「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたら・・・7

レポート
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地震発生直後から数日後の避難者像から見る対策

前々回の第5回では、まずワーキングクループの考える、大阪市内での被害状況についてくわしく見てみた。そしてライフラインを中心に、地震発生直後から1日後、3日後といった時間差による被害と復旧がどのように考えられているのかを見て、生活にどのような影響が出るのかを確認した。
第6回では、被災した住民や帰宅困難者など、被害を受けた人たちがどのような状況となるのか、避難所や一時対応施設などではどのようなことが発生するのかを見てきた。

いずれも、実際に地震が発生した場合、この通りの経過をたどるとは限らない。あくまでも一つの想定、考えられる困難な状況を提示したものとして、避難のあり方や災害時の対策を考える一助としたいという思いでレポートを作成している。

第7回となる今回は、地震発生から数日後までの避難者や帰宅困難者の動きを想定しながら、生活者にどのような影響があり、何が困難となるかを見ていきたいと思う。

まず初めに、第3回で紹介した被害想定について改めておさらいしておこう。


「南海トラフ巨大地震 時間差をおいて発生する地震の被害想定について」
南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ

近畿地方での被害想定

中央防災会議 防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループでは、東側の半割れと西側の半割れ2つの半割れ地震が、先発地震、後発地震の2回の地震が発生するという想定でシミュレーションが組み立てられている。被害想定はそれぞれ独立した地震として発生した場合のものとなっている。
それぞれ時間の違いによる2タイプの被害を、家屋の倒壊や焼失を数値としてあらわしている。
以下は、都道府県別で想定されている被害状況のうち、近畿地方を抽出したもの。
全壊・焼失棟数(東側半割れ、地震動陸側ケース、冬・深夜、風速8m/s)
府県揺れ 液状化津波 急傾斜地
崩壊 
火災 合計 
京都府約10,000約2,500約40約900約14,000
大阪府約27,000約12,000約60約15,000約54,000
兵庫県約700約1,700約40約10約30約2,400
奈良県約24,000約4,600約300約500約29,000
和歌山県約4,700約4,100約2,600約300約30約12,000
全壊・焼失棟数(東側半割れ、地震動陸側ケース、冬・夕、風速8m/s)
府県揺れ 液状化津波 急傾斜地
崩壊 
火災 合計 
京都府約10,000約2,500約40約47,000約60,000
大阪府約27,000約12,000約60約135,000約174,000
兵庫県約700約1,700約40約10約1,100約3,500
奈良県約24,000約4,600約300約11,000約40,000
和歌山県約4,700約4,100約2,600約300約1,000約13,000
全壊・焼失棟数(西側半割れ、地震動陸側ケース、冬・深夜、風速8m/s)
府県揺れ 液状化津波 急傾斜地
崩壊 
火災 合計 
京都府約1,100約10約11,000
大阪府約7,200約11,000約90約40約200約19,000
兵庫県約21,000約2,900約1,300約100約1,400約27,000
奈良県約700約4,200約40約10約4,900
和歌山県約78,000約4,200約9,700約600約23,000約115,000
全壊・焼失棟数(西側半割れ、地震動陸側ケース、冬・夕、風速8m/s)
府県揺れ 液状化津波 急傾斜地
崩壊 
火災 合計 
京都府約1,100約40約1,100
大阪府約7,200約11,000約90約40約42,000約60,000
兵庫県約21,000約2,900約1,300約100約12,000約37,000
奈良県約700約4,200約40約50約5,000
和歌山県約78,000約4,200約9,700約600約37,000約130,000
東側半割れが冬の深夜に発生した場合、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の5府県で約111,400棟、西側半割れでは、5府県で約167,000棟。連続して発生、あるいは全域で発生した場合は、約278,400棟となる。
また東側半割れが冬の夕方に発生した場合、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の5府県で約290,500棟、西側半割れでは、5府県で約233,100棟。連続して発生、あるいは全域で発生した場合は、約523,600棟となる。途方もない数だ。
全壊や消失となった場合は、否応なく避難所への避難か、もしくは知人・親類宅への避難となるのだが、これだけ広域での地震の場合、避難先の確保ができるのか、また問題なく移動が可能なのかということを考えてしまう。夕方の時間帯や昼間の場合は、帰宅困難者が大量発生することもあり、相当な混乱の中での避難をしなければならなくなる。

地震の発生数日後の避難者

地震発生直後は、避難することを優先とするため、良くも悪くも命や身体の安全、安心の優先度が高い。しかし、2日後、3日後となってくると、生活環境としての「避難所」のあり方や、避難者それぞれのプライバシーなど、様ざまな状況が発生する。避難所全体としての運営に加え、避難者個々の事情に合わせた対応が求められるようになる。
報告書では、そうした状況を想定した課題が挙げられている。
食料・物資の調達、配布不足
 避難所において食料・救援物資等が不足する。
照明、冷暖房機能の喪失
 停電が継続し、非常用発電機等がない避難所では夜間は真っ暗、また暖房・冷房が機能していない状況下で避難生活を余儀なくされる。
飲料水、トイレ用水の不足
断水が継続し、飲料水の入手や水洗トイレの使用が困難となる。
感染症等の発生
避難所で密集した環境におかれ、安全な飲料水や衛生的なトイレが確保できず、手洗いが出来ない、マスクや消毒薬などの衛生物品が不足するなどにより、基本的な感染対策ができなくなる。

