大阪市空き家問題の断層<2>

空家対策を含む住宅問題進化する自治 vision50
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4つのエリアモデルで考えてみる

大阪市の人口増なのに空き家増という矛盾。
都市のエネルギーが「新築供給」と「都心回廊の表層成長」に偏り、既存の住宅ストックが老朽化したまま放置される構造が定着してしまった。

さらに問題なのは、こうした構造的課題に対し、大阪市が実効性のある政策を打てていないという事実である。計画書は整っている。調査結果も公表されている。しかし、その先の「動かす」行政がない。実動部隊も、エリア別再生ビジョンも、調整機能も欠けている。空き家問題が「都市の老化」として深刻化しているのは、この行政の無策とセットで起きている現象であるといえよう。

今回は、大阪市の空き家問題を4つのエリアモデルを仮想して分類し、個別に掘り下げて論じることを試みる。

① 都心部マンション密集エリア
② 郊外戸建ストックエリア
③ 木造密集旧市街地エリア
④ 潜在活用ストックエリア

都市のどこで、どのような老化が進んでいるのか。その老化は、建築・都市計画・防災の観点からどのようなリスクを孕むのか。なぜ大阪だけが「人口流入 × 空き家増」という矛盾を抱えるのか。そして、どこから手をつければ再生が始まるのか。

今回はその2回目。① 都心部マンション密集エリアを考察してみよう。

都心部マンション密集エリアの“静かな老化”――タワマンの影で進む集合住宅ストックの疲労

大阪市の中で最も人口が増え、最もにぎわいを演出しているのが北区・中央区・西区を中心とする都心部である。梅田から難波までの都心軸にはタワーマンションが林立し、再開発が都市の景色を塗り替え、富裕層やセレブカップルを中心に転入超過を続けている。大阪市の人口増加は、このエリアの勢いに支えられていると言ってよい。

しかしこの都心部こそ、大阪市の空き家問題がもっとも“見えにくい形”で進行している場所である。華やかな街並みの裏側には、築30〜50年の中層マンションや低層集合住宅が大量に残り、静かに老朽化し、管理不全の予兆を広げている。タワーマンションの影に隠れ、都市の内側が疲労していく。この「静かな老化」こそが、都心部マンション密集地域が抱える固有の問題である。

人口増とストック老化が同時進行する「二重都市」

都心部は、人口統計上は大阪市の中で最も健全に見える。中央区の人口は過去10年以上増加し続け、北区や西区でも同様であり、都市としてのにぎわいを生む層が集中的に居住する。一見すると、空き家とは無縁のように思える。

だが、細かなストック構成を見ると、まったく異なる現実が露わになる。中央区だけで空き家数は17,170戸、空き家率は18.4%に達する。タワーマンションが増えているにもかかわらず、空き家は確実に積み増されているのである。これは、人口流入が“新築ストックに偏って”吸収され、既存の古い集合住宅が取り残され続けているためである。

都心部には、昭和期に建設された低層・中層の集合住宅が大量に残っている。これらは買い手がつきにくく、修繕積立金も不足し、管理組合の高齢化も進む。都市の表層に生まれるタワーマンションの輝きとは対照的に、内部の集合住宅はゆっくりと、しかし確実に老朽化し、空き家予備軍を増やしている。

築古マンションの「管理不全予備軍」問題

大阪市の集合住宅は、全国的に見ても老朽化が進んでいる。築30年を超える分譲マンションが急増し、50年を超えるストックも珍しくない。特に中央区・西区・天王寺区などの旧市街地では、1970年代〜80年代に建設されたマンション群が街区単位で残る。

これらのマンションの多くは、以下のような課題を抱えている。

  • 修繕積立金が不足し、大規模修繕ができない
  • 管理組合が高齢化し、役員が確保できない
  • 区分所有者の不在・相続問題
  • 賃貸化率の上昇により意思決定が困難
  • 建替えはほぼ不可能(合意形成90%以上)

このようなマンションは、空き家こそ少なくても「管理不全予備軍」として都市に積み残されている。これは、戸建の空き家問題とは全く異なる種類の都市リスクである。外観は使われているように見えても、内部では機能不全が進行し、やがて“居住不能マンション”になる危険性すらある。

タワーマンションの陰で進む「二極化」

大阪市ではタワーマンションが都市の新陳代謝の象徴として扱われ、メディアや広告でも華やかに取り上げられる。しかし、タワマンの増加は、実は都市のストック格差を拡大させている面がある。富裕層等が新築タワーに吸収される一方で、築古マンションの住民は高齢化し、建物の維持管理が困難になる。

人口増加が“古い住宅の再生”につながらず、“新築の偏重”として現れる限り、都市は二層化し、内部ストックは老朽化の速度を上げていく。この二極化を大阪市は都市政策として認識しておらず、タワマン偏重の都市像が逆に空き家問題の温床をつくっている形になっている。

行政の無策――マンション政策の欠落

大阪市には「マンション管理計画認定制度」があるが、実効性はきわめて薄い。制度はあるが、管理組合を支援したり、地区単位でストックを再生したりする取り組みは進んでいない。管理不全マンションへの早期介入制度も整っておらず、危険建物となるまで放置されるケースが出つつある。

また、東京都や横浜市にあるような「マンション再生アドバイザー制度」「団地再生支援」「地区再生ビジョン」は大阪市ではほぼ皆無であり、集合住宅ストックを都市政策の中核として扱う姿勢が見られない。

つまり、大阪市の都心部は
“外から見れば活気があるように見えるが、内側ではストックが崩れていく都市”
という危険な状態にある。

私自身、建築設計の仕事に携わっているが、設計者の視点で都心部を眺めれば、行政的に見放されたようなマンションや集合住宅が散見されるようになってきた。

  • 共用部の設備更新が限界に近づいているマンション
  • 玄関扉やサッシが建設当時のままで気密性が落ちている住戸
  • 管理組合の総会が成立していない物件
  • 長期修繕計画が5年以上更新されていない建物

などである。表面上は“住めている”が、内部では都市ストックとしての寿命が尽きつつある。これが都心部で静かに進む老化現象である。

次回は、郊外戸建ストックという空き家”

都心部マンションの老化は都市の表層的な問題であり、まだ見えやすい。
しかし、大阪市の空き家問題の本丸は、むしろ郊外戸建ストックや木造密集市街地にある。そこには、所有者不明、相続放棄、解体困難といった“動かない空き家”が積み上がり、都市の深部を蝕んでいる。

次回は、
「なぜ大阪の戸建は“売れない・貸せない・壊せない”のか」
という、人口流入都市で起きてはならない構造的停滞について、
② 郊外戸建ストックエリアを事例にして掘り下げる。

<山口 達也>

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