文化財の修復費を、国はなぜクラウドファンディングに組み込むのか

コラム
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「文化財サポーターズ」が変えようとしている公の役割

文化財の災害復旧に、1000万円の寄付を募る

文化庁は8月26日、2026年7月の熊本地震で被災した国指定文化財の復旧を支援するため、クラウドファンディングの実施を発表した。募集は8月28日に始まった。対象は、八代市の松浜軒、大津町の江藤家住宅、熊本市の吉田松花堂。いずれも民間が所有する文化財で、目標額は3件合わせて1000万円である。

文化庁の説明では、国指定文化財の災害復旧には、国と自治体から最大85%の補助を受けられる。しかし「最大85%」は、実際に85%が補助されるという意味ではない。今回の3件について、修復費の総額はいくらなのか、実際の公費負担はいくらで、所有者はいくら負担するのか。なぜ寄付の目標が1000万円なのか。公表された情報からは、その全体像が見えない。

民間所有の文化財について、所有者にも一定の負担を求めること自体が問題なのではない。問いたいのは、国・自治体・所有者・寄付者が、それぞれ何をどこまで負担するのか、その境界が示されないまま、国が市民に寄付を呼びかけていることである。

「保存」から「活用」、そして「資金調達」へ

しかし、今回の取組を、災害時だけの単発的な支援と見ることはできない。

文化庁は2019年のハンドブックで、文化財をコンサートや催事の「特別な会場」として活用し、観光客の増加や地域への経済波及につなげる方針を示していた。そこでは、修理資金の不足を参加者に伝え、保存活動への参加を促すことも提案されている。

2020年には「文化財保護のための資金調達ハンドブック」を発行。2024年にはクラウドファンディング事業者のREADYFORと連携協定を結び、「文化財サポーターズ」の取組を始めた。今回の募集もREADYFORのサイトで行われている。

さらに2026年の改訂版ハンドブックでは、文化財の財源を、寄付収入を「集める」、補助金を「申請する」、事業収入を「稼ぐ」という三つに整理している。クラウドファンディングについても、一度限りの「打ち上げ花火」ではなく、運営費を毎年集めたり、修復段階ごとに繰り返したりする継続的な資金調達手段として示す。最初の寄付者を、継続寄付者、年会費・月会費を払う支援者、さらに大口寄付者へとつなげる考え方まで説明している。

つまり国は、文化財を守るための自発的な寄付を応援するだけでなく、寄付者を継続的に獲得するしくみを、文化財保護の中に組み込もうとしている。

寄付は安定財源になり得るのか

背景に資金不足があることは明らかだ。文化庁が2025年度に全国の市区町村を対象に行ったアンケート調査(回答1166件)では、文化財の保護・維持管理に必要な資金が「非常に不足している」「少し不足している」とした自治体は、合わせて75%に上った。

しかし、その不足がなぜ生じているのか、国と自治体の予算や補助率は妥当なのかという検証より先に、所有者や地域に「集める・申請する・稼ぐ」ことを求めてよいのだろうか。

寄付の実態も見ておきたい。文化庁の世論調査では、2023年から2025年まで、文化芸術に寄付した人は約1割で推移している。2025年の寄付実績を尋ねた調査で、ふるさと納税以外の寄付経験者のうち、寄付型クラウドファンディングを使った人は12%。全回答者に対しては、単純計算で1%に満たない。

寄付への関心と、文化財を継続的に支えられる安定財源とは同じではない。広く知られ、共感を集めやすい文化財に寄付が集中する一方、知名度の低い文化財ほど取り残されるおそれもある。

実際、今回対象となった松浜軒は、2023年にも修復のためのクラウドファンディングを行い、目標1500万円に対して3748万5000円を集めた成功例として、文化庁のハンドブックで紹介されている。過去の成功が今回の選定理由だったとは断定できない。しかし、寄付を集めた実績や発信力を持つ文化財ほど、次の支援にもつながりやすい構造は考えなければならない。

市民参加と費用の肩代わりは同じではない

市民が文化財に関心を持ち、その保存活動に関わることには意味がある。寄付によって、公費だけではできない活動を豊かにすることもできる。

しかし、市民が文化財保護に参加することと、修復費の不足を市民の寄付で埋めることは同じではない。寄付は市民の善意である。善意は、行政の責任を肩代わりするためにあるのではない。

文化財は、寄付を集められたものだけが未来に残ればよいものではない。国や自治体がまず、何を公費で守るのかを明確にし、その責任を果たしたうえで、寄付は活動を広げるために生かされるべきだろう。

私たちはすでに税を負担している。そのうえで、文化財を守るための追加負担まで市民に求めるのであれば、なぜ公費だけでは足りないのか、寄付金を何に使うのか、国・自治体・所有者の負担はどうなっているのかを示す必要がある。

文化財を守るのは、寄付を集める技術なのか。それとも、未来に残すべきものを社会全体の責任で支える政策なのか。文化庁がまず示すべきなのは、クラウドファンディングの方法ではなく、その答えではないだろうか。

主な参考資料

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