同じ夢洲で、なぜ12万円と21万9千円なのか
大阪市は9月14日、万博跡地の中核となる「夢洲第2期区域」約42ヘクタールについて、売却予定価格を921億1300万円と発表した。1平方メートルあたり約21万9千円である。
一方、隣接する大阪のIRカジノ用地の賃料鑑定で基礎とされた土地価格は、1平方メートルあたり12万円だった。単純計算で、第2期区域は約1.8倍になる。
もちろん、売却と賃貸の違いがあり、価格を算定した時期も同じではない。この差だけで、IRカジノ用地の鑑定が違法だったと断定することはできない。
しかし、問題は価格だけではない。第2期区域では、土壌汚染・液状化・地盤沈下などへの対応は原則として買い主負担である。IRカジノ用地では逆に、大阪市が土地課題対策費として最大788億円を負担する。IRカジノの土地価格は低く、その土地を使える状態にする費用まで市が引き受ける。この二重の差を、行政はどう説明するのか。
| 比較項目 | 万博跡地開発事業者 | IRカジノ事業者 |
|---|---|---|
| 土地の利用 | 約42ヘクタールを購入 | 約49ヘクタールを長期賃借 |
| 公表・算定された土地価格 | 約21万9千円/㎡(売却予定価格) | 12万円/㎡(賃料算定の基礎価格) |
| 賃料条件 | ― | 月額428円/㎡、当初10年間は増額不可 |
| 最寄り駅・開発効果 | 夢洲駅出口至近、国際観光拠点として公募 | 鑑定では夢洲駅やIRカジノ事業の効果を考慮せず |
| 土地課題対策 | 原則、事業者負担 | 大阪市が最大788億円負担 |
しかも、この売却予定価格921億1300万円は、単なる目安ではない。
計画提案審査で一定の水準を満たした応募者のうち、予定価格以上で最も高い価格を示した事業者が、開発事業予定者に選ばれる。つまり、この金額は実質的な最低価格だ。
USJには値上げを求め、IRカジノには負担まで引き受ける
ここで思い出すべきは、USJ用地をめぐる大阪市の対応だ。
大阪市は、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)への賃料が1平方メートルあたり月額388円だったのに対し、隣接する民有地が516円で賃貸されているとして、2011年1月に賃料増額を求めて提訴した。さらに2014年4月には、次の賃料改定をめぐる二次訴訟も起こしている。一次訴訟では442円との判決が確定し、その後の和解では480円、さらに495円へと改定された。大阪市は差額や利息など約10億9千万円を回収した。
2015年12月の大阪地裁判決は、USJが大阪市に多大な貢献をしていることや、その公益性を認めている。それでも大阪市は、「市有財産を適正な価格で貸す」という立場から増額を求めた。一方、IRカジノの賃料は1平方メートルあたり月額428円で始まり、当初10年間は増額できない。契約期間は最長35年間となっている。
では、なぜIRカジノでは態度が逆になるのか。
IRカジノには将来の経済効果や税収が期待できる、という説明が繰り返されてきた。しかし、それは予測であって確定した利益ではない。ギャンブル依存症対策、治安・交通・環境への影響、将来の行政負担など、社会的・環境的な負の影響が、経済効果の試算から同じ精度で差し引かれているわけでもない。
将来の利益を大きく見積もる一方、現在の公費負担を軽く扱い、その予測を理由に特定事業者だけを有利にする。その不公平さは許容してよいものだろうか。
違いがあるなら、違いを説明する責任がある
IRカジノ用地の鑑定では、IRカジノ事業や夢洲駅の開業効果を考慮せず、「低層の大規模商業施設と広い駐車場」を最有効使用とする条件が置かれた。これに対し、第2期区域の募集資料は、夢洲駅出口に近い立地や国際観光拠点としての利用を前提としている。
同じ夢洲の土地でありながら、駅や開発効果を評価に入れるのか、外すのか。土地のリスクを事業者が負うのか、市民が負うのか。ここに一貫した基準はあるのか。
法の下の平等は、すべてを同じ条件にせよという意味ではない。土地の用途や契約形態が違えば、価格や条件に差が生じることはある。ただし、行政が特定の相手だけを有利に扱うなら、その差には客観的で合理的な根拠が必要である。
今回の921億円は、過去のIRカジノ鑑定が直ちに違法だったことを証明する数字ではない。しかし、IRカジノ事業者にだけ低い価格と公費負担を組み合わせた理由を、改めて大阪市に問い直す重要な比較材料になった。
大阪市は、万博跡地の価格算定根拠や不動産鑑定記録をまだ公表していない。夢洲駅を価格にどう反映したのか、どのような用途や取引事例を前提にしたのか、土地課題をどう評価したのか。そして、IRカジノ用地の鑑定や費用負担との違いを、どのような基準で説明するのか。大阪市には、算定の根拠と記録を示し、これらを市民に明らかにする責任がある。
市民の財産の価格や負担条件が、行政の期待する事業者かどうかで変えられてよいはずはない。夢洲をめぐるIRカジノ訴訟が問うているのは、まさにこの「公平性」である。

