東京都・他都市の「厚み」「思想」の差―大阪府・大阪市と商店街支援②

大阪市地方自治の現在地進化する自治 vision50
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前回はこの15年に渡る大阪府・大阪市による商店街へのサポートの二面性をレポートした。今回は、大阪市を特別区にするしないみたいな論争の前に、東京や他都市がどのように商店街を支援しているかを俯瞰する。

東京都の商店街支援 ― 重層化されたメニュー構造

東京都の商店街支援は、大阪市のそれと比較すると、まず制度のメニュー数においてが違う。都産業労働局の単独施策だけでも、イベント事業、活性化事業、地域力向上事業、地域連携型商店街事業、政策課題対応型商店街事業、広域支援型商店街事業、未来を創る商店街支援事業、商店街ステップアップ応援事業、商店街空き店舗活用モデル事業 ― といった主要メニューが並列している。

これらに加え、東京都中小企業振興公社が運営する商店街起業・承継支援事業、若手・女性リーダー応援プログラム助成事業、商人大学校、商店街リーダー実践力向上塾、商店街パワーアップ作戦などがあり、ハード整備からイベント、人材育成、新規出店、事業承継までを面で押さえている。

「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」「商店街起業・承継支援事業」のエントリー開始|ニュース・トピックス より

しかも、これらは目的別に補助率と限度額が異なる。

活性化事業の都補助限度額は5,000万円 Tokyo Metropolitan Government、地域連携型商店街事業の活性化事業は都補助率2/5以内(都補助限度額1億円) Tokyo Metropolitan Government、政策課題対応型商店街事業は9/10以内(補助限度額1億2千万円) Tokyo Metropolitan Governmentに達する。

広域支援型は2,000万円、空き店舗活用モデル事業は3,000万円。

商店街起業・承継支援事業は最大約694万円、若手・女性リーダー応援プログラム助成事業は最大884万円である。一店舗の補助でこの規模が出る制度は、大阪府・大阪市の現行メニューには存在しない。

商店街リーダー実践力向上塾 | 東京都中小企業振興公社 より引用

中長期伴走型という発想

東京都の制度設計でとりわけ示唆的なのは、「未来を創る商店街支援事業」のような中長期伴走型の枠組みである。

都自身が説明する通り、”新たな商店街づくり”に加え”地域ブランド”構築の継続や維持に取り組む商店街の基礎づくりをサポートし、さらにグランドデザイン策定から実行支援まで一気通貫で3年間伴走支援を行います Tokyo Metropolitan Government

具体的には採択商店街に3ヵ年度に渡り、伴走アドバイザーを派遣 ・初年度に3年後の商店街のあるべき姿を明確化し、そこに到達するまでの中期計画を伴走アドバイザーとともに策定 ・計画策定後は実行フェーズに移行し3年度目まで資金面で支援 ・年度ごとにサポート会議において評価及び助言 Tokyo Metropolitan Governmentという建付けで、補助率は都補助率1年目 1/2以内(都補助限度額1,500万円) 都補助率2・3年目 1/2以内(都補助限度額5,000万円) Tokyo Metropolitan Government

ここに表れているのは、商店街を「単年度のイベント主体」ではなく「3年単位で再生していく地域単位」と捉える思想である。
アドバイザーの派遣、計画策定、年度ごとのサポート会議による評価 ― 行政の手間も人員もかかる仕組みを、東京都は組み立てている。

一方の大阪市は、同一事業について初めて交付決定を受けた年度とその翌年度・翌々年度までの申請を対象 Osaka Cityとする3年制限を「自立を促すため」と説明するが、伴走者は付かず、評価も付かず、計画策定支援も付かない。「3年で切る」点だけが共通しており、その3年の中身が決定的に違う。

都と区の二段積み構造

東京都で決定的に重要なのは、都の補助に各区市町村の上乗せが加わる二段構造が定着していることだ。

新宿区の「にぎわいにあふれ環境にもやさしい商店街支援事業補助金」、渋谷区の「商店街活性化事業助成金」、葛飾区の振興事業、文京区の「文京区商店街チャレンジ戦略支援事業補助金」、中野区の独自パッケージ、墨田区の「商店街チャレンジ戦略支援事業」、世田谷区、豊島区、目黒区 ― ほぼすべての特別区が、都のチャレンジ戦略支援事業を土台にしつつ、区独自の上乗せメニューを並走させている。

葛飾区では商店街振興事業のうち、法人商店街の場合は限度額2億円、任意商店街の場合は限度額が2,000万円 City of Katsushikaという規模の事業がある。
墨田区は本事業は、平成30年度に東京都が「新・元気を出せ!商店街事業」を「商店街チャレンジ戦略支援事業」に名称を変更したことを受けて、墨田区においても、事業の見直しを行った結果、「新・元気を出せ商店街事業」と「商店街育成補助事業」を統合してできた事業です Sumida Cityと、都施策と区施策を接続する形で制度を組み直しており、都と区が制度連動している様子がうかがえる。

区の側にも、商店街連合会の事務局を支援する人員配置がある。葛飾区のように商店街が地域団体(町会・自治会・子ども会等)と連携して実施する区民向けイベント事業に対して、経費の一部助成 City of Katsushikaを行うなど、地域団体との連携を行政側が制度的にお膳立てしている。

