前回に引き続き、起業支援について、福岡市、名古屋市を例に、大阪市での起業支援文化としての未来を考える。
なぜ「支援があるのに使われない」のか
大阪市に住んでいると、よくこう感じる。
「新しいことやってみたいなあ、起業支援、いろいろあるらしいけど、大阪市役所?産業創造館?グランフロント? 結局どこに行けばいいのかわからない」
実はこれ、制度がないのではない。
むしろ逆で、制度はあるのに機能していないのである。
前回触れた通り、大阪イノベーションハブのような拠点も存在し、グランフロントを中心に「それっぽい場所」は整っている。
だが、それらは点在しており、利用者の側から見ると「つながっていない」。
つまり大阪市の問題は、
制度不足ではなく“設計不足”である。
起業するマインドに立った視点に欠けているのだ。
福岡市はなぜ機能しているのか
一方で、福岡市は明らかに違う。

福岡市の支援を一言で言えば、「迷わせない設計」ができている。
代表的なのが「スタートアップカフェ」。
ここは単なる相談窓口ではない。
起業相談、セミナー、人材マッチング、投資家との接点、
これらが一体化している。
重要なのはここである。
“ワンストップ”ではなく“ワンプレイス”であること。
つまり、「ここに来れば全部ある」という安心感がある。
さらに、福岡市は国家戦略特区を活用し、法人設立や外国人起業家の支援まで含めて、制度を横断的に組み合わせている。
制度単体ではなく、体験として設計されているのである。
名古屋市は「強いが広がらない」
では、名古屋市はどうか。


名古屋市は補助金や制度面では決して弱くない。
むしろ金額ベースでは大阪より上回るケースもある。
しかし、実際に使う側の体感としてはこうなる。
「制度はある。でも、広がらない」
理由はシンプルである。
横のつながりが弱い、挑戦を後押しする空気が薄い、行政が“伴走”しない。
つまり、制度が「点」で終わっている。
福岡が「面」で設計されているのに対し、
名古屋は「強い点がある都市」である。
大阪市に欠けているもの
ここまで比較すると、大阪市の課題はより明確になる。
「場の設計」と「空気の設計」がない
大阪市にも拠点はある。それなりに制度もある。予算もある。
だが、それらが、分散していて、ストーリーがなく、誰のためか曖昧という状態になっている。
結果として、「結局、自分で全部調べて、自分で動くしかない」
という構造になのだ。
これは行政サービスとしては致命的である。
なぜなら、起業初期の人間は「迷っている状態」だからである。

行政サービスは“導線設計”である
行政サービスとは、「制度の集合」ではなく「導線の設計」がその根幹である。
福岡市はこれを理解している。
まず来る場所がある→次にやることが示される→次の人につながる
この一連の流れが自然に設計されている。
一方、大阪市は
情報が分散→窓口が分散→判断が個人任せとなっている。
つまり、「自己解決能力が高い人しか使えない」行政になっており、そうでない人には、非常に使いにくい仕組みとなっている。
大阪市の未来はどうあるべきか
では、大阪市はどうすべきか。答えはシンプルである。
福岡市のような「統合設計」を取り入れること
具体的には:
① ワンプレイス化
- 起業支援を一箇所に集約する
- 物理的な「場」をつくる
② ストーリー設計
- 起業前 → 起業 → 成長
の流れを明示する
③ コミュニティ設計
- 起業家同士が自然につながる仕組み
④ 担当者依存の排除
- 誰でも同じ支援が受けられる設計
万博・IRでは解決しない理由
大阪は万博やIRで経済が活性化すると言われていた。
しかし、それは「外から来る経済」である。言わば、黒船頼みの政策である。
一方、起業支援は「内から生まれる経済」であり、
この二つは全く別物である。
外から人を呼び込むことと、内から人が育つことは違う。
大阪市の本当の課題は、後者である。
音楽の世界では長い間、「大阪で生まれ、東京で育ち花開く」と言われてきた。
もちろん市場規模の問題もあるであろう。
しかしそれ以上に、大阪市が本気で起業支援しようという強い意思を感じることはできない。
最後に──「挑戦できる都市」とは何か
結局のところ、都市の価値はここに集約される。
「挑戦した人が、孤立しないかどうか」
福岡市は孤立させない。名古屋市は放置する。
更に大阪市は気づいてもいない。
この差は大きい。そしてこれは、制度の差ではなく、思想の差である。
自分ごととして考える
もし自分がこれから起業するなら、どうするか。
正直に言えば、「福岡に一度行ってみる」ことである。
それは制度のためではない。空気を確かめるためである。
なぜなら、最終的に人は「やれる気がする場所」でしか動けないからである。
大阪人の多くは、意外と大阪の外のことを知らない。
自分ごととして考えた時、一度福岡に限らず、外から見た大阪を眺めてみてはいかがであろうか。
<山口 達也>

