標準化の途中で府と4特別区へ 9月25日の財政総務委員会が問うた移行の現実
9月25日、大阪市会の財政総務委員会で、大阪市の廃止・特別区設置をめぐる質疑が行われた。そこで問われたのは、法定協議会が描く新しい行政のしくみを、現場で本当に動かせるのかという問題である。なかでも、住民記録や福祉などの業務を支える基幹的なコンピューターシステムについて、二つの大きな移行工程をどう両立させるのか、具体的な説明は示されなかった。
一つは、国の方針に沿って大阪市が現在進めている基幹業務システムの標準化。もう一つは、大阪市がなくなり、現在の市の事務を大阪府と4つの特別区に分ける場合のシステムの変更である。行政組織の名前や担当部署を決めても、その日に必要な情報を確認し、申請を処理し、給付を決定するシステムが動かなければ、行政は運営できない。
委員会では何が確認され、何が確かめられないまま残ったのか。住民投票で制度を判断する前に、市民が知るべき問題としてレポートする。
「いくらかかるか」から「本当に切り替えられるか」へ
質疑の発端は、公明党の西徳人委員による、特別区設置に伴うシステム経費の算定方法の確認だった。西委員は、前回の住民投票時と比べて大阪市のデジタル環境が変化していることを指摘し、現在のシステムを踏まえた検討になっているのかを尋ねた。デジタル統括室は、運用するシステムの規模や対象範囲が拡大しており、人件費や物価も変化していると答えた。
さらに自民党市民クラブの前田和彦委員は、現在進む標準準拠システムへの移行と、特別区への移行が重なった場合を取り上げた。両者の時期が合わなければ、制度上は特別区を設置できても、必要なシステムの切替えが間に合わない可能性がある。前田委員は、その工程を確かめずに制度設計を進めてよいのかと迫った。
この問いは、単に新しいパソコンやソフトを購入するという話ではない。大阪市の事務を誰が引き継ぎ、その事務で扱う情報をどの組織が利用し、複数の業務システムをどうつなぐかという、行政運営の根幹に関わる。コンピュータシステムが稼働しなければ、業務は止まる。
標準化中のシステムを、府と4特別区にどう分けるのか
国は、住民基本台帳、税、介護保険、生活保護など20の業務について、自治体のシステムを標準仕様に適合させる取組みを進めている。大阪市でも今年1月に住民基本台帳と印鑑登録のシステムが標準準拠システムへ移行した。一方、福祉局は4月、生活保護などを扱う3システムの標準化について、構築方法を検討するため事業者に情報提供を求めている。大阪市のシステム全体が、一度に切り替わっていくわけではない。
標準化が目指すのは、各自治体の業務システムを国の定める仕様に適合させることにある。大阪市という一つの自治体を廃止し、事務を大阪府と4特別区に配分する場合のシステム構成まで、自動的に決めてくれるわけではない。
たとえば大阪市が現在扱う住民の記録について、特別区ごとにどの範囲を管理し、府に移る事務にはどの情報を渡すのか。各区が別々にシステムを持つのか、共通のシステムを使うのか。大阪府が担う事務については、府の既存システムとの接続やデータの引継ぎをどう設計するのか。これらは現時点の方式が決まったという話ではなく、移行工程を組むうえで確かめるべき事項である。
銀行の統合でシステムの不具合が発生したニュースに聞き覚えがある人も多いと思うが、システム統合は一筋縄でいく話ではない。
大阪市では、住民記録、税、福祉などの情報が別々の業務で利用される。転居の届出を受け付けても、必要な情報が次の事務へ正しく伝わらなければ、窓口で受け付けた手続きの先が進まないおそれがある。大阪市福祉局の資料を見ても、生活保護の決定、保護費の計算・支払い、医療券、要介護認定など、システムが支える仕事は多岐にわたる。市民サービスへの影響を考えるには、窓口が開いているかだけでなく、その後の判断や給付まで滞らずに行えるかを見る必要がある。
二つの移行を重ねた工程表は示されなかった
前田委員が、標準化の移行を特別区設置の試算に織り込んだのかと尋ねると、副首都推進局は、標準準拠システムへの移行は特別区設置に関わらず進めるもので、移行時期も検討中のため、コストの算定では考慮していないと答えた。
それでは、標準化を終えたシステムを改めて特別区向けに変更するのか。移行中のシステムは、どの段階で府と各区の事務に対応させるのか。事業者は双方の作業をいつ担えるのか。委員会では、業務ごとの工程を重ねた計画や、切替え後の稼働をどう確認するかについて、具体的な答弁はなかった。
前田委員は、市長にも事業者への確認と、実行可能な時期・費用の検証を求めた。
横山市長は、発注段階のような厳密な仕様を直ちに定めるものではないとしながら、事業者の意見を聞き、システム費用のさらなる検討について法定協議会の事務局と協議する考えを示した。
しかし、どの業務をいつ切り替え、試験し、不具合が出た場合にどう業務を続けるかという道筋までは示してはいない。
現時点で、特別区設置後にシステムが稼働しないと断定する根拠はない。同時に、安全に稼働できると判断するための条件も、この質疑からは確認できない。住民投票後に詳細を決めればよいのか、それとも判断の前に技術的な見通しを示すべきなのか。この順序こそが問われている。
工程が見えなければ、費用も設置日も定められない
法定協議会に示されたシステム関係費は、初期費用312億円、運用費42.4億円である。副首都推進局によれば、今回の事務分担や職員規模が固まる前に、前回の協定書作成時のシステム経費を2倍にして置いた暫定的な数字だという。前回の住民投票時に示されたシステム改修経費は156億円だった。デジタル統括室も、精緻な試算はしていないものの、現在の状況では前回額から大幅に増えるとの見方を示しただけに過ぎない。
312億円が過小かどうかは、問題ではない。ただ、この数字だけでは、標準化と特別区への移行をどの順番で行い、府と4区のシステムをどう動かすかを説明できない。それだけでなく、システム改修にかかる日数も費用も算定できなければ、いつまでに「大阪市を廃止し特別区設置」を行うのかさえ、定められないではないか。具体的な作業を洗い出し、事業者と工程を確かめてこそ、必要な工程も費用も見えてくる。
大阪市の廃止を推進する議員と制度設計を担う大阪市は、行政の現場を動かす条件から議論を始めるべきだ。大阪市が今進める標準化と、府・4特別区への事務の移行を重ねた工程表はあるのか。住民記録や福祉の手続きについて、誰がどの方法で稼働を確かめるのか。移行が遅れた場合に、申請、決定、給付をどう続けるのか。
住民投票で市民に大阪市をなくすかどうかの判断を求めるのであれば、その前に、特別区の設置日に行政を動かせる見通しと、その条件を示す必要がある。
主な資料
- 大阪市会財政総務委員会、2026年9月25日の録音・文字起こし(西徳人委員、前田和彦委員と当局・市長の質疑)
- 大阪市・第8回副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会の会議資料
- 大阪市・住民票の写し等の様式変更等について
- 大阪市福祉局・福祉3システムの標準化に係る情報提供依頼(2026年4月)
- デジタル庁・地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化

