無償で渡された公共財産――その責任は誰が負うのか 大阪市高校財産無償譲渡をめぐる住民訴訟の現在地
ucoでは、これまで6回にわたり、大阪市による市立高校財産の無償譲渡をめぐる住民訴訟について、その経過と論点を整理してきた。
本件は、単なる政策判断ではなく、公共財産の扱いと行政の意思決定のあり方が問われる問題として続いている。
そして現在も、損害賠償を問う訴訟が続いている。
差し止めから損害賠償へ
この無償譲渡については、すでに住民訴訟として争われてきた。
当時はまだ譲渡前であったため、原告側は「契約の差し止め」を求めて提訴し、最高裁まで争われたが、結果として請求は認められなかった。
その後、実際に無償譲渡が行われたことから、今回の訴訟では請求の内容を「差し止め」から「損害賠償」へと切り替えて行われている。
積み重ねられてきた意見書の意味
本件訴訟においては、これまで提出されてきた法学者による意見書が、引き続き重要な位置を占めている。
2022年には、稲葉一将教授(名古屋大学大学院)が、地方自治法に基づく財産処分や議決のあり方について、法学的観点から意見書を提出しており、本件の基礎的な法的枠組みはこの時点で提示されていた。
その後、矢野裕俊教授(武庫川女子大学)の意見書では、教育委員会制度や総合教育会議の運用を含めた教育行政の手続過程に問題があったのではないかという点が指摘され、論点は制度運用の側面へと広がった。
そして今回提出された駒林良則教授(立命館大学)の意見書では、これらの議論を踏まえつつ、地方自治法上の評価に加えて、行政組織内部における意思決定過程や実務的な手続のあり方に焦点を当てている点に特徴がある。
すなわち、本件における争点は、新たに生じたものではなく、これまで積み重ねられてきた論点が、法・制度・実務の各層において提示されている。
議会はほんとうに「議決」していたのか
本件において、もう一つの大きな争点となっているのが、議会における議決の扱いである。
裁判所は、無償譲渡について「議決があったと認められる」と判断している。
しかしその前提となる事実関係については、慎重に検討されるべき論拠がある。
本件では、無償譲渡そのものが明確に「議題」として提示されていたわけではなく、口頭でのやり取りなどを根拠として、議決の存在が認定されている。
もしこのような認定が広く認められれば、議会における議決の成立要件そのものを大きく緩和することになりかねない。全国の地方自治体にも大きく影響を及ぼす問題である。
さらに、当時の議員へのアンケートにおいても、無償譲渡が議決の対象に含まれていたと認識する議員と、そうでない議員とで見解が分かれている。
この点は、議会の意思がどのように形成され、どのように確認されるべきかという、議会制度の根幹に関わる問題を提起している。
大阪市の主張との違い
一方で大阪市は、本件の無償譲渡について、違法性はないとの立場をとっている。
その根拠としているのが、大阪市財産条例第16条である。同条例に基づき、適法な手続のもとで財産処分が行われたというのが大阪市の基本的な主張である。
したがって本件では、
●地方自治法に基づく議決のあり方
●財産条例に基づく処分の適法性
という、異なる法的枠組みの評価が交錯している。
※大阪市財産条例
第16条 普通財産は、公用又は公共用に供するため特に無償とする必要がある場合に限り、国又は公法人にこれを譲与することができる。
争点はどこにあるのか――三者の論拠の違い
本訴訟を理解するうえで重要なのは、争点そのものだけでなく、原告・被告・裁判所がそれぞれ異なる視点から本件を捉えている点である。
原告側が重視しているのは、議会の議決がどのように成立したのかという制度の根幹である。
すなわち、議題として明示されていない事項について、口頭でのやり取りなどをもって議決があったと認めることが許されるのかという点にある。
これに対し被告である大阪市は、個別の手続の適法性を中心に主張を構成している。
一方で裁判所は、「当該手続の中で議決があったと認められるか」という事実認定の問題として本件を整理しているとみられる。
このため本件では、
●原告:議会制度の原則
●被告:手続の適法性
●裁判所:事実認定
という視点の違いが存在している。
本件の争点は、単なる結論の是非ではなく、何を基準として「議決」と認めるのかという判断枠組みそのものに関わっている。
問われているのは意思決定の構造
本訴訟は、単なる財産処分の適否を問うものではない。
行政の意思決定がどのように形成され、どの段階で法的・制度的な統制が機能しなかったのか。そして、その結果として生じた判断に対して、誰が責任を負うのか。
その構造そのものが問われている。
本訴訟の次回口頭弁論は、2026年4月24日に予定されている。
これまで積み重ねられてきた論点、とりわけ意見書および議決の評価をめぐる整理が、どのように示されるのかが注目される。
本レポートでは、今後もこの裁判の経過と論点を継続して追っていく。
この問題に関心のある方は、ぜひ傍聴ください。
大阪市学校財産無償譲渡損害賠償請求事件
口頭弁論
2026年4月24日(金)14:30開廷
大阪高等裁判所第82号法廷
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