制度は誰が止めるのか――市民が法改正を監視するためにできること

進化する自治 vision50
この記事は約4分で読めます。

個人情報保護法の改正について、ここまで三回にわたって考えてきた。
第1回では、AI開発を理由に個人情報保護のルールが見直されようとしていることを取り上げた。
第2回では、EUがGDPRによって「個人情報は人格の一部である」という考え方を制度の中心に据えていることを紹介した。
第3回では、日本がAI競争を急ぐ背景には、世界的なデータ獲得競争と、日本の産業構造があることを整理した。

では最後に、一つの疑問が残る。

こうした制度変更は、誰が監視するのだろうか。この問いは、個人情報保護法だけの話ではない。民主主義そのものに関わる問題である。

制度は、静かに変わっていく

法律が変わると聞くと、多くの人は国会での採決を思い浮かべる。しかし実際には、そのずっと前から制度変更は始まっている。有識者会議が設置される。専門委員会で議論される。審議会が報告書をまとめる。パブリックコメントが実施される。政府が法案を作成する。そして国会で審議され、成立する。

こうした流れの中で、制度は少しずつ形を変えていく。

多くの市民がその存在を知るのは、「法案が成立しました」というニュースになってからである。しかし、その時には制度の骨格は、すでにほぼ決まっている。つまり、市民が制度変更に関われる時間は、私たちが思っているよりもずっと前に存在しているのである。

「知らなかった」は珍しいことではない

今回の個人情報保護法改正についても、SNSでは「初めて知った」という声が数多く見られた。決して無関心だったわけではない。ニュースとして大きく扱われなければ、知る機会そのものがないのである。

これは個人情報保護法だけではない。

私たちの暮らしに関わる重要な制度の多くが、専門的な議論の中で進められている。制度が複雑であればあるほど、「専門家に任せるしかない」という空気も生まれる。しかし、その制度の影響を最も受けるのは、専門家ではなく市民である。

税制改正、社会保障制度、教育制度、地方自治制度…。
しかも党利党略で進められている面が、今回の自民党+維新の会での運営になってからはその露骨さが高まっている。

民主主義は「投票日」だけではない

日本では民主主義というと、選挙を思い浮かべる人が多い。
もちろん選挙は重要である。しかし、選挙だけで制度を監視することはできない。

各省庁は毎日のように制度を見直している。
地方自治体でも条例改正や計画策定が続いている。

民主主義は、投票日だけで機能するものではない。

むしろ、選挙と選挙の間に、市民がどれだけ制度を見ているかによって、その質は大きく変わる。制度を知ること。資料を読むこと。議論を追うこと。疑問を持つこと。説明を求めること。

これらもまた、市民参加の一つなのである。

市民が制度を監視するとはどういうことか

「監視」という言葉には、行政や政府と対立するイメージがあるかもしれない。しかし、本来の意味はもっと穏やかである。制度が変わる理由を知る。その根拠を確認する。賛成と反対の双方の意見を読む。自分なりに判断する。必要であれば意見を伝える。それだけでも十分に監視である。

行政にとっても、市民から質問されることは制度を磨く機会になる。説明責任とは、批判されることではない。説明できる状態にあることである。

だから、市民が制度を見続けることは、行政にとっても民主主義にとっても必要な営みなのである。

ucoが記事を書き続ける理由

ucoでは、これまで大阪都構想、議会改革、選挙制度、市民参加、公共施設、教育など、さまざまな制度を取り上げてきた。

それは行政を批判するためではない。

制度は、一度決まると長い間社会のルールになる。だからこそ、「決まってから」ではなく、「決まる前」に考えることが重要だと考えている。市民は、すべての法律を専門的に理解する必要はない。しかし、「何が変わろうとしているのか」を知ることはできる。

そのための材料を提供することが、私たちの役割である。私たちは「賛成か反対か」を読者に押し付けたいのではない。制度の意味を理解し、自分自身で判断できる人を一人でも増やしたいのである。

「自治」は、制度を見続けることから始まる

「自治」という言葉を聞くと、多くの人は自治会や町内会を思い浮かべるかもしれない。しかし、本来の自治とはもっと広い。自分たちの暮らしを左右するルールに関心を持ち、そのルールがどのようにつくられ、変えられていくのかを見続けること。

それも自治の一つである。

もし制度変更を行政だけに任せ、市民が「知らない」「分からない」で済ませてしまえば、社会は少しずつ市民から遠いものになっていく。逆に、市民が制度を見つめ続ければ、行政もまた市民への説明を怠ることはできない。

民主主義とは、政府だけがつくるものではない。

市民が制度を見続けることで、初めて成り立つ仕組みなのである。

市民が、自分自身の判断を持つために。

個人情報保護法の改正は、一つの法律の話に見える。

しかし、その本質はもっと大きい。社会のルールが、誰によって、どのような理由で、どのような手続きを経て変わっていくのかという問題である。私たちが守るべきなのは、「今ある制度」ではない。制度を市民が監視し、必要に応じて問い直すことができる社会である。その力が失われたとき、民主主義は静かに形を変えていく。そういった制度変更は常に追い続ける必要がある。

賛成か反対かを決めるためではない。市民が、自分自身の判断を持つために。

<山口 達也>

ucoの活動をサポートしてください。

    【ucoサポートのお願い】
    ucoは、大阪の地域行政の課題やくらしの情報を発信し共有するコミュニティです。住民参加の行政でなく、住民の自治で地域を担い、住民の意思や意見が反映される「進化した自治」による行政とよって、大阪の現状をより良くしたいと願っています。 ucoは合同会社ですが、広告収入を一切受け取らず、特定の支援団体もありません。サポーターとなってucoの活動を支えてください。いただいたご支援は取材活動、情報発信のために大切に使わせていただきます。 またサポーターとしてucoといっしょに進化する自治を実現しませんか。<ucoをサポートしてくださいのページへ>

    シェアする
    タイトルとURLをコピーしました