今回から数回に渡り、排水ポンプが水没してしまった住之江抽水所事故について、ぼう•けん 防災×建築計画研究所 のぼう・けんさんのリポートをベースにお届けします。
事故概要と現状
2026年6月26日の大雨により、住之江抽水所における地下5階ポンプ室及び電気室が水没し、ポンプ全6基が機能停止。
最重要インフラ施設での電気室水没という信じられない事故が発生した。
被害総額は約300億円、完全復旧までに「4年」。住之江区、住吉区、東住吉区、平野区、阿倍野区、生野区は、今後ゲリラ豪雨、台風のたびに、冠水リスクに晒されることとなっている。
大阪市:報道発表資料 住之江抽水所雨水ポンプの停止について(第1報)

その後の経過はこちら
「なにわ大放水路」の雨水ポンプ運転不能の原因究明の取組みについて
上記ページでは、6月26日事故発生から、現在に至るまでの現況を淡々と伝えている。7月14日時点で、地下会にて浸水による仕切壁の破損が確認できたとレポートされている。
最後には、
「引き続き原因究明の取組みを進めるとともに、復旧に向けて鋭意対応してまいります。」とし、このページの作成者・問合せ先:大阪市 建設局下水道部下水道課で締めくくられている。(以下写真は上記ページから引用)



今回の事故に対する認識
「前回のような雨が何時間も降り続くというのはそんなにない事態だとは思う。その場合には引き続き緊張感は増すと思うが、今でも緊急措置としては手当てが進んできていて、かつエンジンがもし回復できればさらに排水能力は上がるのではないかと思います」(大阪市 横山英幸市長談)
との横山市長の会見が発表されている。
建設港湾委員会(26.06.30)
(建設局長)住之江抽水所は、大阪市東南部の浸水対策を担う浪速大水路の幹線に流入する雨水を、河川へ排水するための施設で、平成12年4月より稼働しているものですが、26日未明より降り続いた想定以上の大雨により、通常は雨水が入ることのないポンプ室に何らかの原因で雨水が侵入し、同日、午前6時57分までに、設置している6台の雨水排水用のポンプ設備がすべて水没し、運転が不能となったものでございます。
建設局長はこのように会見している。
大阪市地域防災計画との矛盾
しかしよく考えてほしい。
そもそも災害級の大雨に対応するための最重要インフラ施設なのに、その施設が想定外の水の侵入により、全滅することには大きな違和感がある。
市長も建設局も「想定以上の大雨」と弁明しているが、これは大阪市が定めた『大阪市地域防災計画』と明らかに矛盾しているからだ。
2015年の「水防法・下水道法改正」により、国は自治体に対して「想定し得る最大規模の豪雨や、下水道の能力を超える雨(内水氾濫)」を前提とした計画の見直しを迫っていた。それに先立って大阪市では、2014年10月に修正された大阪市地域防災計画では、施設内への浸水を前提として、主要設備の嵩上げ・高所移設、防水扉の設置、主要設備の耐水化、予備電源・予備燃料の確保を進める方針を明記していた。
そしてその対応されていれば、ポンプ室の主要設備(電気室、エンジン室)は施設内に水が侵入しても、守られているはずだった。
ポンプ場の浸水予防対策
災害時における排水機能の確保のため、ポンプ施設の耐水化は重要な要件であり、津波や高潮、豪雨による浸水を想定した「計画浸水予防高」等を考慮した施設配置、建築物の防水扉の設置等の耐水化対策を施すこととする。なお、計画浸水予防高については、必要に応じて見直しを検討する。
また、施設内に浸水してもポンプ機能を確保できるように、電源設備等の主要設備の嵩上げ又は高所への移設、主要設備(ポンプ、電源設備等)が設置している部屋への防水扉等の設置、主要設備の耐水化等の対策も進める。
さらに、浸水時の予備燃料不足等による機能低下を防ぐため、予備電源や予備燃料等の確保に努める。
大阪市地域防災計画<共通編・対策編> 令和7年3月より引用
もう一度抜書きしておこう。
