市民×行政のもう一つの未来
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「これはなんとかしてあげなくてはならない」
2023年2月。市会の開会を前に各委員会の委員に大阪市の提案や市民からの陳情書が配布され、市側からの説明が行われていた。民生保健委員会の委員である石川博紀議員(自民党・市民クラブ)は、書面に目を通していた。「訪問入浴サービスの利用回数の増加を求める陳情書」に目が留まった。陳情書の中には、党派色の強いものや、政治活動の一環として出されるものもあると聞く。しかしこの陳情書には、そのような色合いもなく、切実でほんとうに困ってはるわ、というのが伝わってきたという。「これはなんとかしてあげなくてはならない。なんとか採択しなければならない」と純粋に感じたという。
東淀川区選出の石川議員は、このとき1期目の4年目、議員として1年生だ。採択するかどうかは、会派の中で各議員の意見調整のうえ決めることになっている。年長の議員から継続審査でいいのではないかと この陳情書に対する大阪市からの説明要旨は次のとおり。いう意見もある中、石川議員はこの陳情書の採択を強く求めた。陳情書に書いてある内容は、書かれていることそのものであり、困っておられるということが伝わってくる。費用面のことを市に聞いたところ、利用人数と1回当たりの費用を聞いたが、予算規模としても莫大にはならないということだったので、なんとかしてあげられないかと考えた。また、一般の市民の方が陳情書にたどり着くのもむつかしい中、市民さんの切実な声としてこうして陳情を出された。このことはKさんご自身のことではあるけれども、ご自身のみならず、このサービスを受けておられる皆さんが同じ思いをされているだろうなということは明らかなこと。だからこそ自身の中では何とかしなければという思いが強くなったという。

この陳情書に対する大阪市からの説明要旨は次のとおり
「重度障がい者入浴サービスは、国の福祉サービスのメニューの一つとして挙げられており、こうしなければならないという規定はなく、国からもお金が一部出てる中で各自治体が独自に提供内容が決められることになっている。毎月週2回は入れないことがあるけれども、大阪市は他都市に比べて手厚い内容になっている。他都市では回数が少なかったり、料金が高かったりするケースもある、という。予算の面からも、現在手厚いサービスを大阪市だけがこのサービスをより手厚くするということもできない。」は注の通り。
※委員会での大阪市福祉局の答弁
重度障がい者入浴サービス事業につきましては、重度障害者の保健衛生の向上と福祉の増進に寄与することを目的として実施いたしております。利用できる回数は、原則として月8回まで、年間では96回を上限としておりますが、必要に応じて年間上限を超えない範囲で月9回まで利用できることとなっております。
本事業は、国の地域生活支援事業の任意事業であり、自治体の裁量に委ねられている一方で、十分な財政措置がなされておりません。このため、必要な入浴支援を安定的に継続して提供できるよう、国に対し本事業の法定給付化を要望してきたところでございます。入浴は、在宅障害者の日常生活のQOLを維持する上で必要不可欠であり、引き続き事業の継続実施に向け財源の確保に努めてまいります。(2024年2月15日民生保健委員会)
重度障がい者入浴サービス事業の過去3年間の実績でございますが、延べ利用回数は、令和元年度1万7,145回、令和2年度1万7,574回、令和3年度1万6,638回で、実利用者数は、令和元年度274人、令和2年度272人、令和3年度246人、そのうち年間96回利用している人は、令和元年度48人、令和2年度72人、令和3年度59人でございます。
また、他都市の状況でございますが、京都市は月10回、神戸市は週2回、横浜市は週2回ですが、6月から9月の間は週3回、名古屋市は、本市と同じ年間96回までとなっております。以上でございます。(2024年3月7日民生保健委員会)
維新公明の賛同が得られず採択には至りませんでした
2月15日、民生保健委員会が開催され、陳情第8号としてKさんの訪問入浴サービスの陳情書が取り上げられた。石川博紀議員が質問に立ち、入浴サービス事業の利用者数、1回当たりの費用、日数を増加した場合の予算などについて質疑を進めた。
石川議員は委員会で次のように述べている。
「ここでの重度障がい者入浴サービスは、障害者の中でもかなり重い方を対象とする事業と聞いています。僕は、この陳情書を読みまして、毎日ではない、たった2回の入浴は、せめて毎週利用できるようにするべきだと率直に感じました。」
「この陳情書からは、この方をはじめ、利用者皆さんが第5週目に入浴できずに困っているということが切実に伝わってくるものです。ただいまの答弁によりますと、入浴サービスを利用されている方の人数は246人。多く見積もっても300人程度のことで、そして、あらかじめもらった資料によりますと、1回当たりの単価は1万2,500円ということでございます。現状の年間96回を陳情のとおりに105回に増やしたとして、1人当たり年間約11万円増で済むものでありまして、仮に300人としても3,000万円程度の増で済む話とも言えるんです。国からの財源は十分ではないかもしれませんけれども、大阪市の予算規模で見た場合、何とかしてあげられないかなと思うところです。」
この日の委員会では、自民党・市民とつながる・くらしが第一会派の武直樹議員からも利用日数増加の意見表明がされた。
武直樹議員の意見表明
「私のほうからも、陳情第8号について意見表明させていただきます。
どんな制度でもサービスでも完璧なものはありませんから、お一人お一人こういう御相談から事業やサービスの矛盾点や課題点というのは見えてきます。そうした矛盾点や課題点に対して、市民の側に立って修正や改善を求めるのも我々の役目、役割だなと思ってます。
この陳情は、重度障がい者訪問入浴サービスを利用している方から利用回数を増やしてほしいという内容です。とても共感しました。月8回を基本とし、上限数96回とする現行の制度では、1週間に2回入浴できない日がどうしても出てきます。重度障害のある方は、ベッド上で過ごす時間が多い方もおられ、陳情では切々と現状の困り事と入浴の重要性、必要性を訴えられています。私にはその気持ちがとても理解できましたし、何とかしてあげられないものかと心が揺さぶられました。陳情というこの制度まで御自身でたどり着いて、御自身で提出されたことについても敬意を表します。どなたかお知り合いがおられるんですかね。皆さん知らないみたいですよね。だからよくここまでたどり着いて出されたなと思います。
先ほど石川委員の質疑でもありましたけども、昨年度、令和3年度の重度障がい者訪問入浴サービスの利用実績は、利用者は246人で、そのうち59人、24%の方が上限の96回を利用されています。
福祉局としては、先ほどの見解表明のとおり、これまでも限られた財源の中で工夫しながら制度を見直してきて現在の状況になっていることは理解します。今すぐに回数を増やすことは難しいかもしれませんが、当事者の皆さんのお声をいま一度しっかり聞いていただいて、国への要望に加えて他都市の状況なども調査していただき、改善に向けて何ができるのか、しっかり研究もしていただいて、一歩ずつ前に進めていただくことを要望しておきます。よろしくお願います。」
委員会での採択では、維新と公明両党が引き続き審査としたため継続審査となった。さすがに福祉の分野でこの内容に対して不採択とはされなかったが、実現には至らなかった。
この日の深夜、石川議員はsnsで次のような投稿をした。
投稿には当日からもメッセージが書き込まれ、かなり表示もされた。2025年4月時点だが5.2万件表示、229のリポスト、300いいね となっている。
この投稿が少し反響を呼んだ。次回の委員会は年度末にあたるため、継続審議となっている陳情について確認し直す場でもある。いくつかの糸が絡み合ってこの陳情書が再度取り上げられることになる。
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