今回も前々回に引き続き、排水ポンプが水没してしまった住之江抽水所事故について、ぼう•けん 防災×建築計画研究所 のぼう・けんさんのリポートをベースにお届けします。
1.8月25日 市長会見
8月25日、住之江抽水所事故について臨時の大阪市会建設港湾委員会が開かれた。同日、横山市長の会見も行われ、メディアでは、
「住之江抽水所、完全復旧は2029年度末の見通し」
「来年夏ごろまでにポンプ1基の復旧を目指す」
というニュースが一斉に報じられた。これだけを見ると、「時間はかかるが、とりあえず来年夏には1基が動き出す」という印象を受ける。しかし、これは大阪市が用意した復旧スケジュールを中心にした話である。
では、そのスケジュールは、現在判明している現場の状況と本当に整合しているのだろうか。
8月25日の建設港湾委員会で行われた実際の質疑を追っていくと、ニュースの見出しだけでは見えてこない問題が浮かび上がってくる。

8/25建設港湾委員会での、実際のやり取りを確認しよう。
2.8月25日 建設港湾委員会
建設港湾委員会(26.08.25)
(伊藤委員)
雨水ポンプ6台が停止していると聞くと、ポンプそのものが壊れ
てしまったように感じますが、実際はポンプ本体は水に強くでき
ていて、外観的に大きな損傷は確認されていないと伺っています。
むしろ問題なのはポンプを動かすエンジンと、その力を伝えるギ
ア。構造上水没を想定して作られていないものが水に浸かってし
まっていて、それが原因で止まってるんですよね。さらにエンジンやポンプを動かすための電気系統も水没によっ
て、影響を受けていると聞いています。上のほうにある電気室は
耐えたけれど、地下浸水したところの電気はもうやられていると
聞いています。今回の復旧はポンプを直せば終わりではなく、エンジンとギア、
電気設備をどう復旧させるかが非常に重要だということでござい
ます。このスケジュールにある、オーバーホールによるポンプ復旧なの
ですが、完全に水没したエンジンや減速機を分解整備して、本当
にもう一度安全に使えるのでしょうか?復旧してもすぐに故障す
るということはないのか不安なところです。そこで水没したエンジンの減速機についてどのようなオーバーホ
ールを行い、再稼働後、信頼と安全性をどのように確認し、維持
管理をしていくのか。また6台のうちオーバーホールによって復
旧できるポンプは何台あるのか。いつ頃それが判明するのか、教
えてください。さらに電気設備をどうやって復旧するのかも合わせてお答えくだ
さい。(設備課長)
今回オーバーホールでは、機器製作会社が現場にて、分解、評
価、洗浄、整備、再組み立て、最終的には試運転まで行ってまい
ります。評価によって、再使用可能と判断された部品また、納期
が間に合った部品によって再組み立てを行うことで、排水機能を
回復することを最優先の目標としてございます。また、電気設備は絶縁が回復しないケーブルにつきましては交換
を行います。運転するための現場の操作盤は仮設盤で、復旧を考
えてございます。なお、維持管理につきましては、水没し、復旧した機器であると
いうことを踏まえつつ、引き続き、状態監視保全型によりまし
て、故障停止に至らないように取り組んでまいります。オーバーホールが可能か判断できる時期につきましては、現在、
機器製作会社による分解と評価を待っているところでございまし
て、引き続き機器製作会社と調整をしてまいりたいと考えており
ます。
「ポンプ6台停止」だがポンプ自体は壊れていない
まず確認しておきたいのは、今回の事故で何が壊れたのかということである。「雨水ポンプ6台が停止」と聞けば、ポンプ本体が壊れてしまったように思う。しかし、大阪市が7月13日に地下5階まで目視調査した結果、ポンプ本体には破損が確認されていない。問題は別のところにある。
ポンプを回す巨大なエンジン。エンジンの力をポンプへ伝える減速機。そして、それらを制御する電気設備である。これらは本来、水没することを想定した機械ではない。
8月25日の建設港湾委員会でも、この点について具体的な質疑が行われている。完全に水没したエンジンや減速機を分解整備して、本当にもう一度安全に使用できるのか。復旧しても、すぐ故障することはないのか。6台のうち、オーバーホールによって復旧できるのは何台なのか。それはいつ判明するのか。
これに対して大阪市の設備課長は、機器製作会社が現場で「分解、評価、洗浄、整備、再組み立て、試運転」まで行うと説明している。再使用可能と判断された部品や、納期に間に合う交換部品を使って再組み立て、排水機能の回復を最優先するという。電気設備についても、絶縁性能が回復しないケーブルは交換し、現場操作盤については仮設盤で復旧させるとしている。
