「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたら・・・5

レポート防災・減災
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インフラ復旧への甘い期待は捨てるしかない

いまだ暗中模索の防災対策のA-B-C

2024年8月8日、日向灘を震源とする地震を受けて南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発令された。発令した側もされた側も初めての経験で、何をどうすればいいのか。各自治体や民間施設をはじめイベントの開催など、わからないながらそれぞれでの対応が行われていた。各家庭や個人にとっても、何に備えればよいのか、どのような対応・対策が必要なのかを考えた8日間だった。
東日本大震災以降、比較的大きな地震が頻発し、日本列島全体が地震多発期間に入ったような状況が続いている。いつまた南海トラフ地震臨時情報が発令されてもおかしくない状況にある中、国の予測に基づいて、私たちはどのような備えをし、防災(被害をできるだけ抑える方法)としての心構えを行えばよいのかを考えておく方が良いのではないか、とucoでは考えている。
この連載では、第1回では、内閣府が公開している「南海トラフ地震防災対策」をベースに、予測されている「被災地域の社会の状況」と「被災地域以外の社会の状況」を確認し、情報発表時に行っておきたい防災対応を見ていった。
第2回は、家庭での対応を中心に、被害予測から備蓄など地震発生への備えや地震発生後の行動について考えた。
第3回は、「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が予測している近畿地方での家屋の被害想定を再確認し、地震の際に弱者は避難ができるのかを考えた。
第4回では、市街地や沿岸地域など、地域特性によって変わる被害想定を確認し、生活者や避難者の想定される被害、そして飲料水や食料、燃料などの支援の可否、最低必要な備蓄量などについて考えた。

ハザードマップで確認する大阪市の震災・浸水被害予測

今回は前回に引き続き「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」の報告書を読み解きながらライフラインについて見ていこう。

南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ(令和5年~)

まず、大阪市は、南海トラフ地震での津波被害をどのように予測しているだろうか。大阪市が公開している「マップナビおおさか」では、地震による震度や、地震や高波、各河川の氾濫によってどの地域がどの程度浸水被害を受けるかという、予測情報が確認できるようになっている。

地図情報サイト「マップナビおおさか」

大阪市のほぼ全域が震度6弱の被害を受ける

南海トラフ巨大地震
震度分布予想図凡例
震度分布予想図凡例
南海トラフ巨大地震 震度分布予想図
まず震度を見てみると、大阪市のほぼ全域が震度6弱となっている。気象庁の情報によれば、
震度6弱の場合
  • 人の体感・行動「立っていることが困難になる。」
  • 屋内の状況「固定していない家具の大半が移動し、倒れるものもある。ドアが開かなくなることがある。」
  • 屋外の状況「壁のタイルや窓ガラスが破損、落下することがある。」
震度6強の場合
  • 人の体感・行動「立っていることができず、はわないと動くことができない。揺れにほんろうされ、動くこともできず、飛ばされることもある。」
  • 屋内の状況「固定していない家具のほとんどが移動し、倒れるものが多くなる。」
  • 屋外の状況「壁のタイルや窓ガラスが破損、落下する建物が多くなる。補強されていないブロック塀のほとんどが崩れる。」
気象庁
気象庁震度階級関連解説表

大阪市内の7割から8割が最も激しく液状化

南海トラフ巨大地震による液状化予想図凡例
南海トラフ巨大地震による液状化予想図凡例
南海トラフ巨大地震による液状化予想図
南海トラフ巨大地震による液状化予想図凡例
液状化予測では、大阪市内の7割から8割が最も激しく液状化すると考えられている。上町台地の南部あたりのわずかな部分だけが液状化を免れる。この予測から市内全域で次のようなな被害が考えられる。

