「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたら・・・6

レポート防災・減災
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膨大な数の避難者、帰宅困難者の発生と混乱への対応は可能か?

このレポートのシリーズ第4回、第5回では、大阪市の震災・浸水被害予測をもとに、通信、上下水道、燃料といったインフラの被災予測と復旧までの、時間経過と道筋についてどのように考えられているかを見てきた。
では、実際に被害を受ける私たちは、どのような状況となるのか。例えば日中外出時に被災した場合、頼る場所はあるのか。自宅は無事だったが、自身が骨折をしていたら、どうやって助けを呼べばいいのか。2025年に南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが公表した、「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について」を読み解きながら、どのような対応ができるのかを考えてみよう。

地震発生直後の生活者の状況

「南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について」では、生活者への影響として、「避難者」と「帰宅困難者」の2つのケースで被害様相が描かれている。
多数の避難者の発生
  • 地震・津波等による建物被害、ライフライン被害及び余震への不安等により、多くの人が避難所へ避難する(約340~610万人)。また、比較的近くの親族・知人宅等へも避難する(約210~390万人)。
  • 津波警報等の発表、崖地の崩落や土砂崩れによる被害の発生を防ぐために、避難指示が発令され、広いエリアで多くの避難者が発生する。
  • マンション等の建物でライフライン被害、エレベーターの長期間停止等が発生し、局所的に多数の避難者が発生することで、避難所のリソースが不足する。
  • 特に、軟弱地盤上に位置する建物では、揺れが増幅され建物の傾き等が生じる場合があり、その場合には避難者が増加する。
前回確認した「大阪市の震災・浸水被害予測」を改めて見てみよう。
南海トラフ巨大地震による液状化予想図凡例
南海トラフ巨大地震による液状化予想図凡例
「大阪市内の7割から8割が最も激しく液状化すると考えられている。上町台地の南部あたりのわずかな部分だけが液状化を免れる。この予測から市内全域で次のようなな被害が考えられる。」また、御堂筋から西半分が0.5~3.0m浸水するとの予測から、多数の避難者が市内の東側へと避難してくることが予測される。一時的にせよ、市内西側のある避難所の多くが避難所として機能しない状況は十分に考えておかなければならないないだろう。加えて、津波の発生が予測された場合、自宅が無事であったとしても在宅避難ができず、避難移動する人が多くなるだろう。
指定避難所以外の公共施設等への避難
  • 学校等の指定避難所等だけでなく、市区町村庁舎、文化ホール、公園等公的施設、空き地などに避難する人が発生する。
  • 防災関係機関の施設にも避難者が押しかけ、災害応急対策に支障が生じる。
  • 指定避難所以外にできたテント村等が当初認知されず、食料や救援物資等が配給されない事態が発生する。
この2つの予測から、避難したい人のすべてを受け入れることができない可能性もあるのではないか。さらに、昼間人口の多い大阪市では、市内のあらゆるは所で「帰宅困難者」や「観光避難者」の発生が予測される。
膨大な数の滞留者の発生
  • 平日の12時に地震が発生し、公共交通機関が広域的に停止した場合、一時的に外出先に滞留する人(自宅のあるゾーン外への外出者)は、中京都市圏で約410万人、京阪神都市圏で約660万人に上る。
  • 夜間は滅灯により真っ暗な状況となり、信号が作動せず特に交差点等で人と車両の大混雑が発生する。
  • 車道を歩いて帰る人も多く、車道は自動車で大渋滞する。
  • むやみに移動を開始すると、路上では大混雑が発生し集団転倒などの危険性が高まる。
  • 他地域からのビジネス客・観光客や、新幹線で移動中の者等が被災し、受入れリソースの少ない地方都市に帰宅困難者があふれる。
帰宅困難者等の避難による混乱
  • 帰宅困難者・徒歩帰宅者、外国人を含む観光客が避難所等に避難し、混乱する。
避難所の避難スペースの不足
  • 被害の大きな地域では満杯となる避難所が発生する。学校では当初予定していた体育館や一部教室だけではなく、廊下や階段の踊り場等も避難者で一杯となる。
  • 耐震化が未了の避難所自体が被災するおそれがあり、避難所の収容能力が見込みより減少する。また、避難スペースが天井等の非構造部材や設備の損壊等で使用不能となる。
一時滞在施設の不足
  • 地震後の混乱が落ち着くまでの一定期間は、一時滞在施設等での待機が求められるが、耐震性の低い建物、家具類の転倒・落下防止対策が施されていない施設では、被害の発生、頻発する余震の不安等で安全なスペースが確保できない。
  • オフィスビルの建物・ライフライン被害に伴い、建物内に滞留していた多数の人が、点検等が終了するまで建物外に閉め出される。
  • 停電時にはテレビ・インターネット・電話等の情報通信設備が使えず情報が寸断されるとともに、冷暖房が停止し、滞在することが困難となる。
  • 断水時には、水の備蓄のないところでは飲料水が確保できず、トイレも利用できない状況になる。
ここから見えてくるのは、避難できる場所が圧倒的に少なくなる状況だ。先の大阪市市内の被害予測では、大阪市内の7割から8割が最も激しく液状化すると考えられている。つまり、地震による直接被害により避難所として使えなくなる建物に加え、液状化により避難所として使用できなくなる建物も多数発生するだろう。
そうした避難スペースの数が避難者の数に比べて圧倒的に少なくなる。そこに地意義移住の避難者以外に、帰宅困難者が避難所を目指して殺到する状況が生まれる。

