社会は誰によって、どのように自らを評価するのか

レポート
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―「進化する自治」が問う巨大イベント

万博は何のために開かれるのだろうか。

国際博覧会協会(BIE)は、万博を単なる展示の場ではなく、人々が未来について考え、知識や経験を共有する場として位置づけている。

国際博覧会協会(BIE)は、万博を単なる展示の場ではなく、人類が直面する課題に対する解決策を共有し、教育・イノベーション・国際協力を促進する場として位置づけている。
Bureau International des Expositions (BIE)
What is the BIE


大阪・関西万博の公式サイトでも、「世界の知識を持ち寄り、新たなアイデアを生み出し、共有する場」と説明されている。
大阪・関西万博 公式Webサイト
開催概要


また近年のBIEは、持続可能性を会場内の環境負荷低減だけではなく、長期的な社会的影響や知見の継承まで含めて捉えようとしている。

BIEは2017年、「Sustainable Innovation and Legacies in Expos of the 21st Century(21世紀の万博における持続可能なイノベーションとレガシー)」と題した特集を組み、その機関誌の中で「Intangible and Sustainable Legacies(無形で持続可能なレガシー)」という章を設けている。
そこでは、施設や建築物だけではない、知識や経験、社会的な学びの継承についても議論されている。

「Sustainable Innovation and Legacies in Expos of the 21st Century」

もしそうであるなら。万博で本当に問われるべきものは、来場者数や経済効果だけではない。
社会が何を学び、何を未来へ残したのか。
そのこともまた問われるべきなのではないだろうか。

私たちはこれまで4回にわたり、大阪・関西万博の環境評価を追ってきた。
第1回では、建設工事廃棄物が予測を大きく上回る一方で、「再資源化率92%」が成果として示されていることを取り上げた。
第2回では、多くの評価項目が並ぶ一方で、何が測定対象から外れているのかを見た。
第3回では、夢洲という会場の内側だけを見ていてよいのか、という評価範囲の問題を考えた。
そして第4回では、巨大イベントのレガシーとは何かについて考えた。
一見すると、それぞれ別の問題を扱っているように見える。しかし、その根底には共通するテーマがあった。

何を成功とするのか。
何を測るのか。
どこまでを評価対象とするのか。
何を未来へ残すのか。
その判断は誰が行うのだろうか。


大阪・関西万博の環境評価を追う中で見えてきたのは、環境問題だけではなかった。
社会は誰によって、どのように自らを評価するのか。
そのことを考える道程だったように思える。

社会には様々な評価主体が存在する

大阪・関西万博の環境評価について考えてきた中で、改めて気づかされたことがある。社会には様ざまな評価主体が存在しているということ。

行政は制度に基づいて事業を評価する。
専門家は、その評価手法や科学的妥当性を検証する。
研究者は長期的な社会的影響を分析する。
報道機関は、それらを社会へ伝え、議論の材料を提供する。
そして市民は、生活者や地域の視点から、その事業が社会にどのような影響を与えるのかを見つめる。

それぞれが見ているものも、評価する基準も異なる。行政が重視する数値と、市民が感じる変化は一致しないこともある。専門家が問題視することが、市民には見えにくい場合もある。逆に、市民が抱く違和感が制度や評価指標には現れないこともある。
しかし、それはどちらかが正しく、どちらかが間違っているということではないだろう。
社会は、一つの視点だけでは捉えきれないほど複雑だ。だからこそ、多彩な立場からの、多様な評価が存在する意味がある。異なる立場からの評価を重ね合わせることで、社会は初めて自らの姿を立体的に現す。

SDGs万博市民アクションは何を評価しようとしたのか

大阪・関西万博をめぐっては、行政や博覧会協会による環境評価とは別に、市民団体による独自の評価活動も行われてきた。

SDGs万博市民アクション※1もその一つである。
同団体は、SDGsを掲げる大阪・関西万博について、市民の立場から環境や社会への影響を検証するため、複数の市民団体や研究者らが参加して活動を続けてきた。その特徴は、行政評価とは異なる視点を持っていたことにある。
行政による環境評価は、騒音や振動、大気、水質、生態系など、あらかじめ定められた項目について影響を予測し、基準値との比較を行う。それは重要な評価である。しかし、市民アクションが関心を寄せたのは、それだけではなかった。

