自治の視点から見た「まちづくり」

まちづくりという言葉は、日本社会の中で長く使われてきた。戦後の都市復興、ニュータウン開発、地方創生と、その時々の社会課題に合わせて形を変えながら、人々の暮らしの舞台を整えてきた。
だが、いま改めて問うべきは、「まちづくりとは誰のものか」という根本的な問いである。行政の計画としてのまちづくりと、市民の手によるまちづくりのあいだには、いまだに見えない壁が存在する。そしてそこに「自治」というキーワードが垣間見える。
都市計画はしばしば「国家百年の計」と言われる。これは、都市が一朝一夕にできるものではなく、長期的な展望と秩序のもとに形成されるという思想である。たしかにインフラ整備や土地利用、景観計画などは、時間をかけて調整されるべき対象である。しかし、その「百年の計」が、いつしか「市民不在の百年の計」となっていないだろうか。
そういったインフラを中心としたまちづくりを焦点に「計画」として語ると、どうしても上からの視線が潜む。
一方、近年では「イベント」というソフトウェア的発想でまちづくりを考える動きが広がっている。
マルシェ、フェスティバル、ワークショップといった小さな活動が、地域の魅力を再発見し、住民をつなぐ「接着剤」として機能している。都市空間の再編をハードからではなくソフトから試みるこの動きは、まさに「生きている都市」の証である。
しかし、ここにもまた課題がある。イベント的まちづくりは、しばしば一過性の盛り上がりに終わる。楽しさの共有が「恒常的な自治」へと深化しないまま、次の企画へと流れていく。
結果として、「にぎわいの創出」はあっても「自立した地域運営」は育たない。
自治という観点から見れば、まちづくりは単なる体験ではなく、持続的な意思形成の場であるという認識が不可欠であろう。
自治とは「まちを運営する力」である
自治とは、単に行政から独立することではない。むしろ、地域の中で多様な立場の人々が意見を持ち寄り、合意をつくる力である。
多くの若者が「まちづくりに参加したい」という、そのまちづくりとは、空間を管理することではなく、関係を編むことである。
そのような背景もあり、SNSやオンラインの共助ネットワークが新しい自治の芽を生み出している。まちづくりの未来は、こうした多層的なつながりをどう編み直すかにかかっているのではないだろうか。
参加から共創へ
市民参画という言葉は、長く行政のスローガンとして使われてきた。
だが実際には、「意見を聞く場」「説明を受ける場」にとどまることが多い。本来の参画とは、参加と責任を引き受けることの両立である。自ら決め、自ら担うという覚悟がなければ、自治は形式だけのものになる。
そのためには、まちづくりの現場を「学びの場」として再設計する必要があると考えられる。地域の課題を共有し、住民自身が小さな試行を繰り返すプロセスが重要である。たとえば空き家の利活用、防災訓練、コミュニティガーデンなど、身近なテーマから始めることで、自分たちの手でまちを動かす感覚が育つのだ。
また、まちづくりを世代を超えた共通言語にする工夫も欠かせない。子どもたちが地域の歴史を学び、高齢者が知恵を語り、若者がデジタル技術を活かす。そうした多世代の協働が、自治を持続可能にする基盤となる。
自治的まちづくりの条件
自治的まちづくりを支える条件をまとめておこう。
第一に、情報の共有である。行政の持つデータや計画を市民が自由に閲覧できる仕組み、いわゆる「オープンガバメント」の発想が不可欠である。情報が公開されてこそ、市民は判断し、提案できる。
第二に、対話の制度化である。単発のワークショップではなく、地域ごとの「話し合いの場」を定常的に持つことが求められる。議会でも行政でもない、第三の公共空間としての「地域円卓会議」的な仕組みが有効であろう。
第三に、小さな成功体験を積み重ねる仕組みである。すべてを完璧に計画するのではなく、試行錯誤を許容する。まちづくりの現場に「失敗の自由」を認めることが、創造的な自治を育む。
成功事例としての「おにクル」

大阪府茨木市のコミュニティ複合施設「おにクル」は、市民会館跡地エリア活用として、その構想段階から市民の声が活かされている。
まさに上記の3つの条件を具現化した施設であろう。
“つかう”、“つくる”、“かんがえる”を繰り返しながら、跡地エリアの活用を市民とともに考えるプロセスを積み上げてきた数少ない事例のひとつである。
2021年度に開催したデザイン思考を学ぶ講座「ミルミルフムフムツクール」では6つの取り組みが生まれ、現在も活動が続いている。また、「おにクル」7階に市民活動センターでは、これからの時代に求められる市民活動とその運営を考える「いばらきひらこか」を開催。
さらに、広場で活動する主体が日々の活動の課題を共有する「ひろばかいぎ」や「おにクル」での市民活動のルールづくりにむけた「ルールづくり会議」など、活動主体の発掘だけではなく、運営やしくみづくりに市民が関わる機会を形成した。
2022年度には、市民活動コーディネーターを発掘育成する養成講座「コトレッジ」を開催。現在市役所と市民活動センターでは6人の市民活動コーディネーターが活躍している。
主体形成のしくみ化
自治的まちづくりの核心は、「市民が意思決定の主体となる」ことである。
単なるパブリックコメントのように、行政がつくった計画に意見を言う段階ではなく、「おにクル」のように計画そのものを構想する段階から市民が関わることが必要である。
言い換えれば、「まちづくりを行政の仕事とみなす」意識から、「まちづくりは私たち自身の暮らしのデザインである」という意識への転換である。
本来、「おにクル」のような計画手法は、もっと普通に一般化されるべきであろうし、大阪市の行政、自治、まちづくりのあり方として、このような市民参画が当たり前となる手法がもっと標準化されるべきである。
身を切る改革の前に、もっとやるべき課題は山積みのはずなのだが。
<山口 達也>