能勢・豊能まちづくりが目指す「自治」とエネルギー循環 [1]

エネルギー地産化、地域化進化する自治 vision50
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まちづくりの手段としての電力会社

自治体が抱える課題は、人口減少、財源不足、インフラ老朽化、防災、そして地域経済に占めるエネルギー比率。
それらは個別の問題ではなく、本来は一つの構造としてつながっている。

大阪府北部の中山間地域、能勢町・豊能町で設立された自治体新電力「株式会社能勢・豊能まちづくり」は、電力事業が主目的ではないユニークな事例だ。
目指しているのは、エネルギーを軸にした「自治の再設計」。
能勢町
人口:8,755人(男:4,255人女:4,500人)
世帯数:4,482世帯
面積:98.68k㎡
令和8年1月1日現在

豊能町
人口:17,490人(男:8,323人 女:9,167人)
世帯数:8,577世帯
面積:34.34k㎡
令和7年12月末日現在

図は「株式会社 能勢・豊能まちづくり」資料より抜粋

「電気」は、地域から静かに流出していた

能勢町・豊能町では、これまで毎年多額の電気代が町外へ流出していた。
能勢町で約8億円、豊能町では10億円以上に上る。これは地域が1年間に生み出す付加価値の数%に相当する金額。

同社の起点は2018年。能勢町が環境省の補助事業として実施した「地域エネルギーの実行可能性調査」にさかのぼる。森林資源を生かしたバイオマス発電や、新電力の可能性を探る調査だった。
結果として、バイオマス発電は地域条件に合わないという結論に至ったが、「新電力」には町の方でも関心を持っていたという。

何もしなければ、過疎地域は衰退していってしまうというといった危機感が町内にはあった。「エネルギーの流れを変えれば、これまで外に払っていたお金を地域内に留めるという、お金の流れも変えられるかもしれない」

「株式会社能勢・豊能まちづくり」で実務を担う北橋みどり氏は、当時の思いをこのように語る。
当初、社長の榎原友樹氏も北橋みどり氏も環境問題(エネルギー)の専門家という立場で調査にかかわった経緯もあり、地域の資源循環を能勢町のような地域で行えればよいと思ったという。

非営利型の「電力会社」という選択

可能性があるなら新電力会社を検討したい、ということで2020年、能勢町・豊能町が出資する形で「株式会社能勢・豊能まちづくり」は設立された。

特徴的なのは、その経営方針にある。
地域内の会社で出資したいという意味で、株主への配当は行わない、地域の雇用、収益は事業の維持、雇用、地域サービスの開発などに利用するということを協定書で明記している。
「電気を売って儲ける会社ではない。地域の資源循環に取り組み、まちづくりをするための“道具”として、電力事業を位置づけています」
北橋氏はそう説明する。

電力事業は、規模の小さい自治体にとって決して楽なビジネスではない。
卸電力市場の価格変動リスク、制度改正、原価高騰。それでもこの形を選んだのは、「地域の外に出ていくお金を、少しでも地域に戻す」ため。

「電気を売らない」という選択と地域で取り組む省エネ活動

「電気を売らない電力会社」という表現は、誤解を招きやすい。
それは初めから取り決めた方針ではなく、再生可能エネルギー市場の現実と正面から向き合った結果だった。

能勢・豊能まちづくりが電力供給を開始した直後、日本の再エネ電力市場は大きく揺れた。
FIT電源を含む再エネ電力は卸売市場と連動しており、2021年前後の世界的燃料高騰と需給逼迫により、卸電力価格は急騰した。※

「電気を売れば売るほど、リスクが増える状況でした」
北橋氏は当時をそう振り返る。

この経験から、同社が強く認識したのは、地域の持続性を左右するのは、「どれだけ電気を売るか」ではなく、「どれだけ地域のエネルギー支出を減らせるか」という視点だった。
そこで力を入れ始めたのが、省エネだ。

公共施設での省エネ診断では、空調や運用方法の見直しだけで、電力使用量を1~4割削減した事例もある。高額な設備投資ではなく、「今すぐできる改善」を積み重ねる手法だった。

「1kWh発電するのと、1kWh使わないのは同じこと。省エネも立派な“地域エネルギー資源”です」

この取り組みは、撤退でも妥協でもない。エネルギーの地産地消を『発電』だけでなく『消費』まで含めて捉え直した結果なのである。
能勢町役場に設置されているEV急速充電設備
能勢町役場に設置されているEV急速充電設備
※2021年に発生した新電力会社の経営危機
新電力会社の場合、需要と供給のバランスが重要で、供給が多ければ卸売市場から電力を購入する必要かある。再生可能エネルギーなどは国の固定買い取り制度であるFIT電源をJEPX(日本卸電力取引所)経由で調達する。この時、市場価格がFIT価格を上回ると、その差額(数倍~数十倍)を新電力が負担して購入することになる。
2020年末からの寒波による需要増とLNG(液化天然ガス)供給のひっ迫が重なり、JEPX(日本卸電力取引所)の価格が高騰。市場連動型の新電力は調達コストが急増し、電力供給停止や撤退、倒産が過去最多となった

エネルギーを入口に、自治をひらく

同社はその基本方針として「住民との関係性」を一貫して重視している。

再生可能エネルギーの導入やゾーニング、省エネ施策においても、ワークショップや対話の場を何度も重ねてきた。高校生、事業者、住民、自治体職員――立場の異なる人たちが同じテーブルにつく。

電力という生活に不可欠なインフラを通じて、市民が地域の意思決定に関わる回路をつくる。
それが同社の目指す“自治体新電力”の姿だ。
地域住⺠による⾃主勉強会の様⼦
ゾーニング事業におけるシンポジウムの様⼦
画像提供:株式会社能勢・豊能まちづくり

エネルギーから市民×行政を考える

ucoは自治の柱としとして「エネルギーの地産地消」と「地域経済の循環」を重要な柱としている。
能勢・豊能まちづくりの実践は、その理念を具体的な形にした一例と言えるだろう。

電力会社はゴールではない。
自治を取り戻すための、ひとつの手段である。

次回は、日本で初めて条例化された「再エネゾーニング」に焦点を当てる。対立しがちな「脱炭素」と「自然・景観」を、どのように調整してきたのか。能勢町での試みから、その核心を探る。
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