「避難所」に行けない「一時避難場所」

大阪市地方自治の現在地進化する自治 vision50防災・減災
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大阪湾岸0メートル地帯に突きつけられた現実

「一時避難場所」と「避難所」は、似た言葉でありながら、その意味も役割もまったく異なる。
しかしこの違いが、災害時の現実として市民に十分共有されているかと問われれば、答えは極めて心もとない。

とりわけ南海トラフ巨大地震が想定される大阪市湾岸エリア、いわゆる0メートル地帯では、この違いが命の分かれ目になり得る問題として存在している。

本稿では、大阪市の湾岸エリアにおける「一時避難場所」と「避難所」の構造的な断絶を整理し、その結果として生じる“宙づりの避難”という深刻な状況、そして行政が事実上放置している問題の核心を明らかにする。

「避難場所」と「避難所」の制度的な違い

まず基本的な整理から始めたい。

避難場所とは、津波・洪水・火災などの差し迫った危険から「一時的に命を守る」ための場所である。
屋上、高架、人工地盤、堤防上などが指定されることが多く、原則として短時間の滞在が前提である。

一方、避難所とは、自宅に戻れなくなった人々が一定期間生活を続ける場所である。
水・食料・トイレ・毛布・医療支援などが想定され、滞在期間は数日から数週間に及ぶ。

本来の避難行動は、

一時避難場所 → 状況が落ち着き次第 → 避難所へ移動

という連続したプロセスで構成される。

問題は、大阪市湾岸エリアでは、この「次の段階」が現実的に成立しない地域が存在している点である。

大阪湾岸の0メートル地帯という特殊条件

大阪市の西淀川区・福島区・港区・此花区・住之江区・大正区など、湾岸部には広範な0メートル地帯が広がっている。

大阪市のハザードマップより南海トラフ地震時の津波浸水想定


南海トラフ巨大地震が発生した場合、これらの地域では以下の事態が想定されている。

  • 津波による広域浸水
  • 地盤沈下と護岸・防潮施設の損傷
  • 排水機能の喪失
  • 浸水の長期化(数日〜1週間以上)

つまり、水はすぐには引かない

topographic-map.com より。大阪市の湾岸エリア平野部はマイナス0メートル地帯

この条件下では、一時避難場所に逃げ延びたとしても、

  • 地上に降りられない
  • 避難所まで移動できない
  • 救援物資が届かない
  • トイレ・水・食料が枯渇する

という状況が現実的に発生するのは、ucoでも再三語ってきたところである。

「一日程度しのげば次へ行ける」という前提が、そもそも成り立たないのである。

「避難場所≠避難所」という場所の存在

大阪市湾岸エリアには、

一時避難場所には指定されているが、避難所には指定されていない

という施設が数多く存在する。

高架道路、港湾施設、立体駐車場、人工地盤、屋上空間、津波避難ビル――
これらは「津波から逃げる」ことはできても、「そこで生き続ける」設計にはなっていない。

大阪市の災害時の避難場所、避難所について

https://www.city.osaka.lg.jp/kikikanrishitsu/page/0000012054.html

結果として何が起きるのか。

命は助かったが、次の行動が取れない人々が大量に発生する。

これは避難の失敗ではない。
制度設計そのものの破綻である。

あの東日本大震災でも津波が引くまでに相当の時間を要した。
大阪市0メートル地帯は、原則ポンプアップしなければ、排水不可能であり、
いつ地上で避難行動が取れるのか、全くその予想を観たことがない。

3日以上“出られない”ことが想定される現実

災害対応では「72時間の壁」という言葉がよく使われる。
しかし湾岸0メートル地帯では、72時間どころか、その間ずっと閉じ込められる可能性がある。

  • 浸水が引かない
  • 舟艇が不足する
  • 道路が寸断される
  • 橋梁が使えない

この条件下で、一時避難場所は事実上、

「簡易避難所として機能せざるを得ない場所」

に変質する。

にもかかわらず、

  • 備蓄は想定されていない
  • 管理主体が不明確
  • 運営計画が存在しない

という空白が放置されている。

なぜ大阪市はこの問題を放置しているのか

理由は単純である。

制度上「想定していない」からである。

  • 避難場所は短時間
  • 避難所は別途
  • その間はスムーズに移動できる

この“机上の連続性”が、現地条件を上書きしてしまっている。

さらに言えば、

  • 湾岸部は居住人口が相対的に少ない
  • 港湾・産業機能が優先される
  • 巨額の対策費が必要

といった事情も重なり、問題は「見えていても直視されない」状態にある。

しかしこれは、災害が起きてからでは取り返しがつかない問題である。

必要な「段階型避難」の再設計

対策の方向性は明確である。

  • 一時避難場所を最低3日以上耐えられる拠点として再定義する
  • 水・トイレ・非常食・発電の最低限の確保
  • 孤立を前提とした運営マニュアルの整備
  • 垂直避難拠点=準避難所という新しい区分の導入

これは「過剰防災」ではない。
現実に即した避難計画である。

「知らされていない」こと自体が最大のリスク

最も深刻なのは、市民の多くが、

自分が逃げた先で、数日間出られない可能性

を知らされていない点である。

防災とは、インフラ以前に情報の設計である。
この事実を共有しないまま指定だけを並べることは、安心ではなく錯覚を生む。大阪市湾岸エリアに存在するこの問題は、専門家の間では決して新しい話ではない。
それでもなお制度が変わらないのは、「まだ起きていない」からである。

だが災害は、待ってはくれない。

「避難場所に逃げれば大丈夫」という言葉が、
どこまでの時間を保証するのか

この問いに答えないままの防災計画は、計画とは呼べない。

<山口 達也>

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