「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたら・・・8

レポート
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被害様相の横断的整理

中央防災会議防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループが、最大クラスの地震が発生した場合の「被害様相の横断的整理」をまとめたシートがある。これまで7回にわたって解説してきた被害想定をまとめた資料と共に、令和7年3月31日公表されたもの。

内閣府 防災情報のページ 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ

この中には、
・『誰にでも起こり得る』シナリオ
・『旅行者・外国人』のシナリオ
・『企業』のシナリオ
など、対象者や地域などを想定した9つのシーン別の被害の様相、想定が示されている。
今回はこの中から、
・『誰にでも起こり得る』シナリオ
・『被災自治体と応援自治体』のシナリオ
・大都市の中心市街地の様相
・海抜ゼロメートル地帯の様相
の4つのシーン別に、初動段階(発災から72時間まで)の想定に照準を当てて、地震によって発生する情勢・様相についてみていこう。

この資料では、今回紹介する以外の5つのシーンに加え、初動段階、応急段階(発災後1週間まで)、緊急復旧段階(発災から1か月間まで)、本格復旧段階(発災1か月以降)と、4つのタイムライン別にその想定が記されている。紹介以外のシーンのことや初動段階移行の想定について知りたい方は、ぜひ、内閣府 防災情報のページをご覧いただきたい。

南海トラフ地震が発生したとき、どこの地域でも起こり得る私たちの身の周りで起こることー災害時『誰にでも起こり得る』シナリオ

初動段階(発災から72時間まで)

被災者をとりまく様相
  • 揺れ、液状化、津波、市街地火災等によって多数の建物被害が発生する。
  • 建物被害や津波浸水に伴って、多数の死傷者・要救助者が発生するとともに、自宅外への避難者も多数発生する。
  • 発災後当面の間は多くのライフライン・交通インフラが被害を受けることで、避難者や帰宅困難者の発生、医療機能への支障、物資不足、企業の事業継続困難等、幅広い影響が生じる。
ライフライン
電力
  • 広域で停電が発生する。
  • 空調設備やエレベーターが停止し、ビル等の使用が困難となる。
  • スマートフォンや電子機器の充電ができない状況に陥る。
情報通信
  • 音声電話やパケット通信ができなくなり、安否確認が困難となる。
  • 通信回線が輻輳し、被災情報等の入手も困難となる。
  • 電子決済機能に影響が生じる。
上水道
  • 管路被害や浄水場被害により断水し、風呂やトイレが使用できなくなる
  • 給水車が派遣されるものの、給水可能な範囲は限定的となる。
下水道
  • 管路被害や処理場被害により、トイレが流せない状況が発生する。
ガス
  • 都市ガスは振動に応じて自動的に供給が停止される。
交通インフラ
道路
  • 道路設備の損傷、液状化、土砂災害等で通行止めが発生する。
  • 停電により信号が停止する。
  • 建物倒壊による道路閉塞や大渋滞が発生し、消防・救命活動に支障をきたす。
鉄道
  • 新幹線・在来線共に広域にわたり運転を見合わせ、大量の帰宅困難者が発生する。
港湾・空港
  • 揺れにより岸壁に被害が発生し、津波により設備や航路に被害が発生することで機能を停止する。
  • 揺れ被害確認のため、空港が閉鎖される。

燃料不足がすべてのインフラ復旧のカギとなる

「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたら・・・5」でも紹介したが、電力供給は1償還は停止する可能性が高い。また、燃料供給が停止されることがあれば、上下水道や通信インフラについても復旧は見込めない。初動段階の状況が継続し、1週間後には様ざまなことがより悪化することも見込まれる。
交通においても、電力や燃料等の手当てができなければ、停止や停滞期間は長くなることが想定されている。

南海トラフ地震が発生したとき、地方公共団体をとりまく様相ー『被災自治体と応援自治体』のシナリオ

発災後、地域自治会と自治体は相互連携・連絡を取り合い、被害状況や火災の有無、被災者やけが人の発生をはじめ、お互いの状況と応急などの対応について共有することとなっている。
そのため、自治体がどのような状況となるかもある程度理解する必要がある。近年は、行政が動ける範囲や対応できる内容は限られ、「共助」を前提とする対策が求められている。では、どのような状況が想定されているだろうか。

初動段階(発災から72時間まで)

