度な水圧がかかれば、この一番弱い部分が破断する可能性が高い。

したがって本来であれば、「ジョイント部分は想定外の負荷では破れるかもしれない」という前提のもと、万が一そこからポンプ室へ水が侵入しても、施設の心臓部であるエンジン室や電気室だけは浸水を免れる「多重防御(フェイルセーフ)」が機能していなければならなかったはずである。そしてその説明はまだない。

[検証②]仕切り壁の破壊が意味する水圧

出典:大阪市『「なにわ大放水路」の雨水ポンプ運転不能の原因究明の取組みについて』(令和8年7月17日公表資料)

公表された現場写真の中に、地下階の「仕切り壁」が室内側に向かって膨らみ、破られていた写真が含まれている。
写真の「仕切り板」は、鉄筋コンクリート造の上部に取り付けられた押出成形セメント板でできており、外壁からの漏水と結露を防ぐ二重壁であると思われる。
しかしこの「仕切り壁」は、微量な湧水や結露を排水溝へ逃がすための空間のためにしきってあるものであり、「大量の水圧を受けること」を想定しては設計されていない。躯体(コンクリート外壁)と仕切り壁の隙間は、本来は水で満たされる場所ではないからだ。

では、この地下施設において、破損した二重壁を設置していた室とはどこになるのか。

[必ず使う部屋]電気室・機械室・サーバー室
一滴の水や湿気も許されない精密機器の室である。外壁からのわずかな漏水や結露が電気盤にかかると、施設全体のシステムが全停止する致命的な事故になるため、二重壁で完全にガードする。

[使うことが多い部屋]地下通路(配線トレンチ含む)
重要施設の大切なケーブル(通信光ファイバーや高圧線)が通る動脈です。漏水による機器トラブルや、歩行者の転倒・カビを防いで、内部を乾燥させるために二重癖で覆う。

[使わない部屋]ポンプ室
もともと水を取り扱う室。メンテナンスや結露で床が濡れることを前提に設計されており、床の排水溝で水を流せるようになっており、コストをかけて二重壁を作る必要はない。

建築的な常識から考えると、今回破壊された「仕切り壁」が存在する場所は、まさに「水が入ってはならない重要区画」であったはずだ。

その仕切り壁が室内側へ向かって変形し、押し破られていたという事実は、躯体と仕切り壁の隙間に想定外の大量な水が一気に流れ込み、内部から膨大な水圧をかけたことを物理的に証明している。

では、水は一体どこから侵入したのか。

出典:日本防水材料協会「防水用語事典」より(筆者により一部加工)

http://www.jwma-yogo.net/jp/%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E4%BA%8C%E9%87%8D%E5%A3%81/

断定はできないが、二重壁の底の「水抜きルート」から逆流して二重壁の隙間に水が流れ込んだのではないかと推測している。

[検証③]最初の写真から読み解く真実

出典:大阪市建設局提供(2026年6月26日午前7時ごろ大阪市建設局撮影)
出典:株式会社荏原製作所 Webサイト「納入事例:住之江抽水所」より引用(筆者により一部加工)

建設港湾委員会(26.06.30)(建設局下水道部長)
報道発表までの時系列ですが、当日、6時30分頃に、運転管理を実施しておりますクリアウォーター大阪からの一報により、不具合を把握し、その後、6時57分までに、設置しているポンプ6台が、水没したことで、運転が不可能となりました。

赤いフロートはエンジン上部のデッキの上にある。6/26 午前6時30分の第一報から30分後の午前7:00には、このエンジン上部デッキまで浸水していたことになる。

出典:大阪市『「なにわ大放水路」の雨水ポンプ運転不能の原因究明の取組みについて』(令和8年7月17日公表資料)(筆者により一部加工)

問われる「事故の本質」

大阪市は「想定以上の大雨」という言葉で状況を説明しようとしている。しかし、調査報告書が示していたのは、ジョイント部分の破損をきっかけに、内部の壁が内圧で突き破られて全滅したという構造的破綻のプロセスである。
なぜ接続部や仕切り壁という「境界線」が一瞬で突破されてしまったのか。
なぜ一つの破綻が施設全体の全滅へと直結する構造になっていたのか——。

公開されているわずかな調査報告書からは、行政の弁明とは裏腹に、福島原発事故以前に建設された巨大インフラ施設が抱える「構造的脆弱性」という、極めて深刻な課題がうかがえる
これから開かれる委員会では、一体どのような事実が新たに明かされていくのか。その真相を追っていきたい。

【次回予告】
臨時建設港湾委員会で明らかになった衝撃の事実。
質疑応答から、さらに事故の深層へと迫る。

ぼうけんさんって。
ぼう•けん 防災×建築計画研究所 所長
駅前再開発や公共建築設計に携わる一級建築士。建築計画に防災視点を取り入れ、都市のレジリエンスを強化。平時は経済で稼ぎ、災害時は命を守るフェーズフリー設計を提唱。持続可能な次世代防災都市モデルを提案されています。

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