噴砂と道路陥没
地下水が砂とともに地上へ吹き上がり、道路や建物敷地が泥水に覆われる。道路に亀裂や段差、陥没が発生し、緊急車両の通行や避難が困難になる。

住宅・ビルの傾斜
地盤が緩くなり、住宅や建物が傾く(不同沈下)。特に地盤改良されていない古い建物で被害が大きくなる。

埋設管の破損
下水道管やガス管が破損し、トイレが使えなくなり、都市ガスが長期間停止する。

マンホールの浮き上がり
地盤沈下に伴い、道路に埋め込まれたマンホールが数百センチメートル浮き上がる。

港湾機能の停止
港湾施設では埠頭の沈下や亀裂が発生し、物流がストップする。

御堂筋から西半分が0.5~3.0m浸水

津波が発生した場合、1時間50分後に大阪市の沿岸部に到達すると予測されている。マップを見ると、北部は地下鉄御堂筋線の西側、中部は御堂筋から西側、南部は国道26号線から西側の地域という広範囲にわたって、0.5~3.0m浸水すると予測されている。また、津波が到達するまでに、防潮堤の沈下等により浸水する区域がある、ともされている。

これらを総合的に考えると、地震の揺れによって建物の倒壊と、液状化による建物の沈下が進み二次的に倒壊する建物が発生。その後、津波による浸水で倒壊、半壊の建物が押し流される被害も発生することが予想される。大阪市内の西半分でそうした被害が多く発生するとなれば、当初から沿岸部から東側への避難者が大量に発生することになるのではないか。大阪市西部にある避難所のうちのいくばくかは、避難所としての使用が困難になることも予想される。

ライフラインは何がいつ復旧するか

前回、通信や燃料といった、現代において重要なインフラを下支えする機能について被害予測を確認した。その時「燃料」の調達ができなくなり電力や通信が停止する事態となることが予想されていた。
ではまず電力供給はいつ、どの程度の復旧が見込まれるだろうか。

電力

地震直後の状況
  • 震度6弱以上のエリア又は津波による浸水深数十cm以上となる火力発電所がおおむね運転を停止する。特に津波による浸水被害が生じた発電所では、各種設備の復旧に時間を要し、稼働再開まで数か月以上要する場合もある。
  • 発電用用水(工業用水、上水等)の被害や、港湾等の被害に伴う燃料不足による稼働低下も生じる。
  • 西日本(60Hz)全体の供給力は、一般送配電事業者間で広域的に電力を融通したとしても、平時の電力需要の約5割しか確保できない。
  • 需要側の被災と発電設備の被災により需給バランスが不安定になることから、広域的に停電が発生する。近畿三府県(和歌山、大阪、兵庫)で約9割、の需要家が停電する。
  • 停電全体のうちほとんどが需給バランス等に起因した停電であり、電柱(電線)被害に起因した停電は停電全体の1割以下である。
1日後の状況
  • 変電所の設備被害等に起因した停電は、系統切替等により順次解消される。
  • 電柱(電線)被害等の復旧は限定的である。
  • 近畿三府県で約6~7割、の需要家が配電支障により電力の供給が不可能な状態のままである。
3日後の状況発生
  • 停止した火力発電所の運転再開は限定的である。
  • 需給バランス等に起因した停電は、一般送配電事業者間の電力融通により一部が解消されるが近畿三府県で約6割の需要家が配電支障により電力の供給が不可能な状態のままである。
1週間後の状況
  • 停止した火力発電所の運転再開は限定的である。
  • ・ 電柱(電線)被害等の復旧も進み、四国を除く地域の約9割以上で配電支障の解消が進み電力が供給可能な状態となる。(解消されない地域には、津波で大きな被災を受けた地域も含まれる)
※東日本大震災では、90~95%程度の復旧までに1週間程度を要した。南海トラフ巨大地震では被害量が更に大きくなるため、約9割とした。とある。実質的に1週間は電力供給が平常化することが難しいのではないか。
そのため、上水道や下水道などへの影響も大きくなる。
更に厳しい被害様相
人的・物的資源の不足
  • 通電火災を防止するために行う各戸の屋内配線の訪問診断に時間を要し、各戸の停電の解消が遅れる。
  • 電気事業者自身の被災や通信手段の途絶により、各電気事業者が管内の被害の全体像を把握するのに日数を要し、復旧作業の着手が遅れる。
  • 全国的な物資不足や被害が広範になることで、工事資機材や人員が到着できないことにより、被災状況の確認や復旧作業が遅れる。
  • 港湾被害等により輸入が滞ることで火力発電の燃料となるLNGの備蓄が不足し、LNG火力発電所の運転に支障をきたす。。
より厳しいハザードの発生
  • 震度6強等の強い揺れや津波を伴う地震の頻発により、沿岸部の火力発電所等の復旧作業に入れない場合、発電停止や復旧が長期化する。
より厳しい環境下での被害発生
  • 発電用燃料、消耗品、資機材等の調達先企業の操業停止が長期化する場合や、これらの物品の輸送経路(陸路、航路)の障害が長期化する場合、発電停止や復旧が長期化する。
被害拡大をもたらすその他の事象の発生
  • 発電用用水(工業用水、上水等)の断水が長期化する場合、発電停止や復旧が長期化する。
  • 火力発電や風力発電、火力発電等の設備が被災し、それらに単品受注生産のような希少部品が含まれていて、部品調達に数か月を要する場合、発電停止や復旧が長期化する。
報告書には、生活者や避難者の被害もくわしく想定されている。
広域的な大規模停電(ブラックアウト)の発生
  • 発災後、一部の発電所の被災による電力供給量の低下と停電しなかった地域において、照明や情報収集のためのテレビ等の使用によって電力需要が増加する中で、さらに発電設備が停止することによって需給バランスが崩れ、周波数低下リレーによる負荷遮断を行った場合であっても、更なる急激な周波数の低下を抑えられなかった場合に発電設備が連鎖的に停止し、広域的な大規模停電(ブラックアウト)が発生する。

