大阪市が整えてきた教育環境を、誰が支えるのか

レポート
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子どもの学びを支える条件を、未確定のまま放置する大阪市廃止

9月25日の大阪市会財政総務委員会で、教育委員会は、特別区が現在の大阪市と同じ方法で教員の欠員補充や初任給の引上げを実施するには、関係法の改正が必要だと答えた。

これは二つの施策を続けられるかというだけの問題ではない。教員を確保し、安心して働ける条件を整え、子どもたちの学ぶ環境を支える。そのために大阪市が担ってきた判断と責任が、廃止によってどこへ移るのかという問題である。

しかも、法改正が実現すれば、現在の教育環境がそのまま守られると決まっているわけでもない。必要な人員、財源、組織、区同士の合意をそろえ、実際に学校を支えられる体制をつくる必要がある。

子どもの教育を引き継ぐ条件を確かめないまま、大阪市をなくすことを先に進めてよいのか。今回の答弁は、その無責任さを問うものとなった。

教員の確保と、子どもの学びは切り離せない

質疑を行った公明党の佐々木哲夫委員は、大阪市が教職員の人数や人事、給与について持つ権限を失えば、これまでの人材確保策にどのような影響があるのかを尋ねた。

教育委員会は、本務教員による欠員補充制度と初任給の引上げを説明し、権限がなくなれば現在の運用方法では実施できなくなると答えた。さらに、特別区でも同じ方法で行うには、関係法の改正が必要だと明言した。

本務教員とは、正式に採用された教員のことである。大阪市は、法律に基づく教員定数に加えて、独自に特別専科教諭を採用している。年度当初は専科指導や副担任、授業補助などを担い、ほかの学校で産休・育休などによる欠員が生じれば、その学校へ移って代替教員として勤務する。2026年度には小学校130人、中学校35人を配置している。

必要な教員をあらかじめ確保することで、休業する教員が安心して休めるだけでなく、残る教員に授業や学級運営の負担が集中するのを防ぐ。子どもたちが学び続けられる環境を、人員の確保によって支えるしくみである。

初任給の引上げも、教員として大阪市で働く人を確保するための取組だ。欠員を補うこと、応募者に選ばれる勤務条件を整えること、教員を育てることは、学校の教育環境を整える仕事としてつながっている。

教員が安心して働けなければ、子ども一人ひとりに向き合う時間も失われる。人事や給与は、教育の外側にある事務ではない。子どもの学びを支える条件そのものである。

現在は大阪市の中で、学校・人事・財源を結び付けている

現在、学校の管理や教育方針、教員の採用・異動・研修などは、大阪市教育委員会が担っている。実務では、教育委員会事務局の教職員人事担当が採用や定数管理を、教職員給与・厚生担当が給与制度や勤務条件などを扱う。

予算案は市長が編成し、市会が予算や条例を議決する。教育委員会だけですべてを決めるわけではないが、学校を支える仕事と、それに必要な人員・財源の判断は、大阪市という一つの自治体の中で結び付けられている。

大阪市が教員を独自に採用し、人数や給与制度まで決められるのは、政令指定都市に認められた制度による。2017年には、教職員の給与負担などの権限と財源も府県から指定都市へ移され、人事と給与を一体的に扱えるようになった。

特別区には、この指定都市の制度は適用されない。現行法では、小中学校教職員の任命、定数決定、給与負担などは道府県が担う。そのため、特別区に教育委員会を置いたとしても、現在の大阪市と同じ教員人事・給与の権限が備わるわけではない。

区の予算が足りるかという問題も課題だが、区が何を決められるかという法的な権限の問題がある。教育委員会という機関、必要な財源、採用や配置を決める権限、これらがそろって初めて教育環境を支える力になる。

学校は区、人員と給与は府――教育環境を一体で整えられなくなる

9月9日の法定協議会に提出された維新案は、法改正が実現するまでは、教員の任命権を大阪府が担う内容である。小中学校の設置、独自の研修や教育施策は特別区が担うとされている。

現在と、この案に基づく移行後を比べると、次のようになる。

教育環境を支える仕事現在の大阪市特別区への移行後(法改正前の案)
学校の設置・管理、地域の教育施策大阪市・市教育委員会各特別区・区教育委員会
教員の採用・異動市教育委員会が決定府教育委員会が決定。転任は区教育委員会の内申に基づく
教員の定数・給与制度市の条例等により決定府の条例等により決定
小中学校教職員の給与負担大阪市大阪府
教員の育成・研修市教育委員会が人事と結び付けて実施府が担う研修に加え、各区が独自研修を実施

