大阪カジノ住民訴訟で揺れる夢洲-2
カジノ用地の土地所有者「大阪市」だけが大きな負担を背負う危険

2022年7月29日に住民訴訟が提起されてすでに3年が経つ。前回紹介したように、この間大阪府・市とカジノ事業者間の契約において、様ざまな疑惑が浮上。2022年10月には、カジノ用地の賃貸料を決定するための不動産鑑定の賃料が、鑑定を行った3社が3社とも同じ金額となっていることを「しんぶん赤旗」がスクープ。(しんぶん赤旗日曜版 大阪カジノ用地賃料「不当鑑定疑惑」特別全文公開 https://note.com/nitiyouban)2023年4月3日、大阪市の土地をカジノ事業者に貸し出す賃料が格安であることを違法として、新たな住民訴訟が提起された。これが、第2グループ原告団による第2事件である。
その後同年9月には、大阪府・市とカジノ事業者の間で実施協定と借地権設定契約などが締結され、12月4日土地改良事業として液状化対策工事が始まった。カジノ事業者との契約が結ばれたことから、これまでの「契約差し止め請求」から「土地引渡しの差止め」と「登記手続きの差止め」に請求趣旨が変更されている。
そうこうしているうちに、新たな住民訴訟が提起された。液状化対策工事の期間中、カジノ事業者は対象となる土地を無償で借りていることが発覚。2024年9月9日に、土地改良事業の賃貸料を請求せよという訴訟と、土地改良事業を差し止めを請求する2つの訴訟が第3グループ原告団から提起された。第3グループ原告団による第3事件、第4事件。
さらに、2024年12月16日、第2事件で格安賃料の鑑定が違法だとして、カジノ用地の賃貸契約の差止めを請求していた第2グループ原告団が、賃料が格安であるために大阪市民が被る損害を横山玄市長、松井元市長、カジノ事業者、そして賃料の鑑定を行った不動産鑑定士らに対して賠償請求を求める訴えを行った。賠償額は約1000億円に上る。これが第5事件となる。
また、第1グループ原告団は、すでにカジノ用地の賃貸契約が違法であるとして損害賠償請求を行っていたが、先の「液状化対策工事の期間中、カジノ事業者は対象となる土地を無償で借りている」ことに対しても不正であるとして、土地改良事業の賃貸料の請求を求める訴えた。これが第6事件であり、それぞれ請求内容によって各事件は併合され、共同訴訟となっている。各事件の内容と併合された内容は、下図の通り。

これらの事件が起こされている根本的な問題は、夢洲の軟弱地盤にある。前回も簡単に紹介したが、夢洲は大阪湾沖を埋め立てた土地で、カジノ誘致や万博誘致が無ければ、まだ数年先まで廃棄物処分場として活用できる土地だ。それを急速に埋め立てたため、もともと軟弱な地盤に加えて、まだまだ土地として使える状態にはなっていなかった。それを無理やり補強はしたものの、高層の建物を建てるためには土壌の改良や地盤を補強する80m長のコンクリート杭が必要となったのだ。
大阪湾の土壌については下図を参照

大阪市は夢洲では液状化は起こらないとカジノ事業者に説明していたがカジノ事業者が独自にボーリング調査を行った結果、液状化が発生することが発覚。また、2021年の104か所に上るボーリング調査の結果、カジノ予定地で基準値を超えるヒ素やフッ素が検出され土壌汚染も明らかとなった。大阪府・市はカジノ事業者をつなぎとめるため、土地所有者の責任としてこれらの土地課題対策を大阪市が行うと議会で可決した。
従来大阪市は、湾岸の埋め立て地埋めは、倉庫や住宅地として売却や賃貸をしてきたが、その際には、土地所有者として現状有姿を原則とし、契約不適合責任(瑕疵担保責任)を負わないのを条件としてきた。土地所有者である大阪市が約790億円に上る債務負担行為をすることは、異例中の異例。
またこの時点ではまだ契約書にあたる「基本協定書」の内容が公開されておらず、土地課題対策の実施や費用にいての詳細がわかっていなかった。2022年3月になって、基本協定書の全文が入手することができるようになり、やっと詳細な契約内容が明らかとなった。
基本協定書 第19条4項4号(基本協定が解除できる場合)に記載されている内容は次のようになっている。
「区域整備計画が国に認定された日から30日を経過した日に、「IR運営事業に悪影響を与える土地に関する事象が生じておらず、生じる恐れもない」状態でなければ、大阪IR株式会社は基本協定を解除できる」とされている。「国に認定された日」というのは、カジノの免許を政府が与える日のことで、これはおそらく開場直前になるのではないかと推察されている。また「土地に関する事業」とは、地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分などの対策事業のことで、この条文によれば、カジノ認定がされるまでの間に、事業に差し障るような地盤沈下や液状化など土地に関するトラブルが発生すれば、契約解除する、というのだ。その場合は損害賠償も発生するだろうから、賠償金を払うか土壌改良や建物補修を行うようなことが発生しかねない。夢洲は、大阪湾という不安定な土壌の上に立っている埋め立て地だ。特に、将来的に地盤沈下が生じないようにする、というのは極めて困難な作業となる。大阪市が土地所有者の責任で土地改良を行う、という前提で行ったことは、将来にわたって継続的に費用負担も含めて対策を取らなくてはならない可能性もある。その時、対策費がどのくらい巨額になるかは予測もできない。土地所有者の大阪市の責任は青天井にならざるを得ないともいえる。
このカジノ訴訟は、そうした将来的な問題に警鐘を鳴らす住民からのメッセージでもある。
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