ところが重要なのは、その次である。
何台のエンジンがオーバーホール可能なのかは、まだ分かっていない。
機器製作会社による分解と評価を待っている段階なのである。
復旧できるか分からないのに「来夏1基」なのか
しかし、前述したように横山市長も8月25日の囲み会見で、
どれくらいのポンプがオーバーホールできるかについては、9月中を目標に調査している
と説明している。つまり8月25日の時点では、6基のうち何基を再使用できるのか、まだ結論が出ていない。にもかかわらず、その同じ日に、
「来年夏ごろまでにポンプ1基の復旧を目指す」
というスケジュールが大きく発表された。もちろん「復旧する」と断言しているわけではない。「目指す」である。しかし、そもそもオーバーホール可能かどうかを調査している最中なのに、なぜ「来夏」という時期だけが先に出てくるのか。
ここには疑問が残る。
さらに不可解な時系列がある
大阪市が公表した「原因究明の取組みについて」を時系列で見てみよう。
7月13日、地下5階まで目視調査し、ポンプ本体に破損がないことを確認。
7月14日、なにわ大放水路とポンプ室をつなぐジョイント部に破損を確認。
7月30日、ジョイント部を詳細に調査し、管頂部と管側部の2箇所に破損を確認。
7月31日、そのうち1箇所だけに補修材を貼り付ける応急措置を行った。
そして、残る1箇所を補修したのは、
8月10日である。
ここで別の事実を重ねてみる。
8月3日、大阪市では再び大雨が降った。
しかもこの時、なにわ大放水路は約30万トンの貯留能力いっぱいまで実際に満水になっている。
つまり、
8月3日の時点では、ジョイント部の破損箇所がまだ1箇所残っていた。
この事実は極めて重要である。
8月3日、現場は再び水没したのではないか
前回の記事で検証したように、6月26日の事故では、なにわ大放水路とポンプ室をつなぐジョイント部が破損し、そこから大量の水が流入した可能性が考えられている。そのジョイント部が完全には補修されていない状態で、8月3日、放水路が再び満水になった。
ならば当然、一つの疑問が生じる。
8月3日、ポンプ室は再び浸水したのではないか。
大阪市は、機器製作会社が現場でエンジンなどを「分解、評価、洗浄、整備」すると説明している。さらに7月30日の市長会見では、横山市長自身が現場を視察し、
「既に技術職の皆さんに作業していただいている」
「緊急措置としてはかなり手当てとしては進んできている」
という趣旨の説明をしている。
ところが、その4日後に大放水路は満水になった。
もし破損したジョイント部から再び水が流入していたのであれば、どうなるのか。
それまで現場で進めていた分解、評価、洗浄、整備は、再び泥水に浸かったことになる。一度水没したエンジンを洗浄し、整備している途中で、もう一度水没した。
もしそうであるなら、「来夏までに1基」という以前に、その機器を本当に再使用できるのかという問題から検証し直さなければならない。
ここは大阪市に明確な説明を求めたい。
8月3日、住之江抽水所のポンプ室は再浸水したのか、していないのか。
まず、この事実を明らかにすべきである。
なぜエンジンを工場へ運び出さないのか

なぜ、水没したエンジンをクレーンで搬出し、安全な工場でオーバーホールしないのだろうか。
住之江抽水所には構内クレーンがあり、機器を搬出入するためのマシンハッチも設けられているはずである。レポート5ページに掲載された断面図でも、地上から地下の機械室へ機器を搬出入するための構成が確認できる。そもそも巨大なエンジンや減速機は、永久に地下へ置きっぱなしにするものではない。
将来的な更新や大規模修繕を考えれば、搬出入するための設備は必要になる。
であれば、水没した機械を現場で無理に分解・洗浄・整備するのではなく、クレーンで搬出してメーカーの工場でオーバーホールするという選択肢が当然考えられる。
工場であれば、整備環境も検査設備も整っている。まして現場は、一度大量浸水し、さらに8月3日に再浸水した可能性まである地下施設である。
なぜ、現場でオーバーホールを続けるのか。
もちろん、巨大なエンジンを搬出できない技術的理由があるのかもしれない。搬出に時間がかかるのかもしれない。ならば、それを説明すればよい。
しかし、そうした説明がないまま、「現場で分解、評価、洗浄、整備、再組み立て」とだけ説明されても、本当にそれが最も安全で確実な復旧方法なのかという疑問は消えない。
「来夏までに1台」という言葉だけが独り歩き?
