大阪市「令和8年度一般会計補正予算(第3回)」案
2026年9月30日、大阪市が「令和8年度一般会計補正予算(第3回)」案を公表した。
補正額は、2億4,056万5千円。2兆1,900億円を超える大阪市の一般会計から見れば、約0.011%である。
1万円に置き換えれば、約1円。
この追加補助が提案された背景には、病院の運営体制の大きな変化がある。大阪社会医療センター付属病院は9月28日で病棟を閉鎖し、29日以降は外来診療を中心とした運営へ移行した。
では、今回の2億4千万円は、どのような経費を、いつまで支えるためのお金なのか。そして、その先の診療をどう維持するのか。
今回の補正予算で読むべきなのは、金額だけではない。地域に必要な医療を続けるために、何を支える予算なのかだ。
「第3回」は多いのか
最初に一つ整理しておきたい。9月の時点で「第3回」と聞くと、「今年は補正予算が多いのでは」と感じるかもしれない。だが、回数だけでは判断できない。
令和7年度は9月末に第2回補正が議決され、その後、第3回、第4回、第5回……と続き、年度末までに第8回まで組まれている。補正予算そのものも珍しいものではない。災害が起きる。物価が上がる。国の制度が変わる。当初予算を編成した時点では予測できなかった事情が発生する。だから補正する。
問題は「何回目か」ではなく、
何が当初予算では足りなくなり、なぜ今、お金を追加することになったのかである。
今回の場合、それが「無料低額診療等の継続」だった。
1万円のうち「1円」
今回の数字を並べてみよう。補正前の一般会計は2兆1,900億3,201万1千円。
そこへ2億4,056万5千円を追加し、2兆1,902億7,257万6千円になる。
割合は約0.011%。
大阪市の一般会計を1万円札1枚に縮めると、今回の補正は約1.1円である。ほとんど見えない。だが、ここで視点を変えてみる。大阪市全体から見れば「1円」であっても、その1円を必要としている現場から見れば、話はまったく違ってくる。
その1円を必要としている病院が大阪社会医療センターだ。
同センターは、1970年に開設された。
社会保険に加入していないなどの理由で必要な医療を受けることが難しかった人たちを含め、あいりん地域とその周辺で暮らす人々の医療を半世紀以上支えてきた。
2020年12月には新病院へ移転している。現在の中期計画にも、その役割は明確に書かれている。中心にあるのが「無料低額診療」である。
無料低額診療とは、経済的な理由によって必要な医療を受ける機会が制限されないよう、診療費を無料または低額にする社会福祉法に基づく事業である。大阪市内には大阪社会医療センター以外にも多数の実施医療機関があり、低所得者や生活保護受給者などが対象となる。条件によっては外国籍の人も利用できる。つまりこれは、単に「西成の特殊な病院」の話ではない。
お金がないことで、医療からこぼれ落ちる人をどう支えるのか。
そのための仕組みの一つなのである。
数字をもう一つ見ると印象が変わる
大阪社会医療センターが公表している中期計画を見ると、令和8年度の「補助金事業収入」は2億1,703万7千円「中期計画(2026年4月改訂)」と見込まれている。
今回の追加補助は2億4,056万5千円。金額だけを比べれば、計画上の年間の補助金事業収入を上回る。
ただし、この比較だけで、年間の補助金を上回る額が「不足した」とは言えない。計画上の補助金と今回の追加補助が、それぞれどの経費・期間を対象にしているのかを確認する必要がある。
市全体から見れば「1万円のうち1円」。しかし、病院の運営にとって、この追加補助がどのような意味を持つのか。その内訳を見なければ分からない。
病棟閉鎖後の診療を、何で支えるのか
病院の経営問題は、今回初めて明らかになったものではない。2026年4月改訂の中期計画には、入院患者数の減少等による経営のひっ迫、2025年12月の冬季賞与凍結、2026年4月からの一般病床の削減と職員体制の縮小が記されている。
その後、病院は9月17日に、28日で病棟を閉鎖し、29日以降は外来診療を中心とした運営へ移行すると発表した。外来診療は継続しているが、地域の医療を担う体制は大きく変わった。
9月30日に公表された補正予算案は、その外来診療に必要な経費への追加補助である。ただし、概要資料には、2億4,056万5千円の詳しい算定根拠や対象期間までは示されていない。
どの経費に、いくら必要なのか。従来の補助で賄う部分と、今回追加する部分はどう分かれるのか。外来中心の運営で、どのような診療体制を確保するのか。
市会審議では、この点の確認が必要ではないか。経営が厳しくなった経緯と、今回の補助額の根拠を示すことで、地域の医療を今後どう支えるのかを具体的に議論してほしいものだ。
