無償譲渡された高校が消えていく――大阪地裁棄却判決の矛盾を問う

レポート
この記事は約5分で読めます。

市民の財産権、教育自治を奪う行政の裏切り-10

2022年4月1日、大阪市立高校22校は大阪府へ移管された。それに伴い、大阪市が保有していた高校の土地・建物など、財産台帳価格にして1400億円を超える財産も、大阪府へ無償で譲渡された。

それから、まだ4年余りしかたっていない。ところが、無償譲渡された高校の閉校と再編が、すでに現実のものとなっている。

無償譲渡された高校が、次々と再編される

生野工業高校は2025年度から生徒募集を停止しており、在校生が卒業する2027年3月末に閉校する。さらに大阪府教育委員会は、泉尾工業高校と東淀工業高校についても2028年度から募集を停止し、この3校を再編した新しい工業系高校を同年4月、現在の東淀工業高校の校地に開校する予定である。

これにより、生野工業高校と泉尾工業高校の校地は、将来、高校として使われなくなる。

しかも、これは工業高校だけの問題ではない。大阪府教育委員会は2026年8月、淀商業高校、鶴見商業高校、住吉商業高校の3校を統合し、新しい商業系高校1校を設置する案を示した。開校時期や新校の設置場所、各校の募集停止時期はまだ決まっていないが、3校を1校にすれば、既存の校地の一部が高校として使われなくなる可能性がある。※2026年8月31日大阪府教育委員会会議

高校教育のために必要だとして無償譲渡された土地や建物が、高校として使われなくなる。使わないのであれば、大阪市へ返還するのが筋ではないか。

しかし、府市が移管時に定めた方針では、閉校した高校の財産は大阪市へ返還するのではなく、売却できることになっている。特に生野・泉尾・東淀の3工業高校については、「閉校とすることが決定した高校が使用していた財産は、売却することを基本」とする方針が、移管前から明記されていた。※移管財産の取扱いの基本的な考え方

だからこそ、2026年7月16日に言い渡された高校財産無償譲渡訴訟の判決は、すでに終わった財産移管をめぐる判決ではない。

差止対象の大部分が譲渡されたため、原告は損害賠償を求めた

原告たちは当初、大阪市から大阪府への高校財産の無償譲渡を差し止めるよう求めて、住民訴訟を起こした。

ところが訴訟中に、移管対象となった22校のうち大部分の財産が大阪府へ譲渡された。一部の高校財産は同時には譲渡されなかったものの、差止請求の対象の大部分が失われた。

そこで原告たちは、すでに実行された無償譲渡によって大阪市に損害が生じたとして、争いの軸を事前の差止めから事後の責任追及へ移し、改めて損害賠償請求訴訟を提起した。

この損害賠償請求について、2026年7月16日、大阪地裁は請求を棄却した。

判決は、地方財政法上、今回の無償譲渡に違法性はないと判断した。さらに、大阪市財産条例16条が適用されるため、無償譲渡について大阪市会の個別議決は必要なかったとした。

そのうえで判決は、仮に個別議決が必要だったとしても、大阪市会が大阪市立学校設置条例の改正を議決したことによって、高校財産の無償譲渡についても議決したと評価できる、と判断した。

無償譲渡の個別議決は、なぜ「なかった」から「あった」に変わったのか

今回の判断は、先に行われた差止訴訟の控訴審判決と大きく食い違っている。

争点差止訴訟の控訴審判決今回の損害賠償請求判決
大阪市財産条例16条本件無償譲渡への適用を認めなかった条例16条が適用され、個別議決は不要とした
無償譲渡の個別議決無償譲渡についての個別議決はないが、あったと評価できる仮に必要だったとしても、大阪市立学校設置条例の改正によって議決されていたとした

法的には別の訴訟だが、対象となっているのは同じ高校財産の無償譲渡である。先の控訴審は個別議決がなかったと判断した。ところが今回の判決は、個別議決は不要であり、仮に必要だったとしても議決されていたとした。

