社会的連帯経済基本法レポート 第1回

レポート
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このレポートを始めるにあたって

韓国の「社会連帯経済基本法」は、報道を読んだだけでは、その制度の全体像や、日本社会に照らしたときにどのような意味を持つのかが理解しにくい法律だった。そこで、成立した基本法と関連政策をより深く理解し、その過程を読者と共有するため、このレポートを始めることにした。

本レポートでは、韓国政府等が公表した資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本との比較、原稿の下書きを行い、筆者が問題の設定、構成、採用する記述を判断し、編集している。

このレポートの作成方法と資料上の限界

筆者は韓国語の法律原文を独力で読解できる者でも、韓国の法制度を専門とする研究者でもない。本レポートでは、韓国政府、国会、法令情報などが公表した一次資料をもとに、生成AIを利用して韓国語資料の翻訳、制度の整理、日本の行政制度との比較、原稿の下書きを行っている。二つの参考資料も、主としてこの方法によって作成したものである。

そのうえで、何を問題として捉えるか、日本の制度とどのように比較するか、どの記述を採用するかについては、筆者が判断し、編集している。

法律に関する記述については、韓国語原文に加え、日本協同組合連携機構が公開した日本語仮訳などとも照合する。ただし、翻訳や制度の理解に誤りが含まれる可能性を完全には排除できない。このレポートは法律の専門的な逐条解説ではなく、現時点で確認できる資料から制度の意味を考えようとする調査と検討の記録である。

基本法は国会を通過したばかりであり、具体的な施行令、基本計画、予算、評価方法などはこれから明らかになる。新たな資料が公表された場合や、記述の誤りが確認された場合は、随時修正する。

韓国の制度を礼賛することが目的ではない。市場だけでも行政だけでも解決できなくなった問題に対して、社会はどのような第三の制度をつくることができるのか。そして、自治体の成果を「行政に残った金」ではなく「市民の側に残った豊かさ」によって測ることができるのか。その問いを、読者とともに考えていきたい。

市場でも行政でも埋められない空白を、誰が担うのか

2026年8月20日、韓国国会で「社会連帯経済基本法」案が可決された。最初の法案提出から13年を経て、ようやく国会通過に至った。8月27日現在は公布前で、公布から6か月後に施行される予定だ。

「社会連帯経済」という言葉は、日本ではまだなじみが薄い。「社会連帯経済基本法」の中では、社会的企業、協同組合、住民企業、自活企業、ソーシャルベンチャーなど、聞き慣れない組織名も並ぶ。このため、特殊な企業を新しくつくる法律のようにも見える。

しかし、この法律の主眼は、新しい法人類型を一つ設けることではない。すでに別々の法律や事業のもとで活動してきた多様な組織を、「共同体の利益と社会的価値を実現する経済活動」の担い手として捉え直し、国と自治体の政策を横につなぐことにある。

では、なぜ、それらを一つの政策領域として束ねる必要があったのだろうか。

くらしに必要でも、採算が取れるとは限らない

私たちのくらしには、なくてはならないものがある。高齢者や障害者のケア、医療、食事、住まい、移動、子育て、買い物、地域のエネルギーなどである。
ところが、「必要であること」と「事業として利益が出ること」は同じではない。

利用者が少ない地域の移動手段、所得の低い人にも届く食事、手間のかかる見守り、空き家を改修した低廉な住まい。こうしたサービスは、社会的な必要性が高くても、利用者から受け取る料金だけで費用を賄うことが難しい。市場に任せれば、需要が少ない、支払い能力が低い、利益率が低いという理由で、供給されないことがある。

これは、市場経済の合理性の結果だ。市場は、価格と取引を通じて財やサービスを供給するしくみであり、そのしくみだけでは扱いにくい必要が残るということである。

では、そうした多様なサービスのすべてを行政が担えるだろうか。

行政には、制度を通じて市民の権利を保障し、公平にサービスを提供する責任がある。一方で、行政の仕事は法律、予算、所管、対象要件によって分かれている。ある一人のくらしの中では、ケア、医療、食事、住まい、移動は切り離しては成り立たない。しかし行政の制度では、それぞれ別の担当課、別の予算、別の利用条件になることが多い。

制度の対象には該当しないが、放置すれば生活が困難になる人もいる。全国一律の制度ではなく、地域ごと、団地ごと、当事者ごとに異なる対応が必要な場合もある。行政が責任を持つべき領域であっても、行政の組織だけでは細かな必要を見つけ、複数のサービスを柔軟につなぐことが難しい場面が生じる。

市場にも行政にも、それぞれの役割と限界がある。その間に生まれるのが、「市場と行政の空白」といえる。

空白には、誰かのくらしが存在する

空白があるからといって、そこに何も存在しないわけではない。

韓国では、住民が協同組合などをつくり、移動や買い物を支えている。福祉事業所が、制度上のサービスだけでなく、食事や居場所を提供している。働くことに困難を抱える人が、支援されるだけでなく、仕事の担い手として地域の課題を解決している。住民が出資した発電事業が、収益を地域の福祉や交通に戻す例もある。

