行政が買うもの、その支出で地域に残るもの
このレポートの作成方法と資料上の限界
筆者は韓国語の法律原文を独力で読解できる者でも、韓国の法制度を専門とする研究者でもない。本レポートでは、韓国政府、国会、法令情報などが公表した一次資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本の行政制度との比較、原稿の下書きを行っている。二つの参考資料も、主としてこの方法によって作成したものである。
そのうえで、何を問題として捉えるか、日本の制度とどのように比較するか、どの記述を採用するかについては、筆者が判断し、編集している。
法律に関する記述については、韓国語原文に加え、日本協同組合連携機構が公開した日本語仮訳などとも照合する。ただし、翻訳や制度の理解に誤りが含まれる可能性を完全には排除できない。このレポートは法律の専門的な逐条解説ではなく、現時点で確認できる資料から制度の意味を考えようとする調査と検討の記録である。
基本法は国会を通過したばかりであり、具体的な施行令、基本計画、予算、評価方法などはこれから明らかになる。新たな資料が公表された場合や、記述の誤りが確認された場合は、随時修正する。
韓国の制度を礼賛することが目的ではない。市場だけでも行政だけでも解決できなくなった問題に対して、社会はどのような第三の制度をつくることができるのか。そして、自治体の成果を「行政に残った金」ではなく「市民の側に残った豊かさ」によって測ることができるのか。その問いを、読者とともに考えていきたい。
前回は、韓国の社会連帯経済基本法が、地域に必要な仕事と資金をどうつなごうとしているのかを見た。ここでいう「地域に必要な仕事」とは、食事の準備が難しい人への配食や、移動手段を持たない人の交通など、住民のくらしの困り事に応える仕事を指している。法律によって行政に提供が義務づけられたサービスだけを意味するものではない。しかし、設備を整えるために資金を借りられても、それだけで仕事を続けられるわけではない。毎月の人件費や材料費を賄い、借入を返すには、継続して得られる収入が必要になる。
その収入を支える一つの経路が、国や自治体による発注である。
行政は、物品を購入し、施設の清掃や維持管理を発注し、くらしを支えるサービスの提供にもお金を使っている。こうした製品やサービスを契約によって調達することを「公共調達」という。税金の使い方は、何の事業にいくら予算を付けるかだけで決まるのではない。誰から買い、どのような条件で仕事を任せるかによっても変わる。
発注先が変われば、仕事の収入を得る事業者も変わる。契約条件が変われば、そこで働く人の賃金や、提供できるサービスの水準も変わり得る。つまり行政支出には、必要な物やサービスを確保するとともに、どのような仕事や事業を支えるかを左右する働きがある。
もちろん、価格を確かめ、無駄な支出を抑えることは必要だ。ただ、安く契約できたことだけを成果とすれば、その価格を実現するために、働く人や利用者が何を負担したかは見えにくくなる。
韓国の基本法を手がかりに考えたいのは、行政が支払うお金によって、地域にどのような仕事、所得、サービスが残るのか。その結果まで、税金の使い方を判断する基準にできるのか、ということである。
優先購入は、仕事への入口を広げる
韓国では、基本法ができる前から、社会的企業の製品やサービスを公共機関が優先して購入する制度があった。社会的企業育成法には、優先購入の促進や、購入計画・実績を報告する規定が置かれている。今回の基本法で、公共部門との取引が初めて始まるわけではない。[1]
基本法第19条は、社会的企業や協同組合などを含む「社会連帯経済企業」が生産する製品・サービスについて、購入を促し、販路を広げるための支援を国と自治体に求める。公共機関には優先購入の促進を求め、購入計画にも区分して組み込むことを定めた。[2]
さらに第19条第4〜7項では、公共機関が、大統領令で定める比率以上の購入目標を計画に含め、その計画を履行することを求めている。中小ベンチャー企業部長官は、計画の改善を勧告し、購入実績の提出を要求し、目標に著しく達していない機関には改善措置を求めることができる。公共機関は、特別な事情や理由がなければ、これらの勧告や要求に対応しなければならない。購入を勧めるだけでなく、計画と実績を点検するしくみである。ただし、具体的な購入目標の比率は法律本文に数値で定められておらず、大統領令に委ねられている。[2]
地域の事業者から見れば、行政を取引先として仕事の収入を得る入口を広げる規定である。補助金によって活動費を支える場合と、提供した製品やサービスへの対価を受け取る場合では、お金の意味が異なる。受注が続き、その対価で必要な費用を賄えれば、人を雇い、設備を維持し、事業を続ける見通しにつながる。
ただし、優先購入の対象となることと、個々の事業者が契約を得られることは別である。行政が必要とする品質や供給量に対応できるか、契約への参加条件を満たせるか、価格が成り立つかという問題は残る。
また、社会連帯経済企業から購入したという事実だけでは、その支出が地域にどのような成果をもたらしたかはわからない。対象企業から買ったという実績に加えて、その仕事が誰の所得やくらしを支えたかを確かめる必要がある。
