「みんなでつくろか みえの予算」で三重を変える
事業の構築に新たな発想や身近な問題意識を取り入れる
ucoでは、昨年2024年に市民が行政の施策に関与するアプローチを検討するuco講座「進化する自治を構想する」の1つとして、「市民参加型予算から見る市民自治」を実施した。その際に、国内でこれまで紹介した海外の事例と同じようなスタイルで実施している自治体を調査した。中でも今回紹介する三重県は、2019年度から試行的に県民参加型予算をスタートさせている。
※取材は2023年から2024年にかけて行ったもので、「みんなでつくろか みえの予算」令和元年度の事業内容である。現在は「県民提案予算」に名称変更し、実施内容も一部異なる。
三重県 総務部 財政課 谷口 純一さん、三井 南津美さんのお二方にインタビューに応えていただいた。
「みんなでつくろか みえの予算」は、2019年4月に鈴木英敬氏が三重県知事として再選されたことに始まる。公約集でもある「未来展望みえの会の政策集 2019」の中で記載した、「厳しい財政状況の中でも、県民の皆様と協創で予算を作り上げるという観点から、フランス・パリ市などで行われている「参加型予算」の導入について検討します」という提案を実行に移すことから始まっている。そのため、2020年度の予算編成に県民参加型予算を導入することとなった。
導入にあたって、鈴木知事が政策集で示していたフランス・パリ市をはじめ、ポルトアレグレ市(ブラジル)、ポルトガル、名張市(三重県)、東京都などの先行事例をもとに制度設計された。
三重県の「みんつく予算」では、市民から事業アイデアの「提案」を受け、実行主体となる県庁で「審査」し、絞り込んだ提案に対し具体的な事業案を作成した上で、市民の「投票」で実行する事業を決定するという方法が採用されている。
また制度趣旨(目的)については次の3点が挙げられている。
予算規模は、総額を約5千万円とし、1事業を1千万円以内。総額の中で複数の事業を選定し、毎年2月に県議会に提出される当初予算案に盛り込むというかたちを取っている。
提案・選考方法は次のようになっている。
参加形態は東京と同様、「事業提案の募集」と「県民投票による事業決定」という2つの参加方法がある。
また、応募資格については、当初三重県に関心を持つ人から幅広く提案を募るためとして、住所や年齢の制限を設けていない。
- 県民から事業アイデアの「提案」を受け、実行主体となる県庁で「審査」→絞り込み(具体的な事業内容の構築は県庁で行う) ※行政の観点で提案内容を審査した上で、予算やスケジュールを含め担当部局が事業を具体的に組み立てる
- 絞り込んだ提案に対し具体的な事業案を作成した上で、県民の「投票」で実行する事業を決定する
- 基本単年度事業。継続事案は、経常事業として溶け込んでいるものもある。[食品ロスゼロ啓発プロジェクト、これからの移動手段チャレンジ、高齢者向けスローモビリティの開催などが当初地域連携の事業として残っているという。]
提案の流れ
- 事業提案の募集<県民参加>
- 投票候補案の審査 <県庁>
- 具体的な事業内容の構築<県庁>
- 県民投票による事業決定<県民参加>
- 提案者によるプレゼンテーション
- 知事査定、投票結果の発表
提案の募集にあたっては、20のテーマを設定し募集。提案をセクションごとに仕分け、各部局で審査を行う。
テーマ事例
三重の魅力発信などの分野から、各部局からの推薦も踏まえ、県政の重要課題である20のテーマを設定。
「避難行動の促進」、「男性育児参画」、「モビリティ・マネジメント」、「食品ロスの削減」、「多文化共生の理解促進」、「三重の農林水産品の魅力向上」など
提案数は、2019年度が229件、取材を行った2023年度は122件となっている。
また、2021年度からは「自由提案」も含めて募集を行っている。
テーマを限定したため、提案者側から「より出したい提案が自由に出せない」、「県庁にとって都合の良いテーマだけが選ばれている」という批判があったという。
そのため自由提案枠を設け、実施年度ごとに各部局が課題と思っていることをテーマに提案してもらい、その年のテーマ設定をしている。2023年度は14のテーマが設定された。2025年度では、自由提案に加え、個別テーマとして9つのテーマが設定されていた。