上水道

飲料水や食料などへのアクセスはできるだろうか
地震直後の状況
  • 管路、浄水場等の被災や運転停止により、揺れの強いエリア及び津波浸水エリアを中心に断水が発生する。
  • 耐震化未実施の導水管・送水管、浄水場等を中心に甚大な被害が生じる。
  • 近畿三府県(和歌山、大阪、兵庫)で約4~6割の需要家が断水する。
  • 津波により浸水した浄水場では、運転を停止する。
  • 被災していない浄水場でも、停電の影響を受け、非常用発電機の燃料が無くなった段階で運転停止となる。
  • 避難所等では、備蓄により飲用水は確保されるが、給水車による給水は限定的である。
1日後の状況
  • 停電エリアで非常用発電機の燃料切れとなる浄水場が発生し、東海や四国では断水する需要家が増加する。
  • 管路被害等の復旧は限定的である。
  • 被災した浄水場の復旧はなされない。
3日後の状況
  • 管路の復旧は、ほとんど進展しない。
  • 近畿三府県で約6~7割の需要家が断水したままである。
  • 停電により運転を停止していた浄水場は、非常用発電機の燃料を確保し、運転を再開する。
1週間後の状況
  • 管路の復旧が進み、断水が解消されていく。
  • 近畿三府県で約1~2割の需要家が断水したままである。
  • 地域によって、地元の施工業者に依頼が殺到し、宅地の給水管の復旧が遅れる。
更に厳しい被害様相
人的・物的資源の不足
  • 水道事業者自身の被災や停電、通信手段の途絶により、各水道事業者が管内の被害の全体像を把握するのに日数を要し、復旧作業の着手が遅れる。
  • 停電が長期化し非常用発電機の燃料が確保できない場合には、浄水場の運転等に支障が生じ、断水が長期化する。
  • 職員自身が多数被災するとともに、管路の資材や他地域からの応援要員が不足するほか、燃料不足、運搬車両不足、工事車両不足により、復旧が進まない。
  • 全国的な物資不足や被害が広範になることで、工事資機材や人員が到着できないことにより、被災状況の確認や復旧作業が遅れる。
より厳しいハザードの発生
  • 震度6強等の強い揺れや津波を伴う地震の頻発により、沿岸部の浄水場等の復旧が遅れる。
被害拡大をもたらすその他の事象の発生
  • 管路が耐震化されている場合でも、地すべり等により管路が破断する。
  • 津波により浸水した浄水場の復旧が遅れる。→ より多くの地域で数か月以上、断水が継続する。
  • 水質測定設備や圧送ポンプ等が被災し、それらに単品受注生産のような希少部品が含まれている場合、部品調達に数か月を要し、断水が長期化する。

