改革のあとを、誰が見ているのか

進化する自治 vision50
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行政が進めた改革には、完了報告がある。

事業を廃止した。
施設を統合した。
職員を減らした。
民間委託に切り替えた。
手続きをデジタル化した。

削減した金額や実施した事業数、計画の達成率が集計され、「改革の成果」として公表される。
しかし、それは行政が何をしたかを示すものであって、その結果、市民のくらしに何が起きたかを示すものではない。

施設を統合したことで、利用するまでの距離や時間はどう変わったのか。職員を減らしたことで、必要な支援にたどり着きにくくなった人はいないか。民間に委ねたことで、責任の所在や検証の手段は失われなかったか。効率化によって、事故や災害に備える余力まで削られていないか。

改革を実施したことと、改革が目的を果たしたことは同じではない。

行政が変わったことを、改革の成果とするだけでいいのか。その結果、市民のくらしがどう変わったかによって、改革を評価しなければ、ほんとうの成否は測れないのではないか。

改革後のくらしは、報告書には表れない

行政が公表する改革成果は、一つの数字になる。
一方、その後に生じた変化は、一つの結果としてまとめられることがない。

施設が遠くなり、利用を諦めた人がいたとしても、その人は苦情を出すとは限らない。窓口で手続きに時間がかかるようになっても、その時間は行政コストには表れない。行政が担っていた役割を家族や地域が引き受けても、その負担は予算書には載らない。

委託先と行政の間を行き来させられたこと事情を知る職員がいなくなったこと地域で続いていた活動が成り立たなくなったことも、それぞれ別の場所で起きた不便や不満として扱われる。

現場から失われた経験や専門性、事故や災害に対応するための余力は、平常時には見えにくい。問題が起きて初めて、その必要性が分かることもある。

こうした出来事が、改革によって生じたものなのか、別の理由によるものなのか。市民には判断するための情報が十分に示されていない。

行政が改革後の変化を継続して調べ、改革との関係を検証しなければ、個々の現象は「一部の市民の不満」として切り離されてしまう。

削減は一つの数字になる。
成果は「改革」として社会に共有される。
一方、その後に生じた不便や負担は、一人ひとりの事情に分散する。

【図1 見える改革成果と、見えない改革後】

| 見える改革成果   | 見えない改革後          |
| --------- | ---------------- |
| 削減額       | 移動・待ち時間は増えなかったか  |
| 職員・施設の削減数 | 利用を諦めた人はいなかったか   |
| 委託・官民連携件数 | 家族や地域の負担は増えなかったか |
| デジタル化率    | 利用できない人を生まなかったか  |
| 計画達成率     | 経験・専門性・余力は残ったか   |
| 行政が集計する   | 一人ひとりの事情に分散する    |

成果は「改革」として共有される。
失われたものは、個人が引き受ける。

大阪市も「市民のための改革」を掲げている

大阪市の市政改革も、市民を置き去りにすると説明しているわけではない。

現在の「新・市政改革プラン」は、
・DX
・官民連携
・業務改革
・働き方改革
・ニア・イズ・ベター
・持続可能な行財政基盤の構築

を六つの柱としている。市民の生活の質や住民満足度、市民サービスの向上も掲げている。

2026年度の市政運営でも、子育て・教育、福祉、防災、市民サービスの充実などが示されている。

目指しているとされるものだけを見れば、「市民のくらしを支える」という考え方と大きく異ならない。
問題は、理念ではなく、その成果をどのように測っているかにある。

大阪市が公表している過去の市政改革の成果には、経常経費や公共事業費公債発行額などの削減が、金額や達成率とともに記録されている。2026年度の市政改革室運営方針でも、「新・市政改革プランに定めた目標の達成率85%」が評価指標とされている。

計画の進捗を管理し、支出や事業量を把握することは必要である。しかし、それらは主として、行政が何を実施したかを測る指標である。
DXを進めたか。官民連携を導入したか。業務を効率化したか。計画した項目を達成したか。
その先にあるはずの、市民のくらしに何が起きたかという結果は、改革全体の成果としては見えにくい。

行政が設定した計画を行政が実行し、その達成度を行政が評価する。その循環だけでは、改革によって市民が得たものと失ったものを確かめることはできない。
「市民のため」という目的を掲げるのであれば、その目的が実現したかどうかも、市民の側に生じた結果によって検証されなければならないのではないか。

