失敗の歴史を繰り返す湾岸開発、夢洲国際観光開発の愚策

コラム
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年明け早々から、大阪府・市と関係経済連合会の間で万博跡地再開発についての綱引きが始まっている。市民の思いなどそっちのけで、政治的思惑と財界の利益誘導による開発前提の昭和的まちづくりを進めようとしている。
しかし、カジノという横やりが入らなければ、今ごろ大阪・夢洲は国際港湾物流拠点として大阪経済を支える重要なポジションを得られていたはずだった。

阪神港・国際港湾物流拠点としての夢洲の夢

夢洲は埋め立て時から約40年になるが、これまでその用途は二転三転してきた。
1985年に建設残土や廃棄物の処分場として埋め立てが始まった当初、コンテナターミナル、倉庫などの受け皿と考えられていたようだが需要低迷が続いていた。
2000年代に入ると、ITや先端産業などの構想が浮かんでは消えた。関市長時代(2003年~2007年)には、オリンピック誘致なども行われた。
2010年代になって、国の国際戦略港湾政策が「阪神港(神戸港+大阪港」が指定され、「阪神港・国際港湾物流拠点化」が動き出した。大型コンテナが入港できるだけの水深を持ち、将来的に拡張が見込まれね用地規模、都市部近郊という条件が整っていることから、阪神間の国際コンテナ・物流施設の集積地として夢洲がクローズアップされた。この時点で高機能物流拠点として位置付けられ、2013年には、上組、山九という2つの港湾事業者に土地売却も行われていた。
国が示していた阪神港戦略と、夢洲IR転用との関係

出典:国土交通省近畿地方整備局 阪神港(神戸港・大阪港)での取り組み

  • <ハード対策>ハブ機能の強化のためのインフラ整備
国際戦略港湾「阪神港」の位置づけ:神戸港と大阪港を一体として国際競争力を高める国策を明示
  • <ソフト対策>「民」の視点を取り込んだ阪神港の一体運営の実現
阪神港の経営統合(2014年11月25日):大阪港(夢洲を含む)が将来拡張・高度化を担う前提で、経営・投資判断を統合する体制を示している

IRカジノ、万博構想により無理筋で進められた政策の急旋回

2014年、議員立法として「IR推進法」が審議入りしたことを受け、大阪府・市はその年には「夢洲まちづくり構想検討会」を始めた。同時期に港湾事業者への夢洲売却が停止した。この時点で、大阪市は国が進めていた「国際戦略港湾政策」を放棄し、夢洲の国際観光拠点化へと邁進する。カジノ推進者は、インバウンドによる経済成長のシンボルとして夢洲カジノをアピールするのだが、実はこの時からで大阪の成長は大きく阻害されていたことは語られることがない。
「阪神港・国際港湾物流拠点化」は土地売却は進められ、港湾事業者の募集も進んでいたが、IRカジノ誘致という夢物語を優先し、計画が着実に実行されていた港湾政策を中断・転用してしまった。そして、埋立地という土壌条件から「準工業地」という用途を「商業地への用途変更し、現在に至る。

