市民参加が「建築的に」失敗する理由

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市民参加ワークショップという言葉は、いまや行政計画や公共建築では当たり前のように使われている。
「みんなで考える」「対話を重ねる」「合意形成を大切にする」。
どれも正しい。理念としては。

しかし、私のように、建築の現場に身を置いてきた立場から見ると、正直に言ってこう思うことがある。
――これは、「建築的に」は失敗しているのではないか。

しかもやっかいなのは、その失敗が誰にも指摘されないまま「成功事例」として報告書に残ってしまう点である。

本稿では、市民参加ワークショップがなぜ「建築的に」失敗しやすいのかを、責めるのではなく、構造として整理してみたい。

「何を決める場なのか」が最初から曖昧である

多くのワークショップでは、最初にこう言われる。
「今日は自由に意見を出してください」

だが、建築において「自由」は最も扱いづらい言葉である。
敷地条件、法規、予算、工期、維持管理。
それらを前提にして初めて、空間は成立する。

ところが市民参加の場では、その前提条件がほとんど共有されない
結果として、
・実現不可能なアイデア
・相互に矛盾する要望
・誰も責任を取らない夢想
が、同じ平面に並べられる。

建築的に見れば、それは「設計以前」の状態である。
その場合は本来、力のあるファシリテーターやコーディネーターが不可欠であるが、建築するということに経験のある方は圧倒的に少ない。

建築を「意見の集合体」だと誤解している

ワークショップでよく起きるのが、付箋の洪水である。
「明るい空間」「開放的」「みんなが集まれる」「安心できる」

それ自体は否定しないし、正しいことだと思う。
だが建築とは、抽象的な願望を、具体的な形に翻訳する行為である。

問題は、その翻訳を誰が担うのかが曖昧なことだ。
「市民の声をそのまま反映しました」という言葉は、一見民主的だが、
設計実務から観ると、建築的には設計責任の放棄に近い。

建築は、足し算ではない。
矛盾を引き受け、取捨選択し、一本の構造にまとめる行為なのだ。

「プロの判断」が後ろめたく扱われる

最近のワークショップでは、ファシリテーターが中心で、建築の専門家が前に出ることを避ける傾向がある。
「誘導してはいけない」
「中立であるべき」
「市民の主体性を尊重する」

だが、建築において判断をしないことは、最大の判断ミスにつながる。

プロが培ってきた知見や経験は、場を支配するためのものではない。
むしろ、市民が現実的な想像をするための「足場」である。

その足場を外したまま議論を進めることは、
結果的に、市民に過剰な負担を背負わせている。

「参加した感」と「空間の質」は別物である

建築雑誌の最大手である日経アーキテクチュアには
かつて「有名建築その後」という企画があった。
建設後、数年立ってその建築がどう使われているのかを検証する記事だ。

ワークショップ後、よく聞く言葉がある。
「参加できてよかった」
「自分たちの意見が反映された気がする」
数年後、その建築がどう使われているかは、あまり語られない。

建築的な失敗は、完成時ではなく、使われなくなった瞬間に顕在化する
にもかかわらず、評価はワークショップの満足度で終わってしまう。

これは、建築を「プロセスイベント」と誤解している状態である。

市民参加が悪いのではなく、設計の覚悟

誤解してほしくない。
市民参加そのものを否定しているわけではない。

問題は、
・何を市民と考え
・何を専門家が引き受け
・どこで線を引くのか
が設計されていないことだ。

市民参加ワークショップもまた、建築と同じく設計されるべき構造物である。

その設計を怠ったとき、
「優しそうな場」は、
「誰も責任を取らない空間」を量産する。

最後に誰かが決めなければならない「建築」

建築は民主主義そのものではない。
だが、民主主義と対立するものでもない。

多様な声を受け止めたうえで、
最後に一本の線を引く覚悟がなければ、
建築はただの意見集約装置になってしまう。

意見を醸成するためのワークショップと
それを引き受けたうえで何十年もの時間軸と対峙する建築とは
考えねばならない要因の量も深さもかなり異なる。

市民参加ワークショップへの参加者が充実した時間を送っているのに、
その一方で「建築的」に失敗するとき、
そこには必ず「決めない・決められない設計者」がいる。

そのことを、市民だけではなく、もちろん行政を通じて、
私たち建築設計の専門家の側も引き受け直す必要がある。

進化する自治を考えた時、
市民ー行政ー建築設計者の関係性の再構築は、
非常に重要な課題であることは間違いない。

<山口 達也>

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