これらは行政機関ではない。多くは民間の事業体だが、事業によって収入を得ながらも、利益の最大化だけを目的とせず、雇用、ケア、地域サービス、環境、共同体への還元などを事業の目的に含めている。その担い手には、社会的企業、協同組合、住民企業、自活企業、ソーシャルベンチャーなど、異なる法的形態と政策上の区分がある。

それぞれの違いは、別に作成した「韓国の社会的連帯経済を担う組織」で確認できるようにした。大切なのは、名称を覚えることよりも、行政でも利益最大化を目的とする企業でもない多様な担い手が、すでに地域の必要に応えているという事実である。

社会的連帯経済とは、いわば、こうした実践を「善意ある個人の活動」や「例外的な地域おこし」として扱うのではなく、一つの経済領域として認めようとする考え方である。

基本法が束ねようとしたもの

韓国では、これまですでに個別の制度があった。社会的企業は雇用労働部、協同組合は企画予算処、住民企業は行政安全部というように、組織の種類ごとに法律と担当省庁が分かれていた。政策目的も、雇用、福祉、中小企業、農林水産、地域振興など複数にまたがっていた。

韓国政府自身、個別政策は存在したものの、全体を包括する体系がなく、政策の連携と組織の成長に限界があったと説明している。そこで基本法は、5年ごとの基本計画、政府横断の委員会、社会連帯金融、公共機関による優先購入などを通じ、分散していた政策を一つの枠組みに置こうとしている。

これは省庁を統合するという意味ではない。異なる省庁がそれぞれ所管を持ちながら、共通の政策目的、計画、統計、評価のもとで連携するということである。各省庁の位置づけは、「韓国の行政組織と社会的連帯経済政策」に整理した。

2026年6月に20の関係省庁が合同でまとめた総合計画は、重点分野として、ケア、住宅、エネルギー、農山漁村の生活サービスを挙げている。政府は、これらを住民の需要が高く、くらしに近く、社会的連帯経済の強みを発揮しやすい分野だと説明する。

  • ケアでは、医療、食事、心理支援など、分野をまたぐサービスを地域でつなぐ。
  • 住宅では、家賃負担の軽減だけでなく、共同体やケアを含む住まいをつくる。
  • エネルギーでは、住民の協同組合が太陽光発電を運営し、収益を住民所得や地域福祉に戻す。
  • 農山漁村では、教育、ケア、食事、施設運営など、人口減少によって維持しにくくなった生活サービスを住民主導で補う。

四つの分野に共通するのは、単独の商品を売れば解決する課題ではないこと、全国一律の制度だけでは地域ごとの事情に届きにくいこと、そして、地域の人びとが利用者であると同時に担い手にもなり得ることである。

「共助」の名による行政の後退ではないか

ここで、慎重に見なければならない点がある。
住民や非営利組織が公共的な仕事を担うとき、それが行政の経費削減や責任放棄に利用される危険性だ。
行政が担うべき仕事を、無償または低賃金の「地域の助け合い」に置き換えるなら、社会的連帯経済は公共を豊かにするどころか、公共サービスを縮小する道具になりかねない。

問うべきは、民間に任せるか行政が直営するかという二者択一ではない。
行政が最終的な責任を負い、必要な財源と基準を保障したうえで、住民や当事者が意思決定に参加し、地域に合ったサービスをつくれるか。そこで働く人に適正な賃金が支払われるか。生み出された利益や資産が地域に残り、次の公共的な活動に使われるか。行政の契約や評価が、価格の安さだけでなく、こうした価値を認めるものになるか。

基本法のほんとうの意義は、「社会的な活動をする企業を応援します」という宣言だけでは測れない。金融、公共調達、委託、予算、統計、行政評価がどう変わるのかによって判断されることになるだろう。

日本から何を問うのか

日本にも、協同組合、労働者協同組合、NPO法人、社会福祉法人、地域運営組織、自治会や住民出資の事業体など、多くの実践がある。地域交通、配食、買い物支援、再生可能エネルギー、空き家活用など、韓国と重なる取り組みも少なくない。

しかし、それらは福祉、雇用、地域振興、環境、農政などの個別政策として扱われ、「公共の経済」という一つの政策領域としては捉えられていない。

韓国の基本法が日本に投げかけるのは、同じ制度を導入すべきかということではない。市場に任せても行政が単独で担っても解決しにくい課題に対し、社会はどのような第三のしくみを育てることができるのか、という点にある。

自治体の利益とは、自治体の会計に残る金だけではない。安定した仕事が生まれること、安心して住み続けられること、必要なサービスを失わないこと、地域で使われた金が地域の中を循環すること。それらを「市民の側に残る豊かさ」として、政策の成果に数えることができるか。

この視点から、韓国の制度を追っていきたい。礼賛するためではない。制度が掲げる理念と、実際の予算、権限、調達、評価の間にどのような隔たりがあるのかも含めて見る必要がある。

次回は、韓国でなぜこの基本法が必要とされたのかを、大企業中心の成長、首都圏への集中、地域消滅、格差、ケアの空白という社会経済の背景から考える。

主な資料

※韓国の法律・政策の原語は「社会連帯経済」。本レポートでは、日本語で国際的に用いられることの多い「社会的連帯経済」を表題と本文の基本用語とした。

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