行政から消えたコストは、どこへ行ったのか

行政の支出を減らすことと、社会全体の負担を減らすことは同じではない。

行政の窓口や施設を減らせば、維持管理費や人件費は削減できるかもしれない。しかし、市民がより遠くまで移動し、長く待ち、複雑な手続きを自分で行うことになれば、行政から消えた負担は市民の時間と労力へ移ったことになる。

行政が担っていた支援を家族や地域に委ねれば、公的な支出は減る。しかし、介護や見守り、移動の支援、地域活動などを無償で引き受ける人の負担は増える。

施設や設備の更新を先送りすれば、当面の支出は抑えられる。しかし、将来の修繕費や事故の危険が増えれば、リスクを後の世代へ移しただけかもしれない。

現場の職員や技術者を減らせば、人件費は削減できる。しかし、行政内部に蓄積されてきた経験や専門性まで失われれば、異常時の対応力を再び築くには長い時間がかかる。

行政から消えたコストが、社会から消えたとは限らない。

市民の時間、家族の負担、地域の無償労働、現場職員の過重労働、将来の修繕費、事故や災害時の損失へ移されていないかを確かめる必要がある。

行政内部の収支が改善しても、その外側で市民や社会の負担が増えているなら、それは改革の成果と呼べるだろうか。

ほんとうの成果は、行政の中には記されない

行政にとっての利益は、行政組織の内部に多くの金を残すことではない。
また、金額だけで測れるものでもない。

必要なときに必要なサービスを受けられること。
事故や災害が起きても社会の機能が止まらないこと。
経済状況や障害、年齢、住んでいる地域にかかわらず、市民に選択肢が残されていること。
地域で人と人との関係が保たれていること。
将来の市民にも、必要な公共の能力が引き継がれていること。

こうした市民と社会の側に残るものが、自治体が生み出す利益である。

これまで本シリーズでは、削減額だけでは改革を評価できないこと、平常時には使われていない余力が異常時のくらしを守ること、行政内部の黒字が市民の側の負担を増やす可能性があることを考えてきた。

公共性も、行政が直接運営しているか、民間が担っているかという名称だけでは決まらない。

誰が最終的な責任を負うのか。必要なサービスは継続されるのか。市民の声を受け止めるしくみがあるのか。判断の根拠と結果を検証できるのか。問題が起きたときに修正できるのか。

行政直営であっても、これらが欠ければ公共性は損なわれる。民間が担っていても、行政の責任と市民による検証のしくみが保たれていれば、公共性を支えることはできる。

問われるべきなのは、誰が運営しているかだけではない。そのしくみが、市民のくらしを支え続けられるかである。

自治体は、市民を管理するためにあるのでも、行政組織の利益を最大化するためにあるのでもない。

一人ひとりのくらしと、社会の基盤を成り立たせるためにある。

改革を見る物差しを変える

削減額、処理時間、事業数、計画達成率などは、行政運営を管理するために必要な指標である。それらを捨てる必要はない。

しかし、それだけで改革を評価することはできない。

削減した結果、くらしを守る力は高まったのか。効率化した結果、事故や災害への備えは強くなったのか。統合やデジタル化によって、市民の選択肢は本当に広がったのか。官民連携によって、責任や地域とのつながりはどう変わったのか。

行政が掲げた計画を達成したかだけでなく、市民がその結果を知り、判断し、必要な修正に関われるかも問われなければならない。

財政上の将来負担を減らす一方で、人材、施設、技術、情報、余力といった公共の能力まで将来世代から奪っていないかも確かめる必要がある。

行政内部の実績を、市民のくらしに生じた結果によって検証する。

手段を実行したかではなく、その目的が実現したかによって評価する。

| 行政内部で示される実績   | その結果は? | 市民のくらしから確かめること        |
| ------------- | ------ | --------------------- |
| 削減額・収支        | →      | くらしを守る力は高まったか         |
| 稼働率・処理時間      | →      | 安全・安心と異常時の余力は高まったか    |
| 統合・標準化・オンライン化 | →      | 利用可能性と選択肢は広がったか       |
| 委託・官民連携・参加者数  | →      | 責任が保たれ、地域とのつながりは強まったか |
| 計画進捗率・目標達成率   | →      | 市民が判断・検証・修正に関われるか     |
| 財政負担削減・資産活用   | →      | 将来に人材・施設・技術・余力が残るか    |
手段の達成を、目的の実現によって評価する。

