提案・選定型と提案・共創型 県民との対話を通じた予算づくり-1
県民との対話を通じて県予算を共に創り上げる
ucoでは、昨年2024年に市民が行政の施策に関与するアプローチを検討するuco講座「進化する自治を構想する」の1つとして、「市民参加型予算から見る市民自治」を実施した。その際に、国内でこれまで紹介した海外の事例と同じようなスタイルで実施している自治体を調査した。長野県では、2022年(令和4)に県民参加型予算を試行的に導入している。
※取材は2023年から2024年にかけて行ったもので、「長野県 県民参加型予算」令和5年度の事業内容である
長野県企画振興部 広報・共創推進課 対話・共創推進係
宮本武彰さんにインタビューに応えていただいた。
長野県・阿部守一知事(現在4期目)が2022年に4期目を目指す際、重点的に取り組むべきと考える政策を「公約」として取りまとめた書面の中に、「県民参加型予算を試行するなど、県民の皆様の声を県政に直接的に反映する方法を検討してまいります。」の一文が記されている。
この公約の中で、阿部守一知事は次の3点を「知事として取り組む重点政策」として挙げている。
1 持続可能で安定した「確かな暮らし」を守り抜く
2 経済が発展し、人間らしい生活が営まれる「ゆたかな社会」を創造する
3 県行政を県民に信頼され共創する組織として進化させる
3の「県行政を県民に信頼され共創する組織として進化させる 」の項目の一つとして「県民の皆様との対話と共創の拡大」という文言がある。今回紹介する「県民参加型予算」はその具体的な取り組みとして導入された制度だ。
長野県の制度の特徴として、「提案・選定型」と「提案・共創型」2つのスキームが考案されている。
キーワードは「対話」と「共創」だ。
導入にあたってのポイントは次のことだという。
知事公約を踏まえ、「対話と共創」による県政の推進にあたっての具体的な手法の一つとして、県民等の新たな発想や問題意識を取り入れ、県予算を共に創り上げるため制度を導入。
対話と共創の手法を多角的に検討するため、選定型と共創型の2つのスキームを試行的に実施。
提案・選定型 県民参加型予算
提案・選定型は、実施する地域振興局において、地域の住民の方にとって関心の高いテーマや、具体的な事業を提案しやすいテーマとなるよう意識しながら、地域の強みや特性も踏まえて設定し、テーマに沿った提案をしてもらう形をとっている。
ガイドブックには、
「行政がこんなことに取り組んでくれたらいいな」という思いを、事業としてご提案ください。
長野県のより良い未来づくりに皆さまのアイデアを活かします!」
とあるように、できるだけ敷居を低く、地域の実情をよく知っている地元の人から、広く提案ができるようなしくみづくりをしている。
長野県下には、6つの地域振興局がある。
- 佐久地域振興局
- 上田地域振興局
- 上伊那地域振興局
- 木曽地域振興局
- 北アルプス地域振興局
- 北信地域振興局
それぞれの振興局がテーマを設定しており、令和5年度は以下のテーマで募集している。
募集事業の要件は3点
- 募集テーマに該当するもの
- 1事業につき概ね1,000万円以下となるもの
- 原則として単年度で完了するもの
事例として、令和5年度に予算化・実施した4事業が紹介されている。
令和4年募集の実績としては提案数は23件、その中から4つの事業が実施に至っている。
諏訪地域振興局
募集テーマ | “諏訪の湖には魚多し”復活プロジェクト(昭和40年代の湖内環境の復活)について |
事業名 | 取り戻そう!豊かだった諏訪の湖 ~諏訪湖魚介類生息環境修復事業~ |
事業概要 | 諏訪湖沿岸域で水生植物帯を試行的に造成 |
予算額 | 9,982千円 |
南信州地域振興局
募集テーマ | リニア中央新幹線長野県駅(仮称)が設置される南信州の認知度向上について |
事業名① | 南信州のふしぎ発見! 日本一コンテンツ普及・開発プロジェクト |
事業概要① | 地域の目線によるPR要素の掘り起こしを実施 |
予算額① | 6,486千円 |
事業名② | 南信州地域の環境や風土を活かしたウリニア新時代を見据えた、「南信州メディカルバレー(仮称)構想元年」 |
事業概要② | 南信州地域の環境や風土を活かしたウェルビーイングをテーマとして、研究者や民間企業等から募集した提案の調査研究、情報発信 |
予算額② | 4,501千円 |
長野地域振興局
募集テーマ | 「果樹産地ながの」を支える「働き手」の確保について |
事業名 | 果樹産地と果樹の支え手“win-win”共創モデル事業 |
事業概要 | 果樹作業への参画を促進する動画作成等 |
予算額 | 2,410千円 |
各地域の県民が、提案された事業について、県民の意見が反映できるよう、事業選定には県民も参加できるような手法をとっている。
応募できる提案者資格も
- 提案日時点で県内に住所を有する方
- 提案日時点で県内に本社、支店等を有する団体、NPO、企業等
いずれかに該当すれば、原則だれでも提案ができるようになっている。また、幅広い層からも提案いただけるよう、提案者に年齢要件は設けず、除外者も県職員など限定的に設定したという。
提案から、事業実施までのステップは下図の通り。
審査にあたっては、県民の方にも参加してもらえるよう一般募集をしている。
審査員の応募条件も以下の2点いずれかとしている。
- 審査日時点で提案事業を募集する地域振興局の管轄区域内に住所を有する 者
- 審査日時点で提案事業を募集する地域振興局の管轄区域内へ通勤・通学し ている者
今回は、長野県「県民参加型予算」(提案・選定型)についてそのしくみと狙いについて確認した。次回は、(提案・共創型)の仕組みや工夫について見ていこうと思う。
[いしだはじめ]