高校の設置主体を大阪市から大阪府へ変更することと、約1400億円の市有財産を大阪府へ無償で譲渡することは、本当に同じ議決で済ませられるのだろうか。

議員に対して、譲渡する財産の対象や価格を明示し、その財産を無償で手放してよいかを問わなければ、財産処分について議会が判断したとはいえないはずである。

また、大阪市財産条例16条には、無償譲渡できる財産の価格について明確な上限がない。この条例を約1400億円という前例のない財産処分にも適用できるのであれば、市長が条例の要件を満たすと判断するだけで、どれほど高額な財産であっても、個別議決を経ずに無償譲渡できることになりかねない。

それでは、重要な財産処分について議会の議決を求める地方自治法の規定は、何のためにあるのか。今回の判決は、議会による財産監視を著しく空洞化させるものではないか。

「高校教育のため」という前提が崩れ始めた

判決は、移管された高校の教育を大阪府が担うことや、譲渡された財産が引き続き府立高校の教育に使われることなどから、無償譲渡には合理性があるとしている。
しかし移管からわずか数年で、無償譲渡された高校の閉校と統合が次々に具体化している。

府市が移管前に定めた方針では、再編によって不要になった財産は売却でき、その収益を府立学校の教育に使うこととされている。つまり大阪市は、高校の土地・建物を無償で渡しただけではない。将来それらを売却して得られる収益まで、大阪府に渡したことになる。

高校として使わなくなった土地を、なぜ大阪市へ返還しないのか。売却するのであれば、なぜその収益を大阪府が取得するのか。大阪市民の財産を無償譲渡したことの合理性は、移管後の財産処分まで含めて検証されなければならない。

高校移管は、もともと大阪市廃止・特別区設置を前提とした府市の役割分担の中で検討された。当初の方針では、「新たな大都市制度実施時期に合わせて」大阪市立高校を府へ移管するとされていた。

ところが大阪市廃止が住民投票で否決された後も、高校とその財産の府への移管だけは、市廃止の成否から切り離されて実行された。

そこにあったのは、単に高校教育を充実させるという判断だったのか。それとも、大阪市が担ってきた機能と保有してきた財産を大阪府へ移し、大阪市廃止へ向けた「府市一体」を先行して実現するという政治的な判断だったのか。※大阪市立高校の大阪府への移管

無償譲渡された高校が消え、その土地の売却が現実になろうとしている今、改めて問われなければならない。

市民の財産を誰が、どこまで処分できるのか――控訴審へ

原告たちは、7月16日の棄却判決を不服として、7月21日に控訴状を提出した。

控訴審では、大阪市財産条例16条を約1400億円の財産無償譲渡に適用できるのか、大阪市立学校設置条例の改正議決を財産無償譲渡の議決とみなせるのか、そして先の控訴審判決との食い違いをどう説明するのかが、改めて問われることになる。

この訴訟は、すでに終わった財産譲渡について責任を問うだけのものではない。

無償譲渡された高校が閉校・統合され、その土地が高校として使われなくなろうとしている。市民の財産を、誰が、どのような手続で、どこまで処分できるのか。その問題が、いま改めて現実のものとなっている。

関連資料

ucoの活動をサポートしてください

    【ucoサポートのお願い】
    ucoは、大阪の地域行政の課題やくらしの情報を発信し共有するコミュニティです。住民参加の行政でなく、住民の自治で地域を担い、住民の意思や意見が反映される「進化した自治」による行政とよって、大阪の現状をより良くしたいと願っています。 ucoは合同会社ですが、広告収入を一切受け取らず、特定の支援団体もありません。サポーターとなってucoの活動を支えてください。いただいたご支援は取材活動、情報発信のために大切に使わせていただきます。 またサポーターとしてucoといっしょに進化する自治を実現しませんか。<ucoをサポートしてくださいのページへ>

    シェアする
    タイトルとURLをコピーしました