気候変動への影響は十分に考慮されているのか。
地域社会への影響はどうか。
開催後の土地利用はどうなるのか。
万博が掲げるSDGsの理念は実現されているのか。

そのような視点から、独自の調査や現地確認、学習会、市民評価書の作成が行われてきた。

SDGs万博市民アクションの活動は、突然生まれたものではない。その背景には、東京2020オリンピック・パラリンピックにおいて、市民による持続可能性評価を行ったNGO/NPOネットワーク「SUSPON」※2の取り組みがあった。
"SUSPON webサイトリンク"
SUSPON Sustainable Sport NGO and NPO Network
https://www.gef.or.jp/suspon/

市民の立場から巨大イベントを評価し、学びを共有するという経験は、大阪・関西万博の市民評価活動にも受け継がれている。そして現在、その知見は横浜GREEN×EXPO 2027へも共有されようとしている。
ここで重要なのは、市民評価の結論そのものではない。社会の中に、異なる立場から評価し、学び、知見を蓄積しようとする主体が存在しているということにある。
それは民主主義社会において不可欠な役割の一つであり、市民社会が担ってきた重要な機能でもある。評価し、学び、共有し、次へ引き継ぐ。その営みは、巨大イベントを単なる消費の機会ではなく、社会が学ぶ機会として捉えようとする試みでもある。

社会が自らを評価する能力

企業には決算がある。行政には監査がある。では、社会には何があるのだろうか。社会もまた、自らを評価し、学び、その経験を知見として蓄積していくことが必要ではないか。
私たちは日常の中で、様々な評価に触れている。行政の政策評価もあれば、研究者による分析もある。報道による検証記事を読み、市民同士で意見を交わすこともある。社会はそうした多様な評価を比較しながら、自らの姿を理解しようとしている。

行政評価。
専門家評価。
研究者による分析。
報道による検証。
そして市民評価。


それぞれは異なる立場から社会を見る。その違いを比較し、共有し、議論し、知見として蓄積していく。社会が学ぶとは、こうした営みを積み重ねることなのかもしれない。
私たちはこれまでの連載で、

   評価
   ↓
   知見
   ↓
   改善
   ↓
   継承
   ↓
  学ぶ力

という循環について考えてきた。
社会が自らを評価する能力
行政評価。
専門家評価。
研究者による分析。
報道による検証。
そして市民評価。
↓
評価の共有
↓
社会が自らを評価する能力
↓
学びを蓄積する都市
巨大イベントの環境評価も、その循環の中に位置づけることができる。重要なのは、一つの評価に従うことではない。異なる評価を持ち寄り、社会が自らを理解する力を高めていくことにある。
私たちは万博の環境評価を検証する中で、「社会が自らを評価する能力」というものの重要性を感じるようになった。それは、社会が学ぶための基盤とも言えるのではないだろうか。

万博の環境評価が残したもの

私たちは万博の環境評価を追い続けてきた。しかし見えてきたのは、環境問題だけではなかった。社会が自らを評価し、学び、その知見を次へ継承することの大切さだった。
東京2020でのSusponの活動から、大阪・関西万博での市民評価へ。そして、その知見は横浜GREEN×EXPOへ引き継がれようとしている。
そこには、社会が学んだことを失わず、次へ渡そうとする営みを見ることができる。もし万博が未来社会を考える機会であるなら。そのレガシーとは施設や建築物だけではない。社会が自らを評価し、学び、知見を継承する力もまた、未来へ残されるべきレガシーなのではないだろうか。
そしてそれは、私たちが「進化する自治」と呼ぼうとしているものの、一つの姿なのかもしれない。
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