大阪・関西万博の環境評価区域を問う❸
当初コラムで紹介した、国際博覧会協会発表の「2025年日本国際博覧会事後調査報告書」にはじまり、前回はレポートとして、報告書の内容について紹介した。
▶環境評価項目は多い。だが安心できない。―大阪・関西万博は何を測り、何を測っていないのか
大阪・関西万博は終了したが、全国では今後も大型の国際イベントが次々を行われようとしている。
2026年には愛知・名古屋でアジア競技大会、2027年には横浜市で国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が予定されている。国際イベントではないが、大型開発事業として夢洲では2030年、IR(統合型リゾート)の開業も見込まれる。
巨大イベントは、一時的な催しではない。
交通や物流、土地利用、周辺環境、さらには都市そのもののあり方を変えていく。ときに、それは地域を「くらしの場」から「消費される空間」へ変えていくこともある。
万博もまた、本来は単なる展示会ではなく、新技術や価値観を示し、市民が未来を学ぶ場として位置づけられてきた。1970年大阪万博は「人類の進歩と調和」、2005年愛知万博は「自然の叡智」、そして大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げた。
だとすれば問われるのは、来場者数や経済効果だけではない。
その社会は何を学び、何を評価の仕組みとして残したのかである。
そして、もう一つ。ビッグイベントで「環境」とは、どこまでを指すのだろうか。
環境評価区域とは、何を評価対象から外すかを決める範囲でもある
環境影響評価では、最初に「どこまでを評価対象とするか」が設定される。
これを環境評価区域という。
一見すると単なる範囲設定のように見える。しかし実際には、それ以上の意味を持つ。評価区域とは、何を環境問題として見て、何を評価対象から外すかを決める範囲でもある。
例えば、会場周辺の騒音や交通量は評価対象になっても、その変化が都市全体へどのような影響を与えるかは対象外になることがある。
会場内のCO2排出は測定されても、建設・解体を含むライフサイクル全体の温室効果ガス排出や、開催後の土地利用変化は十分に見えなくなることがある。
つまり評価区域は、何を「環境」として扱うかを決める思想でもある。

ミラノ万博は何を「環境」として見ていたのか
では、他の万博ではどうだったのだろうか。
SDGsを掲げる大阪・関西万博について、市民の視点から持続可能性や環境対策を評価・検証するために活動してきた複数の市民団体によるネットワークである「SDGs万博市民アクション」の評価書では、2015年ミラノ万博の持続可能性アセスメントについて、こう整理している。
ミラノ博では、地域(ロンバルディア州)の持続可能性を高める観点から評価が行われた。一方、大阪・関西万博の持続可能性は、会場内に限定された。
ここで重要なのは、評価対象の広さそのものではない。
持続可能性をどこまでの空間と時間で捉えるか
という考え方そのものだ。
ミラノ万博では、開催前後を通じた変化や地域全体への影響、将来的なレガシーまで視野に入れて評価が試みられていた。
つまり、
「イベントを無事開催できたか」
ではなく、
「地域や社会に何を残したか」
までが評価対象だった。

違うのは技術ではない。
環境をどう捉えるかという考え方である。
※詳細は各評価書参照
大阪・関西万博
2025年日本国際博覧会事後調査報告書
ミラノ万博
SUSTAINABILITY REPOR 2014 EXPO MILANO 2015
持続可能性は、会場内だけでは測れない
もし持続可能性を掲げるなら、評価は会場内で完結しない。
交通。
物流。
都市構造。
閉幕後利用。
周辺地域。
さらに、そのイベントを通じて社会が何を学んだか。
こうした長期的・累積的な変化も、本来は評価対象になりうる。
巨大イベントは半年で終わる。
しかし、その影響は終わらない。

市民は何を見ようとしていたのか
大阪・関西万博では、市民側からも、環境評価の空間的・時間的範囲を広げるべきだという指摘が続けられていた。
SDGs万博市民アクションは、評価を内部で完結させず、調査や発信、市民との対話そのものを評価プロセスとして位置づけてきた。
また、公開されたガイドブックは、学校や市民の事前・事後学習への活用も想定している。
ここで行われていたのは、単なる批判ではない。市民によるもう一つの評価実践だったとも言える。
▶万博の見かたが変わる!SDGs万博ポケットガイドブック
▶大阪・関西万博「市民からの持続可能性評価書」
問われるのは、施設ではなく「評価する力」かもしれない
その問いは、「万博後に何を残すのか」という問題につながっていく。
次回、巨大イベントが残すべき「レガシー」とは何か――施設ではなく、社会に残る評価のしくみという視点から考えたい。
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