商店街は「自分たちで連携先を探せ」と突き放されるのではなく、制度のなかで町会・自治会との接続が前提として組み込まれている。

加えて、空き店舗対策の共通インフラも官側に存在する。都と東京都商店街振興組合連合会が運営する「TOKYO 空き店舗ナビ」は、各商店街が個別に情報発信する負担を制度側で巻き取る仕組みだ。商店街グランプリも平成17年度から継続されており、表彰・周知の仕掛けが20年単位で積み上がっている。

都内商店街での開業助成金 東京都中小企業振興公社 より引用

大阪市との制度比較 ― 規模・継続性・思想すべてで差

大阪市の主要メニュー三本 ― 共同施設等整備支援補助金(ハード)、商店街等活性化支援補助金(ソフト・イベント)、空き店舗を活用した商店街再生事業補助金 ― は、いずれも補助限度額が東京都の対応メニューの数分の一から十分の一規模である。

中長期の伴走型支援に相当する枠組みは存在しない。空き店舗再生事業は大阪市、大阪商工会議所及び大阪市商店会総連盟で構成する商店街再生事業実行委員会が主催したワークショップを通じて作成された事業プランに基づき空き店舗を活用する事業 Osaka Cityのみが対象で、ワークショップ参加が前提という入口の狭さがある。

東京都が「住民の生活を支える商店街」「地域コミュニティの拠点」「環境・防災・福祉・グローバル化など行政課題の解決の場」と定義し直して、それぞれにメニューを当てているのに対し、大阪市の制度は「ハード/ソフト/空き店舗」という事業カテゴリ別の薄い三本柱でしかない。
商店街が地域社会のなかで担う多面的な役割に対し、それを切り出して制度として支える発想が、大阪市には乏しい。

さらに大阪府の令和5年度新設「商店街店舗魅力向上支援事業」は、万博開幕やインバウンドの復活による国内外の旅行客を取り込み、商店街での観光・消費を促進するため、商店街に「観光」の視点を取り入れ、誘客のポテンシャルある商店街の「観光コンテンツ化(周遊企画等の実施)」を行うとともに、デジタルスタンプラリーやSNS等の情報発信により、商店街の魅力向上の取組 Osaka Prefectural Governmentを行うものであり、現物の事業費補助ではなくポータルサイト掲載・スタンプラリー・万博のぼり掲出など、観光プロモーションへの傾斜が顕著である。

東京都には潤沢な資金があるからという指摘もあるだろう。では他政令市はどうなっているのか調べてみた。

他政令市との位置関係

札幌市の「商店街商業機能向上支援事業」、仙台市の「頑張る商店街応援事業助成金」、京都市の伝統商業振興策、神戸市・福岡市の独自支援メニューなど、他政令市もそれぞれ補助制度を持つ。

規模では東京都には及ばないが、商店街を「生活インフラ」「地域コミュニティ拠点」として位置づける前提は維持されており、メニューもコミュニティ施設整備、空き店舗対策、商品開発、人材育成など複線的に組まれている。
札幌、仙台、福岡などでは、商店街と町内会・市民団体の協働が補助の前提として組み込まれているケースが目立つ。

ところが大阪市は、政令市平均から見ても、補助の幅、厚み、継続性、伴走支援の有無、共通インフラの提供 ― これら全方位で見劣りする。
商業集積数で大阪市と並ぶ大都市が、大阪市のように「単発・薄味」の制度に切り詰めている例は他に見当たらない。

全国レベルで進む空き店舗化

中小企業庁の空き店舗率(*)は13.59% 中小企業庁という令和3年度調査結果は、コロナ禍の影響もあって全国的に深刻だ。
空き店舗率ごとの商店街数の分布をみると、空き店舗率が10%以上の商店街は全体の43.3% 中小企業庁であり、商店街全体の半数近くが10%超の空き店舗を抱えている。

商店街の最近の景況は、「繁栄している(繁栄の兆しがある含む)」が減少(前回調査5.9%→今回調査4.3%)、「衰退している(衰退の恐れがある含む)」が減少(前回調査67.7%→今回調査67.2% 中小企業庁と、「衰退」の認識は7割近くで高止まり。これは構造的な問題であり、放置すれば加速する性質のものだ。

だからこそ、東京都は伴走型・複線化に舵を切り、他政令市も独自の制度化を進めている。大阪市の「単発・薄味」運用は、この全国的な動きから明確に外れている。

まとめ

東京都と大阪市の落差は、財政規模の問題に解消できない。一般会計予算は、8兆4,530億円 Rengo-tokyoの体力差は確かにあるが、本質はそこではない。

都が「生活インフラとしての商店街」を制度の出発点に置き、メニューを多層化し、区市町村と二段積みし、3年間の伴走を制度化しているのに対し、大阪府市はこれを二重行政として削減に削減を重ね、「観光活用できる部分だけを磨く」方向に思想を寄せ、生活密着型の商店街を制度の周縁へ追いやってきた。

「大阪の顔」と呼ぶ華やかな看板の裏側で、実装されている制度設計の思想自体が、東京・他都市と15年かけて分かれていったのである。

<山口 達也>


参考・引用元



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