防災の日に問う、大阪市の避難所計画
今日9月1日は「防災の日」である。
これを前に、政府の地震調査研究推進本部は、近畿地域の活断層について新たな長期評価を公表した。
活断層評価から、自治体の備えを考える
今回の長期評価は、南海トラフのような海溝型地震とは別に、内陸の活断層で発生する地震を対象としたものである。主要活断層帯だけでなく、地表で確認できる長さが短い活断層や沿岸海域の断層などにも対象を広げ、個々の断層だけでなく、地域全体として危険性を捉え直した。
評価が変わったから、防災の重要性が変わるわけではない。しかし、地震の危険をより詳しく把握しようとするなら、自治体の備えも現実に即して点検されなければならない。
そこで、大阪市の避難所計画について調べてみた。
数字の上では足りている避難所
大阪市は、南海トラフ巨大地震の被害想定をもとに、避難所生活者を52万9787人と見込んでいる。
一方、2026年3月末現在、市内569か所の災害時避難所について公表された「受入可能人数」を合計すると、62万7004人となる。数字の上では、想定避難所生活者数を9万7217人上回る。
しかし、この数字上の余裕が、現実にもあるとは限らない。公表された受入能力の84.5%以上を、発災時に同時に使えなければ、52万9787人を収容できないからである。
市内の住宅地にある、ある学校避難所では、市の一覧に千人を超える受入可能人数が記載されている。一方、地域の避難所配置計画で、初動時に避難者の居住場所として想定されているのは主に体育館である。
平日の昼間に地震が起きれば、学校には多くの児童がいる。建物の安全を確認し、児童を待機させ、保護者への引き渡しに備える場所が必要になる。その一方で、地域住民も避難してくる。
受付、本部、救護、物資の保管と配布、通路、トイレを確保し、高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児を伴う世帯などにも、それぞれに応じた場所が必要になる。体育館や教室の床すべてを、避難者の居住場所に使えるわけではない。
この一つの事例だけで、大阪市全体の受入能力がどれだけ減るかを判断することはできない。しかし、施設の面積から算出された「受入可能人数」と、実際に避難所として使える人数が同じではないことはわかる。
2割使えなくなるだけで不足する
仮に、施設被害や浸水、児童の在校、避難所運営に必要な空間の確保などによって、実際に使える収容力が公表値の80%になれば、受け入れられる人数は約50万1600人となり、想定避難者数に約2万8000人足りない。
さらに、実際に使える収容力が公表値の20%にとどまる場合、受け入れられるのは約12万5400人である。これは想定避難者52万9787人の約24%、4分の1以下にすぎない。約40万4400人分の受入場所が不足する計算になる。
80%や20%という数字は、大阪市全体の実態を示すものではなく、公表された受入能力が実際にはどこまで使えるのかを検証するための仮定である。しかし、公表上は約9万7000人分の余裕があるように見えても、実際に使える空間が2割減るだけで不足へ転じることはわかる。
大阪市は、公表している62万7004人という受入可能人数について、発災時に実際に使える空間をもとに検証しているのだろうか。

畳一枚分を「受入可能」とする計算で良いのか?
大阪市が地区防災計画で示す学校避難所の算定方法では、教室や体育館などの有効面積を、1人当たり1.6平方メートルで割って収容人数を算出する。
1.6平方メートルは、およそ畳一枚分である。そこに本人が横になり、寝具や荷物も置くことになる。
一方、東京都建築士事務所協会が公表した「避難所モデルプラン」は、一般の避難者は個人で4平方メートル、家族単位でも1人当たり2.5~3平方メートルを目安としている。高齢者や妊産婦には、ベッドを含めて1人6平方メートルを確保する考え方も示されている。
これは大阪市が従うべき義務的な基準ではない。しかし、仮に千人を受け入れるなら、大阪市の算定では有効面積1600平方メートル、モデルプランでは居住部分だけで2500~4000平方メートルが必要になる。
さらに、受付、本部、救護、物資の保管と配布、通路、トイレなどの場所を別に確保しなければならない。
建物全体の面積と、避難者が生活できる面積は同じではない。公表上の受入可能人数が、実際の避難所運営を前提とした人数なのかを確かめる必要がある。
![【図版2 「受入可能人数」が現場の人数になるまで】
A["学校施設全体"] --> B["安全確認<br>被災・浸水・立入禁止区域を除く"]
B --> C["学校機能<br>児童の待機・引き渡し場所を確保"]
C --> D["避難所機能<br>受付・本部・救護・物資・通路・トイレ"]
D --> E["避難者の居住に使える面積"]
E --> F["生活面積・備品を考慮した<br>実際の受入可能人数"]
F --> G["上限超過時の<br>移動先・経路・判断者"]](https://ucosaka.com/wp2025/wp-content/uploads/2026/09/20260901_chart_02-1.jpg)
市全体の備蓄と、避難所にある備蓄
物資についても、市全体の数量と、各避難所の備えは分けて考える必要がある。
大阪市は、大阪府と合わせて約53万人の3日分を備蓄する方針を示している。食料は大阪府が2日分、大阪市が1日分を担い、市の1日分は原則としてアルファ化米2食とビスケット1食である。
2025年10月現在、簡易ベッドは必要数7,608個に対して2,278個、パーティションは7,608個に対して3,637個であり、市は調達を進めている。
しかし、これらは市全体の数量である。各避難所に、何人分のアルファ化米とビスケット、水、簡易トイレ、ベッド、パーティションが置かれているのかは、大阪市の公表資料からは確認できない。
千人を超える受入可能人数が記載された避難所であっても、その人数と備蓄数量がどのように対応しているのか、地域の運営側とは十分に共有されているとは言えない。
満員になったとき、誰がどう判断するのか
大阪市の避難所開設・運営ガイドラインには、避難者が多く施設に入れない場合、区災害対策本部と調整し、ほかの施設への移動を検討するとある。
しかし、
- いつ、誰が受入限度に達したと判断するのか。
- どの施設へ、どの経路で移動させるのか。
- 移動先にも受け入れる余裕があるのか。
こうしたことまでは具体的に示されていない。
行政職員が現場に到着していなければ、実際に避難所を開設・運営する地域住民は、十分な情報も判断基準もないまま、受け入れを続けるか、避難者にほかの場所へ移動してもらうかを判断しなければならない。
計画上の受入人数と現実の受入限度の違いが、発災してから明らかになれば、現場が混乱するだけでなく、行き先のない市民が生まれることになる。
地域が担えるしくみを行政が整える
地域住民が避難所の開設や運営を担うことは必要だ。しかし、行政の責任は、地域に役割を割り振ることだけではない。
避難所ごとに、実際に使用できる床面積、発災時刻や児童の在校を考慮した受入人数、食料や水などの備蓄品の配置数、受入上限を超えた場合の移動先と判断者を示す必要がある。
市長のもとで危機管理室、区役所、教育委員会、学校、地域が一緒に検証し、計画を更新するしくみも欠かせない。
大阪市を廃止し、特別区に編成する議論を進めるのであれば、こうした全市的な調整と、一つひとつの避難所を支える機能を、誰がどのように引き継ぐのかも示されなければならない。
大阪市には、想定避難者数、施設ごとの受入可能人数、市全体の備蓄総数はある。しかし、それらを一つの避難所で実行できる計画につなぐ、避難所ごとの実施計画が見えない。
地域に引き受けさせることと、地域が担えるしくみを行政が整えることは違う。
都市の防災力は、計画書に記載された数字ではなく、情報、人員、物資、判断する権限が現場でつながっているかによって測られるべきではないだろうか。