「施設内に浸水してもポンプ機能を確保できるように(中略)主要設備の耐水化等の対策も進める。」
さらに国土交通省の公式サイトには、2011年に大阪市が作成した「大阪市建設局・地震津波対策基本プラン(下水道編)(案)」が残っている。
大阪市建設局・地震津波対策基本プラン(下水道編)(案)―国土交通省掲載PDF
この資料では、すでに次のように記載されている。
本市下水道施設は、浸水対策を主たる事業の一環とする性格上、もともと耐水性の保持が重要な要件となっており、現在、高潮や豪雨による浸水を想定した「計画浸水予防高」を考慮した施設配置、建築物の防潮扉・角落としによる対策を実施している。(基本プランより)
履行されなかった地域防災計画
浸水は「あってはならない想定外」ではなく、「起こり得る前提として備えるべき事態」であり、少なくともその認識もあった。それにもかかわらず、6台すべてのポンプが水没し全滅したという事実は、行政が自ら定めた防災計画を形骸化させていたことを物語っている。
主要設備とは、ポンプ、電源設備等のことを指す。ポンプ室だけが水没しても運転不能にはならない。運転不能になったのは、インフラの心臓部である電気室、エンジン室まで水没させたからだ。
これはついては言い逃れできない。仮に想定以上の雨水が施設内に侵入したとしても、主要設備(電気室、エンジン室)さえ耐水化して守り抜いていれば、全てのポンプが同時に稼働しなくなる最悪の事態は防げたはずである。
ここまで読んでいただいた方には、東日本大震災時の福島第一原発事故を想起したのではないだろうか。
2011年の東日本大震災(福島第一原発事故)以降、重要インフラ施設の電気室などを水が入らない構造(水密化)にすることは、日本のインフラ業界全体の最重要な教訓であり、最優先で取り組むべき「常識」となっていたはずだ。
大阪市は原発事故後の2013年に住之江抽水所の無人化工事を行い、2014年には地域防災計画で主要設備の耐水化を自ら義務付けた。現場から人がいなくなる無人化を進めるのであれば、不測の事態に備えたハード面の耐水化はなおさら不可欠であったはずである。
その間に、夢洲IRや、万博、グランフロントやなにわ筋新線、大阪公立大森ノ宮キャンパス等、華やかなプロジェクトが進行する中、10年以上の歳月があったにもかかわらず、街を守る命綱である抽水所の抜本的な浸水対策は放置され続けてきたのある。
また最も基本的な約束事である地域防災計画すら守られていなかったという事実は、市が掲げる他のすべての防災対策までもが、実は形ばかりで機能していないのではないかという根深い疑念を抱かせている。
効率化や無人化を優先し、業界の常識となっていた電源対策を怠った結果が、今回のポンプ全滅という最悪の事態を招いたのは間違いないであろう。
市長や建設局の答弁は、淡々と想定外の事実というように述べられているように記載されているが、これは避けることのできない天災などではなく、10年以上にわたる行政の「不作為」が引き起こした人災と言わざるを得ない。
公開されている大阪市調査資料から推測する「事故原因検証レポート」を原因究明、再発防止策に役立ててほしいと思い「建設港湾委員会」議員に提出した。
有識者会議で真の事故原因が語られるのか、注視していく必要がある。
本当の危機は「想定外の大雨」ではなく、大阪市の危機管理意識にある。
【次回予告】
②第一報から27分で全6基水没の謎
外径81m深さ40.9mの円筒形の巨大な地下要塞であるポンプ場が短時間で全6基水没し、全滅に至った理由とは。大阪市調査資料の現場写真から事故原因を読み解く。
ぼうけんさんって。
ぼう•けん 防災×建築計画研究所 所長
駅前再開発や公共建築設計に携わる一級建築士。建築計画に防災視点を取り入れ、都市のレジリエンスを強化。平時は経済で稼ぎ、災害時は命を守るフェーズフリー設計を提唱。持続可能な次世代防災都市モデルを提案されています。