【個別テーマ】令和8年度当初予算に向けた県民提案募集より
- 三重県誕生150周年記念事業
- 外国人住民の日本語習得を推進するための取組
- 若者世代にささる地産地消の推進
- 外国人観光客の誘客に繋げる県産農林水産物の魅力発信
- 子ども・若者たちに建設業の魅力をPR
- 犯罪防止に向けた取組
- 子どもが自ら学び、自ら考える力を育成する交通安全教育
- 未来の警察官育成
- インターネット利用に起因する若年層を対象とした犯罪被害防止及び犯罪に加担させないための取組
市民からの提案や意見、叱咤激励など、職員に良い刺激をもたらした
県民投票によって決定した事業については、提案者が知事プレゼンテーションを行う。県民と県職員の協働によってつくられた事業提案は、職員にとっても新しい発見があったようだ。
という感想が聞かれたという。
というのも、提案事業を取り入れるにあたっては、経常経費では予算がないので年度の上限を削って行うことになる。そのために様ざまな試行錯誤も行われることにになり、部局にとっては試行事業としてとらえられる面もあるという。
募集、投票の周知方法として、新聞、県内フリーペーパー掲載、公式snsなどで行われている。また県内29市町、国の地方機関、関係団体、事業者、ボランティア等への周知、県庁主催のイベント等でのチラシ配布なども行っている。
応募方法は、電子申請、メール、郵送、職員による回収、財政課への持ち込み。電子申請は、既存の電子申請システムを活用し、リンクできるQRコードをチラシに掲載するなどしてアクセスを容易にしている。
県内からの提案が182件、県外からの提案が47件あり、最年少は18歳、最高齢は81歳。
投票方法は、電子申請、メール、郵送、投票箱で行われた。投票箱は、県庁3階の財政課と津駅前にあるアスト津3階のみえ県民交流センターに設置。
投票者数2,837人、投票総数6,381票の結果を踏まえ、投票数の多い順に上位6事業(総額5,020万4千円)が2020年度当初予算に計上されている。
※いずれも初年度実施の結果。
現在の公式三重県サイトの「県民提案予算の取組について紹介します」では、「 令和2年度当初予算から令和7年度当初予算までの6年間で延べ1,308件の提案があり、それらの中から52の事業、約2億9,200万円の予算が事業化されました。」とある。
さて、県民参加型予算に対する県民からの思いにはどのようなものがあるのだろうか。提案内容そのものというより、特に県民投票の結果を踏まえて事業が採択されていることについて
「多数決で決まってしまうため、少数意見が反映されない」
「数百票の得票で最大1,000万円の予算の使い道が事実上決定してしまう」
などの懸念の声などがあったという。
今後の参加型予算の取り組み方について、財政課としての思いを尋ねた。
最後に、初年度に本事業を推進した三重県総務部財政課 富永隼行氏、谷口純一氏による報告書には、市民参加を活かす行政への変化があったとして、次のように記されている。
今回、事業提案を20テーマに限ったことに対し、自由な提案を認めて欲しい旨やテーマの幅を広げて欲しい旨の意見が多数寄せられた。自由度を広げた制度設計が望ましいが、その場合、県庁での審査・具体化・実行が難化する懸念がある。
※出典:三重県庁の参加型予算「みんつく予算」の取組について
また、実施すべき事業ではなく、廃止すべき事業を選ぶ仕組み(「みんやめ予算」)を求める意見もあった。事業の背景には多くの利害が関わるため、投票結果だけで事業の廃止を決めることは難しいが、行政が既存の事業を不要だとは言いにくい現状を打開する意味で、市民が指摘する仕組みは一考の価値がある。
拡大・深化する市民参加を活かすために、行政自身が市民の声をよりストレートに聴くよう変わるべきである。市民の提案を市民目線で受け止め、具体的な事業に落とし込む過程は、職員に良い刺激を与え、政策立案・実行能力の向上に繋がる*29。市民の意見は行政にとって耳の痛い話が多く、それを正面から受け止めることは容易ではないが、真摯に向き合う姿勢が必要である。
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