海は誰のものか❸ 海はなぜ市場に組み込まれたのか― 漁業法と再エネ政策の本質 ―

コラム
この記事は約4分で読めます。
前回、沿岸では「コモン(共有資源)」であった海が、市場へと組み替えられつつある構造を示した。
では、この変化はどのようにして起きたのか。
それは自然に進んだものではない。
制度によって設計され、進められてきた。

制度が変えたもの

現在の沿岸をめぐる変化は、主に二つの制度によって進められている。
一つは、2018年に改正された漁業法。
もう一つは、同年に成立した再エネ海域利用法である。
この二つは、それぞれ異なる側面から、海のあり方を変えている。
漁業法は、これまでの漁業のやり方そのものを変えた。
一方、再エネ海域利用法は、海域そのものの使い方を変えた。
つまり、内側と外側の両面から、海は再編されている。

漁業法が漁業を産業化させた

従来の漁業は、地域の漁業者を中心とした共同管理によって支えられてきた。
そこでは、長年の慣行や地域のルールが重視され、「誰がどのように海を使うか」は、地域の中で調整されてきた。
しかし改正後の制度では、その前提が変わった。
新たに導入された考え方は、「水域を最も効率的に利用できる者に使わせる」というもの。
この変更は、漁業の評価基準を決定的に転換した。
地域との関係や継続性ではなく、効率性と生産性が重視されるようになった。
さらに、法人による参入も制度上可能となり、必ずしも地域に根ざした主体でなくとも、漁業に関与できる道が開かれた。
これらの変更が意味するのは、海が「地域の営みの場」から、「利用可能な資源」へと再定義されたということである。

再エネ海域利用法が変えたもの

もう一つの転換は、海域そのものの扱い方にある。
再エネ海域利用法では、国が海域を指定し、公募によって事業者を選定するしくみが導入された。
選ばれた事業者は、最大で30年にわたり、その海域を占用することができる。
ここで起きているのは、海の「区画化」である。
これまで連続した空間として利用されてきた海が、制度によって区切られ、長期的に特定主体に割り当てられる。
意思決定のあり方も変わった。
地域の合意や調整は必要でなく、制度に基づく手続きによって利用が決定される。
つまり、海は「地域で共有される場」から、「政策的に配分される空間」へと変わっている。

二つの制度が重なるとき

この二つの制度を重ねてみると、変化の構造と思惑が見えてくる。
漁業法は、海を利用する主体を拡張し、効率性を基準とするしくみを導入した。
再エネ海域利用法は、その海を区切り、長期的に占用するしくみをつくった。
その結果、海は内側と外側の両面から、市場に組み込まれた。
これは単なる制度改正ではない。
共有資源のあり方そのものが、書き換えられているのである。

私たちは何を前提にしているのか

しかし、ここで立ち止まって考える必要がある。
私たちは、食料を「買うもの」として当たり前に受け入れている。
スーパーに行けば並んでいる。値段を見て選ぶ。
それが、あまりにも自然な行為になっている。
だが、その前提はほんとうに自明なのだろうか。
食料は、本来「市場で調達する商品」なのか。
それとも、社会として確保すべき基盤なのか。
私たちは、知らないうちに「買えること」を前提にしたしくみの中で生活している。

いま起きていること

それらを「産業」として扱い、市場競争の中に置くことで、担い手は減少し続けている。
漁業の現場では、すでに外国人労働者なしには成り立たない地域も少なくない。
さらに、大規模資本の参入によって、生業としての漁業は成り立ちにくくなり、地域に根ざした担い手は退出していく。
それはただ「疲弊」しているだけではない。
担い手がいなくなる、ということだ。
担い手が消えれば、地域もまた維持できない。
そして一度失われた担い手は、簡単には戻らない。

問われているのは何か

ここで問われるべきは、「企業か地域か」という単純な対立ではない。
問題は、制度が何を優先しているのかという点にある。
現在の制度は、効率性と収益性を基準として設計されている。
その結果、漁業や農業といった分野も、市場競争の中に置かれている。
しかし、食料は本来、市場に委ねるべきものなのだろうか。

安全保障としての視点

漁業や農業は、単なる産業ではない。
それは、食料供給を支える基盤であり、社会の持続性に直結する領域である。
にもかかわらず、それらを「産業」として扱い、市場競争の中に置くことで、基盤そのものが弱体化していく。
その先にあるのは、外部に依存した食料供給である。
食料を社会として確保するのであれば、本来必要となるのは価格による支えである。
市場に委ねるだけでは、基盤は維持できない。

いま起きているのは、単なる効率化ではない。
それは、社会共通資本(コモン)であった海が、制度によって市場へと組み替えられていく過程である。
海は「共有されるもの」から、「利用される資産」へと変わりつつある。
では、この転換に対して、地域はどのように関わることができるのか。
次回は、その可能性を考える。
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