「議員を減らす」という言葉の罠
「議員を減らしてスリム化する」という言葉は、響きがいい。
税金の無駄遣いを減らす。身を切る改革。そういうフレーズとセットで語られると、なんとなく正しいことのように聞こえる。維新が長年掲げてきたこのスローガンに、多くの人が共感してきたのも事実だ。
しかし、数字を丁寧に見ると、全く違う景色が見えてくる。
定数削減は「スリム化」ではない。それは民意の切り捨てだ。削られるのは議員の人数ではなく、あなたの一票が議席に届く確率である。
今回は、2023年の統一地方選挙のデータと2027年に向けて確定・予定されている定数削減の中身を、選挙区ごとに丁寧に検証してみたい。そこから見えてくるのは、「改革」という名の下で進む、民主主義の静かな解体だ。
まず現状を確認する——2023年の「すでに高い死票率」
大阪府議会・大阪市議会は現行、複数の候補者が当選できる中選挙区制(SNTV)を採用している。本来この制度は、死票を減らし少数派の民意も反映しやすくするための仕組みだ。
ところが2023年の統一地方選挙の実データを選挙区ごとに集計してみると、現行の中選挙区制であるにもかかわらず、大阪市議会の平均死票率は48%に達していた。投票に行った市民のほぼ半数の意思が、議席にまったく反映されていないという現実だ。
府議会も同様で、投票が行われた選挙区(無投票を除く)の平均死票率は約44%だった。
なぜ中選挙区なのにこれほど死票が多いのか。理由は維新の得票力にある。単独で当選ラインを大幅に超える票を獲得した維新候補が議席を独占し、他党への票が死票になる構造が、現行制度の中ですでに生まれている。
大阪市内を具体的に見ると、都島区・東成区・鶴見区など定数2の選挙区で維新が2議席を独占し、死票率が35〜42%に達している。定数1の選挙区ではさらに深刻で、北区・天王寺区・浪速区など多くの区で死票率が35〜40%を記録した。
これが「2023年6月の改革前」の現状だ。
市議会:11選挙区で定数削減、何が消えるのか
2023年6月、大阪市議会は2027年選挙に向けた定数削減条例を可決した。81議席から70議席へ、11削減。削減される選挙区と内容は以下の通りだ。
平野区(6→5)、住吉区・城東区・東淀川区(各5→4)、生野区・東住吉区・住之江区・北区(各4→3)、東成区・西淀川区・旭区(各3→2)。
この削減が死票率にどう影響するか。試算してみると、結果は明白だ。
東成区(3→2)では、死票率が35%から52%へと17ポイント上昇する。現行で3議席中2議席が維新だったが、定数2になれば維新が2議席を独占し、3位当選者(無所属)の票がまるごと死票になる計算だ。
西淀川区(3→2)では45%から60%へ15ポイント上昇。現行で維新2・公明1という構成だったが、定数2になれば公明の議席が消える可能性が高い。
城東区(5→4)では共産党の議席が消え、北区(4→3)では自民の議席が消える。いずれも死票率が10〜15ポイント跳ね上がる。
市議会全体の平均死票率は、48%から約54%へと上昇する見込みだ。
府議会:6選挙区で定数削減、多様性の核心が狙われる
大阪府議会では、2026年5月に維新府議団が79議席から73議席への削減案を提出した。「逆転現象の解消」を名目に、人口比で定数が多いとされる選挙区6区で各1削減する内容だ。
削減対象として推定されるのは、豊中市(4→3)、吹田市(3→2)、高槻市・三島郡(3→2)、枚方市(4→3)、茨木市(3→2)、東大阪市(4→3)の6選挙区だ。
この6選挙区には、府議会の中でも特に多様な民意が反映されていた選挙区が含まれている。
吹田市(3→2)は維新・共産・公明という3党が議席を分け合っていた。死票率は62%から**約76%**へと急上昇する。定数2になれば、共産か公明のどちらかが落選する可能性が高く、その支持者の票がすべて死票になる。
高槻市・三島郡(3→2)では維新・立憲・公明の3党が共存していた。ここも定数2になれば立憲か公明が落選し、死票率は61%からさらに上昇する。
府議会全体の平均死票率は44%から約48%になると試算される。数字だけ見ると小さな変化に見えるかもしれない。しかし実態は、「辛うじて残っていた非維新の議席」が集中的に削られるという構造だ。
無投票という「別の死票問題」
死票率の議論とは別に、もう一つ重大な問題がある。無投票当選だ。
2023年の府議会選挙では、47選挙区中11選挙区が無投票だった。泉大津市・高石市・泉北郡、貝塚市、西淀川区(市内)、泉佐野市・泉南郡、松原市、大東市・四條畷市、和泉市、柏原市・藤井寺市、富田林市・大阪狭山市・南河内郡、泉南市・阪南市・泉南郡、羽曳野市——これだけの選挙区で「選挙そのものが行われなかった」。
定数削減が進めば、「候補者が定数と同じ人数しか立てられない」選挙区がさらに増える可能性がある。定数が減れば、少数政党が候補者を立てること自体を断念するケースが増えるからだ。
死票率が上がる以前に、「投票できる選挙」すら消えていく。
数字を「まち」に置き換えてみると
生野区を例に取ってみよう。人口約13万人の区で、2027年には議員定数が3名になる。
3名のうち維新が2名を占めるとすると、非維新支持の住民が頼れる議員は実質1名だ。行政への苦情、福祉サービスの要望、まちづくりの提案——13万人の生活課題が、たった1名の議員に集中する。
これは政治的な話ではない。行政相談が機能しなくなるという、生活の問題だ。
定数削減を「議員の数が減る話」として抽象的に捉えていると、こういう具体的な崩壊が見えにくくなる。削られるのは議員のポストではなく、住民と行政の間にある「声の通り道」だ。
「身を切る改革」の受益者は誰か
ここで冷静に問い直してみたい。定数削減によって、誰が得をするのか。
削減される議席のほとんどは、維新以外の党が占めていた議席だ。吹田市の共産、高槻市の立憲、北区の自民、城東区の共産——数を減らすことで直接的な打撃を受けるのは、野党・少数党の議席だ。
一方、維新の議席はほぼそのまま維持される。定数削減後も、維新の議席占有率はむしろ上昇する試算になっている。
「身を切る改革」と言いながら、切られているのは他党の議席であり、それを支持していた有権者の声だ。この非対称性は、偶然ではないだろう。
2027年に向けて、わたしたちが知っておくべきこと2027年4月の統一地方選挙まで、あと1年もない。
今回試算した死票率の変化を一覧でまとめると、こうなる。
大阪市議会の平均死票率:48% → 54%(+6ポイント) 大阪府議会の平均死票率:44% → 48%(+4ポイント)
選挙区によっては17ポイント以上の上昇が見込まれる区もある。
数字は冷たく見えるかもしれない。しかしその一つひとつの数字の背後には、「自分の票が議席につながらなかった」という、実際の有権者の経験がある。
民主主義は投票日だけで成り立っているのではない。投票した結果が議席に反映され、その議員が日常の政治を動かす——その連鎖の中に民主主義の実質がある。死票率が上がるということは、その連鎖の最初の一歩が、最初から切断されるということだ。
「議員を減らす」という言葉の響きに乗せられる前に、誰の声が、どの議席が、なぜ削られるのかを、自分の目で確かめてほしい。
<山口 達也>