現在、なにわ大放水路の雨水を排出する6基のポンプは、すべて停止したままである。その状態で8月3日の大雨を迎え、30万トンの大放水路は実際に満水になった。
これから台風シーズンを迎える。
当然、市民にとって重要なのは、完全復旧する2029年度末の話だけではない。
次の大雨が来たらどうなるのか。
大阪市は仮設ポンプなどによる緊急対策を進めているが、本来の排水能力には及ばない。その最も厳しい時期に、
「来夏までに1台復旧を目指す」
という分かりやすい言葉が大きく報道された。
しかし、その裏側では、何台がオーバーホール可能なのかさえ、まだ判明していない。8月3日に現場が再浸水した可能性も残っている。
そして、なぜ水没したエンジンを工場へ搬出せず、現場でオーバーホールするのかについても十分な説明がない。これでは「来夏までに1台」という言葉で、現在直面している問題から目をそらさせているようにも映る。
市民が求めているのは「目指す」という言葉ではない
メディアは「来夏ごろまでに1基の復旧を目指す」と報じている。確かに「目指す」であれば、実現できなくても発表そのものが嘘だったことにはならない。
しかし、市民がニュースを見れば、
「来年夏には、とりあえず1台は元に戻るのだろう」
と受け取っても不思議ではない。
問題は、そこである。
・復旧可能性を調査している途中であること。
・一度水没した機器を再使用しようとしていること。
・8月3日には大放水路が再び満水になったこと。
・その時点ではジョイント部の破損箇所が残っていたこと。
・現場でオーバーホールを進める技術的な妥当性。
こうした重要な事実や疑問が十分に伝えられないまま、「来夏に1基」というニュースだけが広がっていく。
それで市民は、本当に現在のリスクを正しく判断できるのだろうか。
必要なのは「確実に直せる」という根拠
住之江抽水所は、大阪市南部の浸水対策を担う極めて重要な施設である。
だからこそ、一日でも早い復旧が求められる。
しかし、早く直すことと、直せるように見せることは違う。
もし現場でのオーバーホールが最も合理的なら、その根拠を示せばよい。8月3日に再浸水していないのであれば、その事実と理由を示せばよい。「来夏に1基」が技術的に可能なのであれば、その工程と判断根拠を示せばよい。
逆に、まだ分からないのであれば、分からないと説明するべきである。住民が求めているのは、復旧に取り組んでいるという政治的なアピールではない。
事実に基づいた安全と、確実な復旧である。
大阪市自身が公表した調査結果、委員会答弁、そして図面を時系列に並べてみると、発表された復旧ストーリーには、まだ説明されていない部分が残っている。
まず確認したい。
8月3日、住之江抽水所は再び水没したのか。
そして、二度水没した可能性のあるエンジンを、本当に現場でオーバーホールし、来夏までに安全に再稼働させることができるのか。
「目指す」という言葉ではなく、その根拠を示してほしい。
【次回予告】
第4回 : 臨時建設港湾委員会で明らかになった衝撃の事実②
質疑応答の記録から、さらに事故の深層へと迫ります。
ぼうけんさんって。
ぼう•けん 防災×建築計画研究所 所長
駅前再開発や公共建築設計に携わる一級建築士。建築計画に防災視点を取り入れ、都市のレジリエンスを強化。平時は経済で稼ぎ、災害時は命を守るフェーズフリー設計を提唱。持続可能な次世代防災都市モデルを提案されています。