大阪市がカジノ事業者に「土地所有者の責任」というこじつけで788億円もの土壌課題対策費用を計上したのも、すべてこの土地用途変更を行ったことに原点がある。

物流拠点とIRカジノ、政策の合理性と損失

夢洲で国際港湾拠点が整備できなくなった損失とは何か。
前段で示したように、夢洲の「阪神港・国際港湾物流拠点化」は単なる計画ではなく、事業として実施されている途中で政治的な思惑によって放棄されたことにある。そのため多くの具体的な損失が生じている。考えられる損失としては以下の6点が挙げられる。
  1. 国際物流ネットワーク上の地位低下
  2. 港湾・物流雇用の消失
  3. 産業立地競争力の低下(製造業・輸出入)
  4. 港湾使用料・関連収入という安定財源
  5. すでに進んでいた民間投資の無効化
  6. 防災・危機対応拠点としての機能喪失
まとめていえば、経済推進のための産業基盤が失われたということだ。
少し長くなるが具体的に見ていこう。
1. 国際物流ネットワーク上の地位低下
2000年代以降東アジアの基幹航路は、釜山、上海、寧波に集中。国内で匹敵するのはコンテナ扱いでは京浜港(東京、横浜、川崎)、取扱量では名古屋港であり、西日本の地位が低下している。
夢洲は、超大型コンテナ船(1.8~2.4万TEU級)の対応が見込まれ、西日本のハブ港化(積み替え拠点)も想定されていた。夢洲での「阪神港・国際港湾物流拠点化」が転換されたことにより、自ら「西日本側ハブ港の芽」を摘んでしまった。
2. 港湾・物流雇用の消失
単に運送屋倉庫・保税といった旧来の業務だけでなく、港湾DX・スマート物流といった横浜港に見られるような港湾の高機能化や、国際輸送に関わる一連の業務をワンストップで提供する国際フォワーディングなどの機能が付加されることで、港湾での雇用創出が見込まれていた。
港湾物流は、比較的景気変動に強く、地元定着率も高い。また近年では高度な技術を要するため、技能継承も含めて長期雇用も見込まれている。そうした次世代港湾人材の育成拠点にもなれた可能性がなくなったことは大きい。
3. 産業立地競争力の低下(製造業・輸出入)
港湾が持つ「背後効果」として
・ 製造業の立地判断
・サプライチェーン短縮
・輸送コスト削減

といったことが挙げられ、これらにより、製造業や輸出入事業を集積させることができる。国際港湾物流拠点「夢洲」がなくなったことで、本来誘致が見込まれた企業群が中京や九州をはじめとする知的への転換が起きている。港湾基盤が足りないための流出は大きい。
4. 港湾使用料・関連収入という安定財源
港湾事業は安定収入が魅力だ。
・用地売却
・岸壁使用料
・港湾施設利用料
・関連事業の税収

などが挙げられる。

景気変動が比較的小さく、長期需要が見込まれるため、公共事業として魅力的だ。しかし、これらが無くなっただけでなく、大阪の港湾事業は60年間の赤字を背負い込む結果となっている。カジノ事業で収入が見込まれなければ港湾事業は破綻する。
5. すでに進んでいた民間投資の無効化
前に述べたとおり、上組や山九などの港湾事業者への土地売却を含め、事業は進められていたが、それが中断した。国際港湾物流拠点を前提に行政による誘致を図っていたものを自ら中断させたことは、民間に大きな損失を伴っている。行政政策への信頼が低下したといっても過言ではない。
6. 防災・危機対応拠点としての機能喪失
夢洲は埋め立て地であり、地震や津波・高潮の影響を受けるが、直接の被害を受けない限り、災害時の物流拠点となる。被害を受けた港湾の代替輸送や広域支援拠点としても機能する。都市部に隣接するという特性を生かすことで、「非常時の公共拠点」という位置づけもできたはずである。

もしIRカジノ誘致という横やりが無ければ、今ごろは夢洲が国際港湾物流拠点として稼働していた。以下にIRカジノで得られるであろう便益と国際港湾物流拠点を失った損失を表にしてみた。これを見ると夢洲の用途変更により、「儲かるかもしれない未来」が手に入ったかもしれないが、「生活と産業を支え続ける社会基盤」を失ったと言えるのではないか。
視点IRで得られるとされる便益港湾拠点を失った損失
性格観光・消費型(変動が大きい)社会・産業基盤(安定)
収益税収・観光消費(不確実)港湾使用料・用地賃料(長期)
雇用サービス業中心能型・長期雇用
産業効果観光関連中心製造業・物流全体
代替性他地域でも可能阪湾岸では代替困難
リスク依存症・撤退時負担比較的低リスク
防災限定的広域物流拠点
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