―再エネは地域資源とどう共存するのか
再生可能エネルギーの導入は、気候変動対策として避けて通れない政策課題となっている。日本は2050年カーボンニュートラルを掲げ、太陽光発電と並んで風力発電もその主力電源の一つとして位置づけられている。とりわけ近年は、十数基から数十基の大型風車を設置する「ウインドファーム」と呼ばれる大規模風力発電の開発が各地で計画されている。
その一方で、日本でも風力発電をめぐる地域との摩擦や対立も増えている。森林伐採や水源への影響、土砂災害リスク、生態系や景観の問題などが指摘され、北海道から九州まで全国各地で議論が起きている。
こうした問題はしばしば、再エネ推進か反対かという単純な対立として語られがちだ。しかしほんとうに問われているのは、再エネの是非とは限らない。エネルギー開発の立地を誰がどのように決めるのか、そして地域の自然や資源をどのように利用していくのかという問題は忘れられがちである。
大規模化する風力発電と日本の地理的特性
現在各地で計画されている風力発電の多くは、出力50MW以上の大規模事業である。近年の風車は1基あたり4~5MW級が主流となり、高さは150~200mに達する。風車1基を支える基礎には数千トンのコンクリートが必要とされ、建設には尾根筋の造成や作業道路の整備を伴う。
日本では、風況(風向・風速: 風が吹く方向と強さ)の良い場所の多くが山地や海岸部に集中している。そのため森林伐採や斜面造成を伴う計画も少なくなく、環境影響評価(アセスメント)の中でも、自然環境や防災の観点から議論が行われている。
国見山で続く風力発電をめぐる議論
高知県本山町と大豊町の境に位置する国見山でも、上述のような議論が続いている。電源開発株式会社(J-POWER)は、四国山地の尾根部に風力発電事業を計画しており、当初は21基の風車を設置する計画であった。環境影響評価の過程で工事計画の見直しが求められ、2025年には風車出力を大型化する一方で、風車の数を12基に減らし、改変面積も縮小する変更案(約31.9haから約21.2ha)が示されている。
しかし地域では、なお懸念が残っている。2026年2月には、地元住民でつくる団体が、事業中止を求める約2万5千筆の署名を町長と県に提出した。住民側が指摘しているのは、水源域での尾根開発による水環境への影響、森林伐採や景観への影響、そして地質条件の下での斜面安定性などである。
四国山地は付加体地質と呼ばれる構造を持ち、地すべり地形が多い地域として知られている。実際に国見山周辺でも砂防指定地が広く分布しており、防災面で慎重な検討が必要だと指摘されている。一方事業者側は、環境影響評価の中で影響低減措置を示しており、これらの評価をめぐって地域と開発側の認識の差が続いている状況である。
再エネをめぐる三つの立場
風力発電をめぐる議論は、しばしば賛成か反対かという単純な対立として語られる。しかし実際には少なくとも三つの立場が存在している。
第一は、気候変動対策のために再生可能エネルギーの拡大を優先すべきだとする政策・エネルギー産業の立場である。特に陸上風力や洋上風力の導入拡大は、脱炭素政策の中核とされており、大規模なウインドファームの整備を進めなければ温室効果ガス削減目標の達成は困難だという考え方である。
第二は、地域環境や生活への影響を懸念する立場である。山林破壊や水源への影響など地域環境を守るため開発に慎重であるべきだとする地域住民の立場である。こうした懸念は、すべての風力発電に当てはまるわけではないが、日本の山地という自然条件の中で大規模な開発を行う場合には、慎重な検討が必要だとする考え方である。
そして、再生可能エネルギーの導入自体は必要としながらも、その導入のあり方を地域主体で考えるべきだとする第三の視点である。再エネ開発をめぐる対立の多くは、発電の是非よりも、どこで、どの規模で、どのように導入するのかという地域の意思決定の問題として現れている。地域資源をどのように利用し、その利益はどのように地域社会の中で循環させるのかという課題である。
再エネ導入をめぐる対立の多くは、発電の是非というよりも、どこで、どの規模で、どのように導入するのかという地域の意思決定の問題として現れている。
欧州で広がるゾーニングという調整手法
こうした対立を調整する手法として注目されているのが、「ゾーニング」である。これは再エネ導入の最適地選定だけでなく、自然環境、災害リスク、景観、土地利用などを総合的に評価し、
◎導入を推進する区域
◎慎重に検討する区域
◎抑制すべき区域
といった形で地域の空間を整理する政策手法である。
欧州では、風力発電の拡大とともに景観や自然環境をめぐる紛争が各地で起こり、その調整のために空間計画としてのゾーニングが導入されてきた。ドイツやデンマークでは自治体が風力優先区域を設定し、導入可能な地域と抑制する地域をあらかじめ定めることで、開発と地域社会の調整を図っている。
日本でも、大阪府能勢町では、地域エネルギー政策を検討する中でこのゾーニングの考え方を取り入れ、再生可能エネルギーの導入可能性と自然環境保全の両立を図る試みが進められてきた。単に再エネを導入するかどうかではなく、地域の森林、水源、景観、農業などの資源を踏まえながら、どこでどのようなエネルギー利用が可能なのかを地域全体の視点で整理しマッピングされている。
※uco掲載「能勢・豊能まちづくりが目指す「自治」とエネルギー循環 [2]」参照
重要なのは、このゾーニングが再エネ開発そのものを否定するものではないという点である。地域の自然条件や社会条件を踏まえたうえで導入のルールを明確にすることで、開発側と地域社会の双方にとって予見可能性を高める役割を持つ。再生可能エネルギーの導入を進めるのであれば、その立地や規模を地域社会と共有しながら決めていくしくみが不可欠である。ウインドファームとの共生を考えるうえで、ゾーニングはそのための一つの具体的な方法ではないだろうか。
再エネ開発と地域資源のあり方はどうあるべきか
エネルギーの立地問題は、そのまま地域資源の利用の問題でもある。山林、水、風、景観といった自然条件は、地域社会が長い時間をかけて守り、利用してきた資源でもあるからだ。
発電事業の利益が地域の外へ流出し、環境負荷だけが地域に残るのであれば、それは持続可能な地域経済とは言えない。再生可能エネルギーへの転換においてこそ、地域資源の利用と地域経済の循環をどのように両立させるのかが問われている。決して原子力発電誘致のような、地域分断を起こしてはならない。
国見山で起きている議論は、風力発電そのものの是非だけを問うものではない。再エネ時代において、地域の自然や資源を誰がどのように利用し、その利益をどのように地域社会の中で循環させていくのかという問いでもある。ウインドファームとの共生とは、単に風車を建てるかどうかではなく、再エネ時代における地域資源の扱い方を問い直すことなのかもしれない。
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