※小中学校等の教員人事・給与を中心とした比較。国による給与費の負担もあり、給与費を市・府だけで全額賄うという意味ではない。各区で実施する事務には、共同処理を検討する余地もある。

例えば、特別区が学校の状況を踏まえ、「欠員を迅速に補いたい」「教員を確保するため処遇を改善したい」と考えても、必要な教員数や給与制度まで区だけで決めることはできない。区が独自研修を行っても、その教員をどこに配置し、どのように育成していくかは府の人事とも調整しなければならない。

教育施策を区に残すという説明だけでは、学校の運営、人員の確保、処遇、育成を一体で整える力が保たれることにはならない。

法改正ができても、教育環境が守られるとは限らない

法定協議会案(維新案)は、教職員の人事・給与を特別区が一体的に担えるよう、国に法改正を求めるとしている。しかし、要望があるだけでは、いつ、どの権限が特別区に移るかは定まらない。

仮に法改正が実現しても、それだけで必要な教員と予算が確保されるわけではない。教育委員会の資料は、法改正に加え、4特別区による採用事務の共同処理と人事・給与制度の統一が必要だとしている。

そこでは、区ごとの希望をどう調整し、費用をどう負担し、必要な教員をどう配置するかを決めなければならない。4区の意見が分かれた場合の判断方法や、保護者や学校に対して誰が責任を負うかも必要になる。

法改正、財源の確保、共同組織の設計、4区の合意、実際の教員確保。こうした条件をそろえないまま移行すれば、制度上は仕事を引き継いでも、必要な対応を実施できない事態になりかねない。そのしわ寄せを受けるのは、教員と子どもたちである。

教員不足が深刻なときに、改善する力を弱めるのか

大阪市の採用試験の受験者数は、2021年採用以降、5年連続で減っている。教員を確保するためには、採用の工夫だけでなく、過重な負担を減らし、働き続けられる環境を整えることが欠かせない。

欠員が埋まらなければ、残る教員に負担がかかる。負担が増せば、働き続けることも、教職を選ぶことも難しくなる。教育環境を改善するには、この悪循環を断つ必要がある。

この状況で、欠員補充と処遇改善を学校の必要に応じて決める力を弱めれば、現場の負担をさらに増やし、教員確保をいっそう難しくする危険がある。現在でも十分とはいえない教育環境を、特別区への移行によってさらに悪化させかねないのである。

府による採用には、広い範囲で人材を確保し、配置を調整できる可能性がある。しかし、大阪市が独自に進めてきた改善策を誰が引き継ぐかが示されなければ、その可能性だけで学校現場の不安に答えたことにはならない。

子どもの教育を、政治目標の後始末にしてはならない

教育環境をよくする改革なら、必要な教員をどう確保し、働く条件をどう改善し、子どもたちの学びをどう支えるかから制度を考えるはずである。

ところが今回の案は、大阪市をなくすことで現在の権限を失い、その穴を法改正や新たな共同組織で埋めようとするものだ。現在の教育環境を引き継ぐために必要な条件さえ、示された案だけでは確かめられない。

子どもたちの成長は、法改正や4区の協議がまとまるまで待ってはくれない。欠員が補充されない日も、教員が過重な負担を抱える日も、子どもの学校生活は続く。

その継続を具体的に支える体制を示さず、まず大阪市の廃止を進める。これは、教育環境を整える責任を、制度変更の後に置く姿勢である。特定の政党の政治目標を先行させ、子どもの教育をその後回しにしていると言わざるを得ない。子どもの教育より政党の政治目標を優先することこそ、地方行政をゆがめる。

「日本一の子育て・教育サービス」を掲げるのであれば、現在の学校を支える人員と財源、改善するための権限を、どう継承するかを先に示すべきだ。その裏付けを示せないまま大阪市を廃止することは、教育を担う行政として無責任である。

教員を育て、子どもたちの成長を支える責任は、「法改正を求める」という約束では果たせない。維新と大阪府・大阪市がまず果たすべきなのは、政治目標に教育を合わせることではなく、子どもの学びを支える条件を確保することである。


注:教育委員会と共同処理について

9月9日の案は各特別区の教育委員会を前提としている。本文で述べた採用事務などの共同処理は、教員の採用や人事・給与制度を共同で扱うためのものであり、教育委員会そのものを一つにまとめると決まったという意味ではない。

主な資料

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