避難生活における衛生状態が悪化すると、感染症発生のリスクが高まり、集団発生につながる。

衛生状態の悪化により、女性は婦人科系の病気、妊婦は流産・早産や妊婦高血圧症候群、産婦は乳腺炎や膀胱炎、乳幼児は感染症にかかりやすくなり、健康リスクが高まる。
屋外避難
体育館等に入りきれない避難者は車内に寝泊りすること等により静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などで健康が悪化する。

女性、妊婦、乳幼児の発症リスクが高く、特にトイレ環境を理由に水分を控えると発症リスクが上がる。
避難所の開設・運営ノウハウを持つ人材の不足
避難所の設備や資機材等や各避難者に必要なケアについて把握している避難者運営者がいない場合、適切な避難所環境を構築ができない。

避難所の把握や避難者ニーズの把握、食料・水の確保、入浴支援等の多くの支援を関係省庁等やボランティア等に頼らざるを得ない状況となり、本来の活動内容である捜索・救助活動やがれき撤去、物資管理・配送等が遅延する。

避難所の運営管理責任者に女性が参画しておらず、女性のニーズが把握できない。女性が炊き出し、片付け、掃除といった活動を負担し続けて疲弊する。

DVやストーカー被害者等の避難者名簿の作成や情報管理が徹底されず、DVや性暴力事案が発生する。
避難所生活のルール、マナーの必要性

発災当初はハネムーン現象により愛他的に接する人が多いが、日数が経過するにつれ、自分の家のように空間を独占する等の迷惑行為・犯罪(窃盗、性犯罪等)が発生する。

食料・救援物資の配給ルールや場所取り等に起因する避難者同士のトラブルが発生する。

過密な避難状況やプライバシーの欠如から、避難所からの退去や屋外避難する避難者が発生する。

遠隔地への広域避難

津波により地区全体が被害を受ける、自宅建物が継続的に居住困難となる等の理由から従前の居住地域に住むことができなくなった人が、遠隔地の身寄りや他地域の公営住宅等に広域的に避難する。

遠隔地に避難・疎開する避難者が中間地点の避難所に避難するため、他市区町村の情報を避難者に提供する必要が発生する。

発災直後の混乱で避難者登録ができておらず、適切な支援が受けられない避難者が生じる。

こどもや若年者への支援

こどもや若年層への支援が後回しにされ、災害の怖い記憶や慣れない避難生活、のびのびと遊べないこと、受験勉強が思うようにできないことなど多様なストレスを抱える。

避難所のトイレ等で性暴力に巻き込まれるリスクが高まる。

ペット等の扱いに関するトラブル

避難所においてペットに関するトラブル等が発生する。

飼い主が飼養できない場合、ペットの一時預かり施設等の確保が必要となる。

ペット等の飼養に必要な物資が不足する。

広域避難等に伴い、ペット等を飼い続けることが困難となり、被災地等にペット等が多く残される。

トラブルを避けるために自家用車等で生活する人が現れる。

被災者による避難所の自主運営

避難所の運営は、発災直後は施設管理者が中心であるが、発災3日後程度以降から自治組織中心に移行する。

時間が経過するとともに、徐々にボランティア等が疲労し、数自体も減少し、被災者自らによる自立した避難所運営が必要となる。

高齢者比率が特に高い地域や、複数地域から避難者が寄り集まっている避難所等では、自立のためのマンパワー確保や自治組織の形成が困難なために避難所自治が成り立たず、生活環境の悪化につながる。

避難所の運営に女性が参画できず、運営管理者に女性のニーズが理解されずに困難に陥る。

避難所間の格差

自治体間や避難所間で、食事の配給回数やメニュー、救援物資の充実度等にばらつきや差が生じ始める。

交通機関途絶によるアクセス困難などから、ボランティアや救援物資に避難所間の格差が生じ、避難者に不満が発生する。

地震の発生1日後~数日後の帰宅困難者

帰宅困難者も、地震発生直後に出先で足止めされた場合、1日から3日間程度留まざるを得ない場合が発生する。そうした被災者にとっても、生活環境の確保や飲料食料をどのようにして調達することができるかなど多くの困難が想定されている。
膨大な数の帰宅困難者の発生
地震後しばらくして混乱等が収まり、帰宅が可能となる状況になった場合において、遠距離等の理由により徒歩等の手段によっても当日中に帰宅が困難となる人(帰宅困難者)は、中京都市圏で約110~120万人、京阪神都市圏で約220~280万人に上る。
一時滞在の困難

