気候危機の中で平穏に生きる権利を問う

コラム
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気候正義訴訟 第1回口頭弁論

10月9日、東京地方裁判所で気候正義訴訟の第1回口頭弁論が開かれた。全国906人の原告が、国の温室効果ガス削減目標や対策、法整備が不十分なため、平穏に生活する権利が侵害されているとして、国家賠償法に基づき1人1,000円を請求する。裁判後の記者会見と報告会では、原告の経験と、国の責任を問う訴訟の争点が語られた。

気候危機はすでにくらしを変えている

記者会見で、3人の子どもを持つ原告は、地域の夏祭りを猛暑のため8月から9月に移したものの、今度は雨で一部中止になったと話した。子どもが楽しみにしてきた行事が、これまでのようには開けない。暑さで登校やプールの利用にも支障が生じる。気候危機は、日常の活動や地域の営みを変え始めている。
海外で人道支援に携わってきた原告は、気候変動を環境だけでなく、人権の問題として捉えるようになったと語った。貧困や紛争の中にいる人々は、暑さ、洪水、干ばつなどによって、さらに生命と健康を脅かされる。一方、日本での便利な生活を支える大量のエネルギー消費も、その危険に関わっている。排出の恩恵を受けてきた側と、重い被害を負う側との不平等を是正することが、気候正義の課題である。
原告側は、気候変動によって生命・身体・財産を奪われる恐怖を抱かずに生活する「気候享受権」を、平穏生活権に含まれる人権として位置づけている。

国は気候被害への不安を権利侵害と認めない

国は答弁書で、原告のいう平穏生活権・気候享受権は内容や範囲が不明確で、法律上保護される具体的な権利とはいえないと主張する。原告の述べる不安や危惧も、権利侵害には当たらないという。また、気候変動は世界全体の問題であり、日本の計画策定や立法不作為が、直ちに生命・健康・財産への危険を生じさせたとはいえないとしている。
これに対し、弁護団長の島昭宏弁護士は、訴えの核心が捉えられていないと指摘した。原告は、国の政策が個々の災害や熱中症を直接引き起こしたことを、請求の中心に据えているわけではない。すでに被害が起き、今後の危険も科学的に示されているのに、国が十分な対策をとらないため、現在の平穏な生活が侵害されていると訴えているのである。
その不安には、現実の被害と科学的な予測という根拠がある。これを法律で守るべき利益と認めるのか。国は、その利益を守るために、どのような義務を負うのか。国際的な約束が、個々の市民に対して国が負う義務にどう結びつくのかも、国家賠償請求では問われる。
原告側が目指すのは、被害が取り返しのつかない規模に達する前に、国の対策不足を権利侵害として問うことにある。1,000円は精神的損害の一部を請求する額であり、国の政策や立法の違法性について判断を求めることに、訴訟の目的がある。

「法的拘束力はない」という国の答弁で、市民の安全は守れるのか

政策の具体的な水準も争点となる。日本の削減目標は、2013年度比で2035年度に60%、2040年度に73%である。原告側は、基準年をIPCCが採用する2019年にそろえて比較すると、日本の削減目標は、温暖化を1.5℃に抑える世界全体の排出経路に照らして不十分だと指摘する。歴史的に大量の排出を続けてきた先進国として、より大きな削減の分担が必要だとも主張する。
国は、IPCCの数値には幅があり、各国の目標を直接指定するものではなく、日本の目標は1.5℃目標と整合すると反論する。さらに、1.5℃は努力目標であり、対策の内容や法律で定めるかどうかには裁量があるとして、追加の立法をしないことの違法性も否定している。
原告側は、目標だけでなく、それを実現する実効的な排出基準などの立法措置が必要だと訴える。その根拠の一つが、2025年7月の国際司法裁判所の勧告的意見である。各国の削減目標は自由に決められるものではなく、可能な限り高い水準を反映し、全体として1.5℃目標を実現できるものでなければならないとの解釈を示した。
国は勧告的意見自体に法的拘束力はないと指摘する。しかし、その拘束力と、そこで解釈された条約上の義務の有無は、区別して検討する必要がある。
勧告的意見に法的拘束力がないことを指摘しても、科学が示す危険が小さくなるわけではない。国が説明すべきなのは、現在の目標と対策で、市民の生命や健康、将来の生活を守れるという根拠である。法的責任を否定する答弁は、その問いに十分に応えているのか。

次回の口頭弁論は2027年3月4日。原告側は反論を準備し、原告自身が被害を語る機会も設ける方針だ。裁判所の判断はこれからである。

第3次提訴の原告を募集中

気候正義訴訟では、第3次提訴に参加する原告を募集している。2026年11月頃の提訴を目指しており、参加には訴訟委任状・委任約諾書の提出と、参加費1,000円の支払いが必要である。詳しい手続きと提出書類は、公式サイトで確認できる。

▶ 募集案内・原告になるための方法

参照資料


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