小さな事業者が参加できる発注の規模や条件、必要な情報を得られる窓口、契約に対応するための支援まで整ってこそ、優先購入は地域の仕事への入口になる。
公共サービスを任せるとき、何を選ぶのか
物やサービスを購入する規定に加えて、基本法第20条は、国や自治体が公共サービスの提供業務の一部を民間に委託する場合、社会連帯経済企業を優先的に考慮するよう努めることを定めている。[2]
ここは、必ずその企業に委託しなければならない、という規定ではない。優先的に考慮するための基準や手続きは、関係法令の範囲で大統領令に委ねられ、自治体はその範囲で条例を定めることができる。[2]
委託先を考える際に問われるのは、同じ業務をいくらで引き受けられるかだけではない。事業の対象となる住民の状況や困り事を把握しているか。利用者の声を受け止められるか。働く人が無理なく仕事を続けられるか。サービスを担う地域の力が育つか。こうした点を、選定や契約条件にどう反映できるかが課題になる。
第20条が国や自治体に求めているのは、民間委託を行う場合に、委託先の候補として社会連帯経済企業を優先的に検討するよう努めることである。この条文自体が、行政に新たな民間委託や委託の拡大を求めているわけではない。[2]
この規定を実際の事業にどう生かすかを考えるうえで、筆者は、発注する国や自治体の判断と責任にも目を向けたい。国や自治体は、法令によって担う業務と、住民のくらしの困り事を踏まえ、事業として提供するサービスの内容、対象者、提供水準を明確にする。そのうえで、行政が直接提供するのか、外部へ委託するのかを判断する。この順序で考えるべきだ、というのが本稿の立場である。
社会連帯経済企業への委託件数や金額を増やすことだけを行政の成果とすれば、サービスが対象者に届いたか、提供水準を維持できたかが評価から抜け落ちかねない。行政は、委託先の名称や組織の形に加えて、事業の実施状況と契約条件を確かめる必要がある。
「地域に残る価値」は、何を見ればわかるのか
では、価格だけでは捉えられない成果を、どのように確かめるのか。
社会的価値を評価するしくみは、基本法の成立以前から韓国にあった。その一つが、韓国社会的企業振興院の「社会的価値指標(SVI)」である。振興院はSVIを、社会的経済の事業者が組織の運営や事業を通じて生み出す社会的な成果と、その影響を評価する指標として説明している。[3]
SVIは、次の三つの観点から、計14の指標を用いて評価する。[3]
| 評価の観点 | 指標の内容 | 配点 |
|---|---|---|
| 社会的成果(9指標) | 社会的価値を追求しているか、成果を管理する体制があるか、事業が社会的価値に向けられているか、他の社会的経済企業や地域社会と協力しているか、利益などを社会へ還元しているか、意思決定への参加、働く人の賃金水準や能力向上への取り組み | 60点 |
| 経済的成果(4指標) | 雇用、売上、営業面の成果、労働生産性 | 30点 |
| 改善や新しい取り組みの成果(1指標) | 製品・サービスや事業運営を改善する取り組み(原文の区分名は「革新成果」) | 10点 |
例えば、社会に役立つという目的を掲げるだけでなく、地域と協力して事業を行っているか、働く人にどの程度の賃金を払っているか、事業を継続するための経済的な成果があるかも評価する。実際に生まれた成果に加えて、それを支える運営体制や取り組みも評価対象に含むしくみである。[3]
基本法第16条は、社会連帯金融の制度整備の一つとして、社会連帯経済組織が生み出す社会的価値を測定・評価する道具の開発や、情報を公表する制度の導入を国に求めている。ここで定めているのは金融を支える制度整備であり、公共調達のすべてに共通の評価点数を付けるしくみが完成した、という意味ではない。[2]
それでも、行政支出の成果を考えるうえで、社会的価値を確かめるという視点は重要になる。何を確かめるべきか、前回に続いて配食の事業を例に考えてみよう。以下は、制度の働きを考えるための仮定例である。
自治体が、高齢者への配食を地域の協同組合に発注するとする。納品した食事の数と一食あたりの価格を確認すれば、契約した業務を履行したかはわかる。しかし、それだけでは、配食が地域で果たした役割まではわからない。
食事の準備が難しい人に、必要な食事が届くようになったか。配達の際に気づいた困り事を、本人の意思を尊重しながら相談や支援につなげられたか。調理や配達をする人に、仕事を続けられる賃金が払われたか。地域の生産者から継続して食材を買うことができたか。
これらは、同じ「配食」という仕事から生まれ得る、異なる成果である。ただし、「社会連帯経済企業」に該当する事業者だからといって、こうした成果が必ず生まれるわけではない。実際にどう運営し、誰に何が届いたかを確かめる必要がある。
その際、発注する行政は、求める業務を明確にしなければならない。食事を届けることに加えて、見守りや相談への連絡も求めるなら、それに必要な人員、時間、費用を契約に含める。地域の組織が善意で行った追加の仕事を成果として数え、対価は食事代だけにとどめるなら、評価は負担の押しつけになってしまう。
