大阪市空き家問題の断層<5-まとめ>

空家対策を含む住宅問題進化する自治 vision50
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都市は“更新力”を失うと衰退する

大阪市の空き家問題は、単に人口減少や高齢化によって生まれる一般的な“余剰住宅”の問題ではない。これまで4回にわたって整理してきたように、空き家の構造は都市の内部状態そのものであり、大阪市における空き家とは「都市の老化」「制度の疲弊」「地域の分断」が絡み合った総合的な都市課題である。

大阪の街を歩けば、外側は活気に満ちている。梅田の超高層群、難波・心斎橋の商業圏、再開発が進む中之島。インバウンドも回復し、表層的には成長している。しかし、その足元で住宅ストックの老朽化が進行し、都市の内部では静かだが確実な“衰退装置”が稼働している。

都市は更新力を失うと衰退する。大阪市の空き家問題は、まさにその更新力が低下した結果、都市のどこでどのような歪みが蓄積しているのかを可視化する鏡である。この最終回では、これまでの4モデル──都心マンションの静かな老化、郊外戸建の停滞、木造密集地の危機、潜在ストックの未活用──を総合し、大阪市に求められる政策の優先順位と都市再生の方向性を示したい。

大阪の空き家問題は単に“場所”ではない

大阪市の空き家は29万戸を超え、空き家率も全国平均を上回る。しかし、この数字そのものよりも重要なのは、空き家が都市のどの層で、どのような条件で発生しているのかである。

  • 都心部では、築古マンションが更新されず、人口増と老朽化が同居する“二重都市”化
  • 郊外戸建は、売れない・貸せない・壊せない状態で時間だけが積み重なり、沈殿
  • 木造密集地は、都市リスクとしての空き家が急増し、消防・防災・自治の限界点
  • 潜在ストック(淀川区・東淀川区など)は、活用されずに眠り続ける都市の余剰資源

これは単なる“場所ごとの問題”ではなく、
都市そのものが「新陳代謝」と「更新の仕組み」を失いつつあることの証左である。

都市が成長するかどうかを決めるのは、人口やGDPではない。
“使われ続ける建物”“住み続けられるストック”が循環するかどうかである。
大阪市は今、その循環が止まりつつある。

大阪市空き家政策は「計画あり実働なし」の構造的欠陥

大阪市は空き家対策計画を策定しているが、現場での実効性は非常に弱い。
理由は明確である。

  • 空き家対策を担う人員が少ない
  • 所有者調査・合意形成など、最も負荷の高い部分に行政が踏み込んでいない
  • 地区単位の面的再生のビジョンが欠落
  • 建築・防災・福祉の縦割りで、空き家が「誰の仕事でもない」状態
  • 結果として、危険度が高いエリアほど手つかずで放置される

大阪市の空き家問題は、制度や予算の不足だけではなく、
「動かす仕組みが存在しない」ことが核心である。

空き家は取り壊せば解決するわけではない。
所有者不明土地に踏み込み、地区ごとにストックを整理し、再配置し、再生の方向性を示す必要がある。しかし、大阪市はこれを都市政策の中心に据えていない。
表層の成長(再開発・タワマン・インバウンド)が優先され、内部の再生が後回しにされ続けてきた結果が、今の構造的疲弊を生んでいる。

4つのモデルで見る“大阪の都市構造の歪み”

本稿で分析してきた4つのエリアモデルは、都市のどこに更新不全が起きているかを示している。

大阪府内の「地震時等に著しく危険な密集市街地」の状況(R7.3月時点)より引用

① 都心マンション密集エリア
人口は増えるが、築古マンションが更新されない。表層の明るさと内部の老化が同居し、管理不全予備軍が膨れ上がる。

② 郊外戸建ストック
個人の裁量では動かせないストックの典型。相続・解体コスト・市場価値の低さが絡み、住宅が沈殿していく。

③ 木造密集旧市街地
都市リスクの最前線。火災、倒壊、所有者不明。都市の“負の臓器”として限界点に達している。

④ 潜在ストック(淀川・東淀川など)
本来活用すべき中間層ストックが眠ったまま。都市の“成長の余白”が生かされていない。

これら4つは個別問題ではなく、都市の更新機能がどの階層で止まっているかを示すレイヤー構造である。

都市としての優先順位は何か

大阪市が空き家問題に取り組む際、優先順位は明確である。

最優先:木造密集地(③)

ここは都市リスクそのものである。面的再生・所有者不明土地の整理・防災動線の確保を最優先すべきである。行政が本気で動かない限り、民間だけでは絶対に解けない。

第二優先:築古マンション群(①)

管理不全マンションへの早期介入制度と、地区単位でのマンション再生スキームが必要である。20〜30年後、ここが都市の最大の問題に転じる。

第三優先:郊外戸建(②)

個別解体では追いつかない可能性が高い。相続支援・解体支援・用途転換を組み合わせた面的整理が必要である。

第四優先:潜在ストック(④)

本来は最もコスト効率よく再生できる層であるため、ここに再生エネルギーを注ぎ込むことが都市全体の生産性向上につながる。

つまり、
危険性の高い領域から動かす一方で、再生効率の高い領域へ投資し、都市の更新の循環を再起動することが必要である。

進化する自治──行政だけでは不可能な領域へ

大阪市の空き家問題がここまで複雑化した理由は、行政・住民・専門家・市場が互いに断絶したまま時間が経過したからである。
都市再生は行政だけでも、住民だけでも、専門家だけでも成り立たない。

必要なのは、
「自治としての再生力を社会に取り戻すこと」
である。

  • 所有者不明問題は専門家と行政のチームが必要
  • 面的再生は住民・建築士・市の協働が必要
  • 相続・解体・用途転換は民間支援が不可欠
  • 地区の未来像は地域コミュニティが描く必要がある

都市を“上から作る”時代は終わった。
これからは“関係性を編み直す”ことで都市が再生される時代である。

あなたが取り組む「進化する自治」は、その解の一つである。
空き家問題は都市の弱さの現れであると同時に、自治が再構成されるきっかけにもなる。
都市の更新力を取り戻すことは、自治の更新でもある。

都市の価値は、未来を諦めない意思である

大阪市の空き家問題は、放置すれば確実に都市の寿命を縮める。しかし逆に言えば、ここに介入することが都市を若返らせる最大の機会でもある。

都市は常に老いる。
しかし、老いを管理し、更新し、次の世代に手渡すことができる都市だけが生き残る。都市の価値は、その未来を諦めない意思で決定づけられる。

その意味で、今の大阪は瀬戸際にある。
外側の成長に惑わされず、内側の老化と向き合うこと。
空き家を「余剰」ではなく「都市の要治療部分」として扱うこと。
行政・住民・専門家が協働し、新しい自治を構築すること。

この「協働」をどう新しい動きにしていくのかが「進化する自治」として問われているのである。

<山口 達也>

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