都市核という理念なき再開発

枚方市駅前再開発をめぐる議論を聞いていると、
ある共通した違和感に行き当たる。
タワーマンションの是非。
市有地売却の是非。
条例手続きの是非。
論点は多い。だが、どうにも噛み合わない。
その理由は単純である。
「この都市の中心はどこか」という問いが、最初から置かれていないからだ。
再開発とは、本来「中心をつくり直す行為」である。
中心が定義されていない都市で再開発を行えば、計画は必ず漂流する。
いま枚方で起きているのは、まさにその状態である。
老朽化は明らかだが、更新の物語が存在しない
枚方市役所の老朽化は、もはや誰の目にも明らかである。

- 建物の耐震性
- 設備の更新限界
- バリアフリー対応
- 動線の非効率性
これらは、部分改修で解決できる段階をすでに越えている。
市民会館は駅北西部に新築されたが、元の旧市民会館もまた、
「かつての都市文化の象徴」としての役割を終え、
その後の扱いが宙に浮いたままになっている。

重要なのは、
老朽化そのものが問題なのではないという点だ。
問題は、
老朽化した公共施設を
「どんな都市像に向けて更新するのか」
という物語が存在しないことである。
点で語られ、面で構想されてこなかった公共施設
市役所、旧市民会館、駅前広場、公共空間。
これらは本来、一体の都市核(シビックコア)として設計されるべき存在である。
ところが枚方では、
それぞれが個別案件として扱われてきた。
- 市役所は「庁舎の更新問題」
- 市民会館は「文化施設の老朽化問題」
- 駅前は「商業の衰退問題」
それぞれの“正解”を足し算すれば、
都市の中心が自然に立ち上がる、
そんな楽観がどこかにあったのではないか。
しかし、都市は足し算ではできない。
中心とは、意図的につくらなければ生まれないものである。
「中心候補」が多すぎる枚方市
枚方の都市構造を眺めると、
“中心になりそうな場所”はいくつも存在する。
- 枚方市駅前
- 市役所周辺
- 樟葉(大型商業核)
- 長尾(JR沿線拠点)
これは一見、多核都市としての豊かさのように見える。
しかし人口減少時代において、
中心が多い都市は、すべてが中途半端になるリスクを抱える。
どこも完全には捨てられない。
だが、どこにも本気で集約できない。
その結果、
- 公共投資が分散する
- シンボルが育たない
- 市民の「ここが中心だ」という共有認識が生まれない
枚方は、まさにこの状態に陥っている。
都市核を定義しないまま再開発だけが動く危うさ
中心を失っている都市を観察すると共通する特徴がある。
それは、
都市核の定義が曖昧なまま、事業化だけが進んでいることだ。
枚方市駅前の再開発も同じである。
- 駅前を中心にするのか
- 行政機能を中心にするのか
- 商業集積を中心にするのか
- それとも分散型を選ぶのか
この問いに答えないまま、
「とりあえず再開発」という発想で進めれば、
計画は必ず迷走する。
市民が納得しないのも当然だ。
行き先が示されていない船に、
乗るかどうかを問われているのだから。
なぜ「市役所移転論」が何度も浮上するのか
都市核の定義がない都市では、
ある現象が繰り返し起こる。
それが、
「移転すれば解決する」という短絡的な発想である。
市役所を移せば、中心ができるのではないか。
駅前に持っていけば、賑わいが戻るのではないか。
だがこれは、
原因と結果を取り違えている。
中心があるから施設が集まるのであって、
施設を動かせば中心が生まれるわけではない。
枚方で移転論が繰り返されるのは、
都市核をどうつくるかという議論を、
避け続けてきた結果でもある。
老朽公共施設は「都市の意思」を映す鏡
市役所や市民会館の老朽化は、
単なる建築の問題ではない。
それは、
この都市が「何を大切にしてきたか」
「何を更新せずに放置してきたか」
を映し出す鏡である。
- 行政機能をどう位置づけてきたのか
- 市民文化をどこに置いてきたのか
- 駅前を都市の顔として扱ってきたのか
これらの問いに、
枚方はまだ明確な答えを出していない。
だからこそ、
再開発の議論は常に「施設論」に引き戻され、
「都市論」に昇華しない。
いま必要なのは「再開発」ではなく「都市核の宣言」
ここまで整理すると、
枚方が直面している本質的な課題は明確になる。
それは、
どこを都市の中心とするのかを、市として宣言していない
という一点に尽きる。
- ここが枚方の中心である
- ここに公共機能を集約する
- ここを歩いて楽しい場所にする
この意思表示がなければ、
どんな再開発手法も空回りする。
単に市役所を建て替えても、
タワーマンションを建てても、
都市の重心は生まれない。
そして、その概念を市民と共有しない限り、
そもそもの意味を見失ったままの再開発になるのは自明である。
第3回のまとめ
枚方市駅前再開発が迷走する理由は、
タワーマンションでも、市有地売却でもない。
都市核をどう定義するかという問いを、
長年、先送りにしてきたことにある。
老朽化した市役所と旧市民会館は、
「更新しなければならない建物」であると同時に、
都市としての意思決定を迫る存在でもある。
次回、第4回では、
市役所を139号線南側へ移すという計画が、
なぜこれほどコンセンサスを得られていないのか
その構造を丁寧に解きほぐす。
<山口 達也>