下水道

地震直後の状況
  • 管路、ポンプ場、処理場の被災や運転停止により、揺れの強いエリア及び津波浸水エリアを中心に処理が困難となる。
  • 近畿三府県(和歌山、大阪、兵庫)で約9割の需要家で処理が困難となる。
  • 被災していない処理場でも、停電の影響を受け、非常用発電機の燃料が無くなった段階で運転停止となる。
  • 避難所等で、災害用トイレ等の確保が必要となる。
1日後の状況
  • 管路被害等の復旧は限定的である。
  • 被災した処理場の復旧はなされない。
3日後の状況
  • 管路の復旧は、ほとんど進展しない。
  • 近畿三府県で最大約6~7割の需要家で利用困難のままである。
  • 停電により運転を停止していた処理場は、非常用発電機の燃料を確保し、運転を再開する。
1週間後の状況
  • 管路の復旧が進み、利用支障が解消されていく。
  • 津波で浸水した処理場の復旧は進まない。
  • 近畿三府県で最大約1割の需要家で利用困難のままである。
  • 地元の施工業者に依頼が殺到し、宅地の排水設備の復旧が遅れる。
  • 一部のエリアで、仮設の貯留池等に汚水等を貯留する応急対策が実施される。
更に厳しい被害様相
人的・物的資源の不足
  • 下水道事業者自身の被災や停電、通信手段の途絶により、各下水道事業者が管内の被害の全体像を把握するのに日数を要し、復旧作業の着手が遅れる。
  • 停電が長期化し非常用発電機の燃料が確保できない場合(燃料を運搬するドラム缶の不足等を含む)には、処理場の運転等に支障が生じ、下水が処理できない状態が長期化する。
  • 職員自身が多数被災するとともに、管路の資材や他地域からの応援要員が不足するほか、燃料不足、運搬車両不足、工事車両不足により、復旧が進まない。
  • 全国的な物資不足や被害が広範になることで、工事資機材や人員が到着できないことにより、被災状況の確認や復旧作業が遅れる。
より厳しいハザードの発生
  • 震度6強等の強い揺れや津波を伴う地震の頻発により、沿岸部の処理場等の復旧が遅れる。
被害拡大をもたらすその他の事象の発生
  • 管路が耐震化されている場合でも、地すべり等により管路が破断する。
  • 津波により浸水した処理場の復旧が遅れる。→ より多くの地域で数か月以上、下水道利用の支障が継続する。
燃料供給の停止で電力も上下水道も停止するることにもなれば、工業用水の供給が滞れば発電自体が停止するなど、インフラ設備と供給機能は、お互いが平常化するまでには多くの困難があることがわかる。シミュレーションはあくまでも順調にいけば、1週間後にはある程度の目途がつき、1か月間程度あればほぼ復旧するであろうと考えられている。
しかし、いずれのインフラでも「更に厳しい被害様相」を予測した場合、復旧作業が遅れることも想定している。特に電力供給でブラックアウトが発生すれば、すべてのインフラに影響を与えるため、復旧の見込みはさらに目途がつきにくくなることだろう。
特に全国的な物資不足や被害が広範になるという状況は十分に考えられる。能登半島沖地震で明らかになったように、道路事情が悪化すれば、たとえ車両や燃料があっても届けることが難しくなる。

私たち需要側として考えられる対策としては、インフラの復旧が最低でも1週間、長引けばそれ以上かかることを想定しながら、準備することが必要だろう。併せて、どのようにすれば少ない備蓄でより長く持たせることができるかという方策も合わせて考えておく必要もあるのではないか。
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