都市計画や公共建築の設計実務において、防災機能の構築は極めて重要なテーマです。しかし、用語の定義や具体的な役割分担については、専門家の間でも十分に共有されていない側面があります。本連載の第1回では、議論の土台となる「防災公園」の基礎知識について整理します。
1. 防災公園の定義と位置づけ
「防災公園」とは、単に広い空地ではありません。面積1ha以上の都市公園のうち、大規模災害時の避難場所や救援拠点として、自治体の「地域防災計画」に位置づけられた公園を指します。
地域防災計画とは、防災ガイドやハザードマップの元になる計画書のことです。
(注意点)
ハザードマップで「避難場所」と記載されていても、必ずしも「防災公園」としての設備(ライフライン等)が整っているわけではありません。正式な防災公園として認められるには、後述するインフラ整備が不可欠であり、それが整って初めて国の補助金対象となります。
2. 防災公園に求められる「二つの機能」
防災公園には、大きく分けて二つの機能が求められます。
①避難場所としての機能(市民の安全確保)
地震や火災から一時的に逃れ、安全に過ごすための設備です。
• 広場、災害用トイレ、非常用発電機、雨水貯留槽、備蓄倉庫、かまどベンチなど。
②災害、支援、復旧拠点としての機能
まちを立て直すための、広域的な支援を受け入れる機能です。
• ヘリポート、大型車両が通行・駐車できる耐荷重仕様の通路と駐車場、物資集積所、荷捌きスペースなど。
どこまで整備するかは立地と規模により、異なります。
3. 災害時における「拠点」の役割分担
都市防災をシステムとして機能させるためには、各拠点の役割を明確に分ける必要があります。
• 災害対策本部(新庁舎)
警察・消防等の関係者が集まって対策会議を行う司令塔です。自立的なエネルギー供給能力と堅牢な建物である必要があります。関係者がすぐに歩いて集まれる場所にあることも重要です。
• 防災公園
市民の皆さんが安全に過ごす場所です。地震や大規模火災時の一時避難場所、帰宅困難者の一時待機場所です。トイレが利用でき、水や食料、毛布などを受け取ることができます。リアルタイムの災害情報を知ることができ、電波が確保され、スマホの充電ができる安心な空間です。災害後は、支援物資の配布や炊き出しが行われる場所としても使われます。
• 支援拠点(ボランティアの活動拠点)
避難者を助けるための具体的な活動が行われる場所です。炊き出しの提供や物資の配布など、ボランティアによる具体的な支援活動が行われます。
• 防災拠点(支援物資を管理する倉庫と物流の中継基地)
全国から運ばれてきた支援物資を保管し、整理する場所です。 緊急交通路から容易にアクセスできる大型車両を停める広い駐車場と、物資を仕分ける体育館のような広い場所が必要です。ここで必要な物資を積み替え、防災公園や避難所の配布場所へ運んでいきます。
大型車両の駐車場は、重さに耐えられる特別な舗装が必要です。がれき撤去や道路・河川の修復工事に使う車両置き場としても利用すれば、合理的です。
防災拠点は災害時にだけ利用される場所であるので、通常は体育館やスポーツ施設として活用されます。災害時はシャワー設備やスタジオがボランティア達の生活拠点となります。

4. 合理的な空間設計。動線の分離と近接
建築設計の観点から、防災計画設計を考える上で最も重要なのは、「性質の異なる動線を混ぜない」ことです。例えば、災害対策本部(庁舎)の中に避難者対応の機能があると、本部での業務に支障が生じます。対策本部は業務に集中できる環境を確保し、避難者への対応は「交流棟」に限定。支援スタッフが専門的に対応することで、必要な人に、必要な支援がスムーズに行き届くようになります。このように、「機能は分離しつつ、物理的には近接させる」ことで、支援のミスマッチを防ぎ、限られた人員で避難者の対応が可能になります。
第1回のまとめ
「防災公園」とは、いざという時に確実に機能するためのインフラを備えた空間です。各拠点の役割を正しく理解し、それらをどうネットワーク化するのか。まちの防災力を高めるために、合理的な整備を考える必要があります。
第2回では、これらの知識を前提に、具体的な地域事例として「枚方市の現状と課題」を検証していきます。 2
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