来年度以降の診療をどう支えるのか
今回の2億4,056万5千円は、全額が財政調整基金から支出される。
財政調整基金は、自治体が年度間の財源不足や予期しない支出などに対応するために持っている基金である。したがって、財政調整基金を使ったこと自体を問題視する必要はない。
むしろ、必要な医療を止めないために使うのであれば、それは基金が果たすべき役割の一つだろう。私が知りたいのは、その先である。
来年度も同じ金額が必要になったら、どうするのか。
今回の補助に、運営体制の変更に伴って一時的に必要となる経費と、診療を続けるために毎年必要となる経費が、それぞれどれだけ含まれているのか。
継続して必要な経費であれば、来年度の当初予算にどう位置づけるのか。診療を担う職員の確保も含めて、どのような体制を維持するのか。
今年の追加補助で何を支え、その先をどうつなぐのか。大阪市は、地域の人々が必要な医療を受け続けられる見通しを示すべきではないか。
今年の補正予算を並べると、別のものが見えてくる
今年度の第1回補正予算は5月だった。内容は「副首都構想の推進」。
7億4,194万9千円が追加された。
副首都構想の検討や情報発信、「副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会」の運営、副首都推進局の体制強化などの経費である。
第2回は9月8日。
公園樹・街路樹へのクビアカツヤカミキリ対策、大阪パビリオン基金の廃止、そして住之江抽水所の雨水ポンプ停止に伴う下水道施設の復旧などが盛り込まれた。
そして第3回が無料低額診療を継続するための2億4千万円。
この三つを「どれが重要か」と順位づけする必要はない。むしろ補正予算は、その時々に大阪市が直面している問題を映す。制度を変えるためのお金。壊れた都市インフラを直すためのお金。そして、医療からこぼれ落ちる人を支えるためのお金。予算書を読むということは、大阪市が何にお金を使っているかを見るだけではない。
この街が何を支えなければ成り立たないのかを見ることでもある。
そして、都構想を考えるなら
ここで私は、現在進められている大都市制度の議論にも目を向けたい。これは「都構想がいいか、悪いか」という話ではない。もっと具体的な話である。
大阪社会医療センターは西成区にある。
しかし、その役割を「西成区の住民だけの医療」と考えてよいのだろうか。大阪市自身も、この病院を「あいりん地域並びに周辺の居住者及び生計困難者」を支える医療機関として位置づけている。
現在、大都市制度協議会では、特別区を設置した場合に大阪府と特別区がどの事務を担うのかという制度設計が進められている。
ならば、私は問いたい。
大阪社会医療センターのような、場所は一つの地域にあるけれど、地域を越えて社会を支える機能は、誰が支えるのだろう。
府なのか。特別区なのか。複数の特別区が共同で支えるのか。
そして、その財源はどこから出すのか。もちろん今回の補正予算だけから、その答えを出すことはできない。しかし、大都市制度を考えるというのは、組織図を書き換えることだけではないはずだ。いま大阪市が持っている「一つの財布」を分けたとき、これまで市全体で支えてきたものを誰が引き受けるのか。
今回の2億4千万円は、その問いをかなり具体的なものにしてくれる。
たった1円だから、見ておきたい
大阪市の一般会計1万円のうち、今回の補正予算は約1円。数字だけなら小さい。
しかし、その1円の先には、病棟閉鎖後も外来診療を続ける病院があり、診察室があり、そこで診療を受ける人がいる。知りたいのは、この追加補助が、どの経費を、いつまで支えるのか。そして来年度以降も必要な診療を続けるために、誰が財源と体制を確保するのかである。
予算とは、大きな数字の話ではない。私たちが一人では支えられないものを、みんなでどこまで支えるのかを決めるしくみでもある。
9月30日の大阪市の新着情報に載った、たった1項目の補正予算。
その小さな1行には、この町に必要な医療をどう支え続けるのか、それを誰が支えるのかという、かなり大きな問いが隠れている。
<山口 達也>
参照資料
- 「令和8年度一般会計補正予算(第3回)」案
2026年9月30日公表。 - 「令和8年度一般会計補正予算(第1回)」
2026年5月27日議決。 - 「令和8年度一般会計補正予算(第2回)外4会計」案
2026年9月8日公表。 - 「社会福祉法人大阪社会医療センター中期計画」(PDF・2026年4月改訂)
- 大阪社会医療センター付属病院「今後の診療体制について」(2026年9月17日)
- 社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について
- 「副首都・大阪にふさわしい大都市制度協議会」