また、成果を示す書類の作成に追われ、小さな組織ほど参加しにくくなる評価方法も避けなければならない。数字にできる実績と、利用者や働く人の声を組み合わせ、事業の規模に見合った方法で確かめる必要がある。
融資と発注をつなぎ、仕事を続ける
ここで、前回扱った社会連帯金融との関係が見えてくる。
配食の組織が、調理設備や配達車を整えるために資金を借りる。自治体との契約から得る収入で、食材費、人件費、設備の維持費を払い、借入を返していく。金融は仕事を始めたり広げたりするための資金を支え、発注への対価は、その仕事を続ける収入を支える。両方が成り立って、初めて事業を継続する道筋になる。
基本法は金融と優先購入の双方に制度上の土台を置いた。しかし、融資の審査と公共契約の選定は別の手続きであり、法律が一体の資金供給と受注を保証するわけではない。[2]
だからこそ、発注が増えたかだけでは足りない。契約期間や支払い時期は事業の運営に合っているか。食材費や人件費が上がったときにも、必要なサービスを維持できる対価になっているか。金融の支援と契約の条件が、同じ事業の継続を支えるものになっているかを確認する必要がある。
必要な仕事の対価が不足しているのに、借入を増やして補わせるなら、資金供給は事業者の負担を重くする。地域の組織が仕事を続けられるかどうかは、貸す側の制度とともに、買う側の行政の判断にもかかっている。
行政に残る金から、市民に残る豊かさへ
この問いは、日本の自治体にも向けられる。
日本の公共調達にも、価格以外の要素を評価する契約がある。大阪市の業務委託契約履行確認マニュアルも、総合評価一般競争入札を適用した契約では、技術的評価や公共性評価で評価された提案内容の履行を確認することを挙げている。[4]
問題は、それぞれの契約で何を成果として扱い、何を見落としているかである。委託料を減らしたという行政側の成果と、地域で働く人の所得、利用者が受けるサービス、事業を続ける力との関係を、具体的に確かめたい。
例えば、契約額を抑えた結果、現場で人員を減らさざるを得ず、利用者への対応が薄くなったとすれば、その減額を地域全体の利益と評価することはできない。反対に、必要な人員と賃金を確保する支出が、安定したサービスと雇用につながれば、行政の支出額だけでは見えない成果が残る。
また、『共助』や住民の協力を理由に、行政が負担すべき費用を地域の住民や事業者に負担させてはならない。委託した事業の対象者にサービスを届ける責任、適切な対価を払う責任、問題が起きたときに対応する責任は、発注した行政が負い続ける。そのうえで、地域の組織が自らの判断や利用者の声を運営に反映できる関係をつくる必要がある。
韓国の基本法は、2026年9月15日に公布され、2027年3月16日に施行される。[2]優先購入や委託の規定が、小さな事業者の仕事と安定した収入に結びつくか、その仕事から生まれる価値をどう評価するかは、施行後の制度設計と運用によって確かめていかなければならない。
税金の使い方を変えることは、仕事の収入を得る主体と、仕事を続ける条件を変えることにつながりうる。しかし、社会連帯経済企業への発注額が増えれば、それだけで地域が豊かになるわけではない。
事業が対象とする住民にサービスが届き、誰が働く対価を受け取り、どのような事業と協力関係が地域に残ったのか。その結果まで行政支出の成果として確かめることが、税金の使い方を変える意味である。
自治体の利益とは、自治体に残る金ではない。市民の側に残る豊かさである。その考えを予算と契約と評価のしくみにどう組み込むか。韓国の基本法は、それを具体的に検証していく一つの手がかりとなる。
主な参照資料
- 韓国・国家法令情報センター「社会的企業育成法」第12条。優先購入と購入計画・実績報告の従来の規定は、2012年改正時の公表文でも確認できる。https://www.law.go.kr/lsInfoP.do?lsiSeq=122694&viewCls=lsRvsDocInfoR
- 韓国・国家法令情報センター「社会連帯経済基本法」(法律第21921号、2026年9月15日公布、2027年3月16日施行)、第16条、第19条、第20条。https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=289577
- 韓国社会的企業振興院「社会的価値指標(SVI)」説明ページ。https://www.socialenterprise.or.kr/homepage/contents/contents.do?ciIdx=10073&menuId=855
- 大阪市「大阪市業務委託契約履行確認マニュアル」。https://www.city.osaka.lg.jp/keiyakukanzai/page/0000205665.html
- 照合資料:日本協同組合連携機構「韓国『社会連帯経済基本法』原文・日本語訳(仮訳)対照表」。法案段階の対照資料として参照し、公布後の法律と区別する。https://www.japan.coop/wp/wp-content/uploads/2026/08/85a8995e545e540756faaf488cb38112.pdf