ここで考えておかなければならないのは、避難所運営側の人員不足だ。「被害想定について」でも予測されているが、運営要員も被災している状況から、平時に想定していた要因だけでは対応できないことは容易に察しが付く。加えて帰宅困難者や地域外からの流入も合わせて考えると、地域内の人員だけで対応できないことも想定される。
避難所運営要員の被災
  • 被害の大きな地域では自治体職員や学校職員等が被災し、避難所の開設・運営に支障をきたす。
つまり、避難者を受け入れると同時に、避難者でもけがを含めて体調に問題が無ければ、運営要員として活動してもらえるような対応をあらかじめ想定して、呼びかけや声掛けをする態勢を整えておく必要があるということだ。
こうしたことは、阪神大震災でも、東日本大震災など多くの被災地で見られた状況だ。広域で、被害の大きな災害時には、想定しておくべき態勢の一つと考えておきたい。

では、在宅で避難する人たちや屋外非難をしている人たちは、どのような状況にあると予測されているだろうか。
在宅避難
  • 各人の生活状況把握や必要な支援の提供といった、避難所で実施している被災者への支援が、在宅避難者には十分に行き届かない。
  • 地震によって住宅の耐震性能が低下している中で、余震により在宅避難している自宅が被害を受けることで、在宅避難者が被災する。
  • 障がいや介護、ペットを理由に避難所に避難できない人が自宅等に残っており、その存在を行政が把握できない。
  • 災害に驚いて逸走やケガをするペットが発生する。
屋外避難
  • 自宅に残った人、避難所等へ避難した人ともに、余震が怖い等の理由で屋外に避難する人が発生する(屋外避難者は人数が把握しづらくなるとともに、特に冬季は問題が深刻になる)。
  • 避難所には自動車による避難者も多く、学校等のグラウンドは自動車で満杯となる。
在宅であっても、余震などの影響で大きく被災する状況もある。「行政からの支援が在宅避難者に十分に行き届かない」という点は、都心部や高齢者の多い自治会不在の地域では起こりえる。たとえ自治会のある地域内でも、入会していない世帯までどれだけ把握できるかにもよるだろう。少なくとも、災害発生当日では、行政内も混乱している、避難所でも避難者の対応で忙殺されている、また通信手段も限定される状況下にあっては、すべての被災者について把握することは困難を極めるだろう。避難者も、受け入れる側もそういう状況を想定しておき、防災訓練や避難所運営のシミュレーションを繰り返し、情報を共有するしかないのではないだろうか。

さて、避難状況がある程度把握されたとしても、発災当日は通信手段が限定されており、避難者間での情報共有や情報格差が生まれ、様ざまな混乱した状況が生まれると予測されている。
通信機能の喪失
  • 通信手段が被災し、避難者のいる場所・避難者数の確認、救援物資の内容・必要量の確認が困難となる。
通信途絶等による安否確認困難等
  • 携帯電話の基地局の被災や基地局のバッテリー切れ等により通信できない状況となり、携帯電話のメールなども機能しづらくなる。
  • 災害用伝言ダイヤル171は容量に限界があるため、不必要な登録件数が増加すると、機能しなくなる。
  • 安否確認ができずに家族や自宅等の状況が心配で帰宅を急ぐ人が多く発生する。
避難所における混乱
  • 公立学校は主として地元住民のための避難所となるため、現実的には帰宅困難者の受け入れが困難となる。
  • 一時滞在施設の場所が事前に十分に周知されていなければ、帰宅困難者は滞在・休憩場所を探すことが困難となる。
  • 避難所において、避難者と帰宅困難者の区別がつけられず混乱する。
避難所における医療救護活動
  • 避難者の中には負傷者も多く、避難者でもある医療関係者による看護や、医師等の派遣による応急手当が実施される。
  • 避難所に避難した高齢者・妊産婦・乳幼児・身体障害者等の要配慮者に必要な医療・介護面のケアが行き渡らない事態が発生する。
通信障害や、通信手段が限定される状況下では、様ざまな憶測や、正確ではない情報が飛び交う。一つの避難所内であっても、運営側は正確な情報共有に努めると同時に、避難者側も落ち着いた対応が求められる。間違っても不正確な情報を発端としたパニックになることだけは、避けなければならない。

また、医療や救護活動は、平時から赤十字や社会福祉協議会、地域医療従事者との災害対策についてのコミュニケーションを整えておく必要がある。災害時の医療体制について、どのような対応が可能か、医療関係者や福祉関係者の人員の配置、交代要員などについて話し合っておくことが重要だ。
医療や介護に限らず、災害を想定したシミュレーションと、平時からのコミュニケーションと体制づくりと確認。そうした活動が地域には必要だと思う。
次回は、被災の1日後から数日後の被災者や帰宅困難者の予測から考えてみる。
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