市民は、改革の顧客ではない

行政サービスに市場の考え方を持ち込むと、市民はサービスを選び、利用し、満足度を答える「顧客」として扱われやすくなる。

しかし、市民は行政サービスの利用者であるだけではない。

何を公共として守るのか。限られた資源をどこに使うのか。どのような負担を引き受け、どのような社会を次の世代へ残すのか。それを判断する主体でもある。
市民は、その判断を行政にすべて委ねているわけではない。

ただし、市民参加の機会を増やせば、それだけで自治が実現するわけでもない。

会議に出席できる人、声を上げられる人、行政資料を読み解ける人だけで判断すれば、参加できない人の権利が取り残される。専門的な判断や最終的な責任を、市民や地域へ移してよいわけでもない。

必要なのは、市民参加を行政責任の代わりにすることではない。

行政が自らの判断と結果を市民に示し、異なる経験や意見を受け止め、必要な修正を行う。その過程に市民が関われるしくみをつくることである。

満足度を尋ねるだけでは足りない。改革によって利用できなくなった人、途中で諦めた人、声を上げられない人の存在も捉えなければならない。

市民は、行政が決めた改革を受け取るだけの顧客ではない。改革の目的と結果を判断する側にいる。

変える力から、修正できる力へ

社会は変わり、市民のくらしも変わる。新しい技術や民間の力を活用することが、市民の利益につながる場合もある。従来の制度を残すだけでは、対応できない問題もある。

行政は変わらなければならない。

しかし、変えること自体を改革の成果にしてはならない

制度を変えたあと、市民のくらしに生じた結果を調べる。その結果を市民に示す。当事者の声を受け止め、問題があれば制度を修正する。

廃止した機能が必要だったと判れば、つくり直す。外部に委ねたことで責任が不明確になったなら、行政の関与を強める。削った余力が社会を守るために必要なら、再び確保する。

前へ進むことだけが改革ではない。立ち止まることも、元に戻すことも、失われたものを取り戻すことも、必要であれば改革である。

進化する自治とは、新しい制度を次々に導入する自治ではない。

市民のくらしに生じた結果を確かめ、間違いがあれば修正し続けられる自治である。

【図3 改革は、実施して終わりではない】

進化する自治

改革を実施する
くらしに生じた結果を調べる
結果を市民に示す
市民が判断・検証に関わる
行政が必要な修正を行う

変える力から、間違いを修正できる力へ。

「改革後」から、個々の政策を見ていく

「行政は何のために変わるのか」という問いに、すべての政策に当てはまる一つの答えがあるわけではない。

施設の統廃合、民間委託、職員削減、デジタル化、防災、福祉、教育、文化、インフラ整備。それぞれの政策には、異なる事情と目的がある。

だからこそ、改革という言葉だけで一括して評価するのではなく、個々の政策について確かめていく必要がある。

何が、どのような目的で変えられたのか。行政は何を成果として示したのか。その結果、市民の時間、負担、安心、選択肢はどう変わったのか。地域とのつながりや行政の専門性、異常時の余力は残っているか。問題が明らかになったとき、制度を検証し、修正できるのか。

これから本シリーズでは、行政が示す「改革の成果」だけでなく、その後、市民のくらしに現れた結果を見ていきたい。

行政が進めた改革には、報告書がある。
だが、改革後のくらしは、報告書には表れない。

その見えない結果を確かめ、市民が判断できる形にすることから、自治は始まる。

行政の成果を、市民のくらしから測る。
公共性を、担い手の名称ではなく、しくみと責任から確かめる。
市民が判断と修正に関われる自治を育てる。

「行政は何のために変わるのか」という問いは、ここで終わるのではない。

ここから、個々の政策を検証していくための出発点になる。

参考資料
  • 大阪市「新・市政改革プラン―未来へつなぐ市政改革―」
  • 大阪市「令和8年度 市政運営の基本的な考え方」
  • 大阪市「令和8年度市政改革室運営方針」
  • 大阪市「これまでの市政改革の主な成果・取組一覧」
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