停電が復旧せず、情報の寸断や冷暖房の停止が継続する。

断水が復旧せず、飲料水の確保やトイレ利用の困難が継続する。

避難所において、避難者と帰宅困難者の区別がつけられず混乱が継続する。

徒歩帰宅の困難

路上は建物損壊・落下物発生・延焼火災・道路被害等により危険な状況となる。

断水等のためトイレが使えなくなるなどの事態が発生する。

施設被害・ライフライン被害により、災害時帰宅支援ステーションとして機能する施設が限定され、休憩場所・トイレが不足する。

外国人観光客等は発災後の混乱により帰国が困難となる。

より厳しく想定される避難者の被害

これまで想定されている被害想定よりも、さらに厳しい状況についてもいくつかの様相が示されている。
より厳しいハザードの発生
 強い揺れを伴う余震が断続的に長期間続く場合や、気象条件によっては、自宅等での生活に不安を感じ、避難所避難者が更に増加し、より避難生活が長期化する可能性がある。
被害拡大をもたらすその他の事象の発生
大規模な地盤沈下等に伴い広範囲にわたって湛水した場合、自宅で生活できない被災者が膨大な数に上る一方で、避難可能な施設が失われるために避難所が大幅に不足する。
災害応急対策の困難
行方不明者が多数発生し、捜索活動が継続されている地域においては、行方不明者(または、所持品等)を探し続ける遺族等が自宅跡近くの避難所等から移動せず、避難所の解消が大幅に遅れる。
二次的な波及の拡大
停電・断水・ガス供給停止・燃料不足が長期化した場合、トイレ等衛生環境の確保や調理の困難、また冷暖房の利用が困難となるために生活環境が極めて悪化し、高齢者等を中心に多数の震災関連死が発生する。

避難者として実施を考えたい予防対策

報告書では、これら避難者の被害様相や、避難者が陥るさらに厳しい状況に対して、防災・減災対策をいくつか提示している。
  • 避難者の発生を減ずる対策(建物やライフラインの耐震化等)
  • 避難所の確保
  • 避難生活に関する周知啓発・防災教育の推進
  • 「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」を踏まえた研修・訓練の推進
  • 災害中間支援組織による平時からのNPO・ボランティアセンターとの連携強化

想定しておきたい応急・復旧対策

  • 被災地内の安全な避難所の確保(避難所の耐震対策、高台移転等の避難所の安全な地域への整備・配置)
  • 避難所不足・応急住宅不足に備えた対応(避難所としての公的施設・民間施設の利用拡大、学校教育の継続を踏まえた避難所の検討、公営住宅・民間賃貸住宅の提供体制の構築)
  • 健康、防寒等に配慮した避難生活対策(避難所/避難所外)
  • 燃料の調達体制の確保
  • 自治体間の連携等による広域的な避難体制の整備(避難者の移送必要者数・対象者の選定方法・移送先の調整方法・移送手段の確保方法等を定めた広域避難計画の作成、被災地外へ避難・疎開した者への情報提供体制の整備、対口支援の受け入れ体制の強化等)
  • ライフラインの早期復旧対策の検討
  • 避難所の運営体制に女性と男性の両方を配置
  • 男女共同参画の視点からの「避難所チェックシート」の周知・活用徹底

より厳しく想定される帰宅困難者の被害

報告書では、帰宅困難者についても、さらに困難な状況を予想している。特に交通機関や道路復旧が進まず、出先に留まる期間が延長されることが想定されている。
被害拡大をもたらすその他の事象の発生
道路・鉄道の復旧が遅れ、停電・燃料不足が数日間以上に及び、帰宅困難者等が自宅に戻る交通手段を確保できずに一時滞在施設等にとどまる場合、避難者と併せて水や食料の支援が必要な対象者数が膨大な数に上る。
二次的な波及の拡大
一時滞在施設の生活環境の悪化により、帰宅困難者等の健康状態が悪化する。

帰宅困難者を想定して実施を考えたい予防対策

予防対策
帰宅困難者の発生を減ずる対策(鉄道施設の耐震化、早期点検体制等の充実)
応急・復旧対策
  • 一斉帰宅の抑制の徹底
  • 企業等における施設内待機に係る対策(企業等における施設内待機計画の策定、従業員・家族等の安否確認手段の確保、帰宅ルールの設定(段階的帰宅や集団帰宅等)、食料・飲料水等の備蓄の充実等)
  • 帰宅困難者用の一時滞在施設の確保
  • 帰宅困難者等への的確な情報の提供
  • 駅周辺等における混乱防止対策(駅前滞留者対策協議会の設立等)
  • 災害時帰宅支援ステーションの確保・充実等による徒歩帰宅の支援策
  • 帰宅困難者の搬送計画の立案や搬送手段の確保
  • 徒歩帰宅のために必要な物品の保管や携行
これらの対策や予防策などをすべて対応することは難しいが、どういう状況が発生する可能性があるか、ということを知っておく、記憶にとどめておくことは重要だと考える。また、一つずつでいいから、避難所の対策として取り入れたり、地震の防災対応として取り入れることで、災害時により適切な対応ができるのではないか。スマートフォンの防災アプリやメモアプリなどで、防災・減災リストとして入れておくことで、発災時に役立つこともあるのではないか。
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