自治体をとりまく様相
  • 浸水や倒壊等が発生し、庁舎が使用困難になる。
  • 事前の対策が取られていない場合、自身が死傷したり、自宅が被害を受ける等により、勤務が困難な職員が多数発生する。
  • 指揮命令権者や職員の被災により、災害応急対策が混乱する。
  • 停電と通信の途絶により、被害状況が把握できないほか、住民への情報伝達手段も限定される
  • 停電と通信の途絶により、消防団等の初動対応が十分にはなされない。
  • 道路啓開に1日~数日を要することから、他地域からの救援活動のための自動車乗り入れが限られる
  • 道路啓開が進まない間は、域外からの救援活動は限定的になる。消火活動に限界が生じ、延焼が拡大する。
  • 住民や関係機関からの問い合わせが殺到する。
ライフライン
電力
  • 停電により、住民への情報伝達は、非常用電源による防災行政無線、緊急速報メールや広報車等に限られる。
  • 停電により、消防団等の初動対応が十分にはなされない
  • 停電により、被害状況が把握できない
  • 応援自治体では、停電により、被災状況の把握に時間がかかり、府県と市町村との間の支援の調整に時間がかかる
情報通信
  • 通信の途絶により、消防団等の初動対応が十分にはなされない
  • 通信の途絶により、被害状況が把握できず、各種判断が困難となり、初動対応が遅滞する
  • 応援自治体では、通信の途絶により、被災状況の把握に時間がかかり、府県と市町村との間の支援の調整に時間がかかる
上水道
  • 管路、浄水場等の被災や運転停止により、揺れの強いエリア及び津波浸水エリアを中心に断水が発生する。
  • 津波により浸水した浄水場では、運転を停止する。
  • 被災していない浄水場でも、停電の影響を受け、非常用発電機の燃料が無くなった段階で運転停止となる。
下水道
  • 管路、ポンプ場、処理場の被災や運転停止により、揺れの強いエリア及び津波浸水エリアを中心に処理が困難となる。
  • 被災していない処理場でも、停電の影響を受け、非常用発電機の燃料が無くなった段階で運転停止となる。
  • 避難所等で、災害用トイレ等の確保が必要となる。
ガス
  • 輸送幹線や大口需要家等への供給として使用されている高圧及び中圧に関しては、ガス導管の耐震性が高く被害が発生する可能性が低いことから、基本的に供給継続される。
  • 安全措置のために停止したエリアの安全点検やガス導管等の復旧により供給停止が徐々に解消されていくが、供給停止の解消は限定的である。
交通インフラ
道路
  • 停電や通信の途絶により、被害状況が把握できない
  • 人員数、道路状況により、消火活動が困難となり、更に延焼が広がる恐れがある。
  • 応援自治体は、道路被害が復旧していない場合、被災地への大規模な応援を送ることが難しい
鉄道
  • 新幹線・在来線共に広域にわたり運転を見合わせ、外国人や観光客を含めた大量の帰宅困難者が発生する。
  • 帰宅困難者受入のための一時滞在施設の開設に向けた施設管理者との調整が必要となる。
港湾・空港
  • 揺れにより岸壁に被害が発生し、津波により設備や航路に被害が発生することで機能を停止する。
  • 揺れ被害確認のため、空港が閉鎖される。
外部からの応援に左右される
住民被災者と同様、自治体庁舎においても電力と燃料が断絶することが考えられ、初動はもちろん、1週間程度連絡などが取りにくくなることが考えられる。現在の被災については3日後には他の自治体からの支援が届くという想定がされている。しかしここでも想定されているように「応援自治体は、道路被害が復旧していない場合、被災地への大規模な応援を送ることが難しい。」ため、1週間邸と、どのようにして持ちこたえるかを考える必要があるのではないか。

南海トラフ地震が発生したとき、大都市の中心市街地の様相

今回新たに加えられたのが「地域の特徴に応じた被害様相を整理」だ。
全体で5つの場面が想定されているが、ここでは「大都市の中心市街地」と「海抜ゼロメートル地帯」についてみていこう。

ー大都市の中心市街地(被害様相10・1)
ー海抜ゼロメートル地帯(被害様相10・2)
ー沿岸部の工業地帯(被害様相10・3)
ー中山間地域、半島・離島等(被害様相10・4)
ー被災地内・外の主要産業への影響(被害様相10・5)

初動段階(発災から72時間まで)

地域をとりまく様相
  • 木造家屋が多数倒壊するとともに、非木造建物にも被害が生じたり、大規模な市街地火災も生じたりすることで、人的被害が発生する。
  • 滞留人口が多い建物・地域の被災により、局所的な医療リソース不足となる恐れがある。
  • 大都市圏に立地する施設特有の被害も生じる可能性がある。
  • 多数の帰宅困難者が生じ、道路交通の混乱や受入先不足につながる。他地域からの来訪者や新幹線で移動中の人への対応も必要になる可能性がある。
建物等被害
  • 木造家屋が多数倒壊するほか、非木造建物にも被害が生じ、人的被害が発生する。
  • 屋外転倒物や落下物被害、地下街での人的被害も発生する。特に津波浸水地域では地下街への津波流入も考えうる。
  • 木造密集市街地等を中心に、地震火災が同時多発し、延焼火災を含む大規模な火災となる。
  • 高層建物では長周期地震動による影響を受けるほか、ライフライン設備被害やエレベーターの停止により、継続使用が困難となり、避難所への移動を余儀なくされる。
ライフライン被害
  • 送配電設備や供給側設備の被害に伴い停電が発生する。
  • 停電や回線設備・基地局の被害に伴い、通信支障が発生する。
  • 管路や浄水場・処理場の設備被害に伴い断水や下水道支障が発生する。
  • 発電用用水の被害により発電所の稼働低下も生じる。
交通インフラ被害
  • 各交通インフラが揺れ・津波の被害を受けて機能を停止し、”多数の帰宅困難者“が発生する。
  • 他地域からの来訪者や、新幹線で移動中に被災した人も帰宅困難になり得る。
  • 緊急輸送道路沿いの建物が倒壊した場合、緊急輸送道路で多数の帰宅困難者が帰宅行動を開始した場合、緊急輸送道路の通行に支障が生じて”救命活動等が困難“となる。
避難生活・医療リソース不足
  • 建物等の被害により多数の避難者が発生する。
  • ライフラインやエレベーターの停止に伴い、高層ビルでの居住継続が困難となることで、大量の住民が避難者となる。
  • 繁華街やターミナル駅、大規模集客施設等滞留人口が多い建物・地域が被災すると、局所的に甚大な医療リソース不足(救命・救助の困難、医療搬送の困難等)が発生するおそれがある。
  • 交通インフラ支障により、多数の帰宅困難者が発生する。

南海トラフ地震が発生したとき、海抜ゼロメートル地帯の様相

ハザードマップでは大阪市内のうち、御堂筋をはさんだ西側は、津波が発生した場合0.5mから3mの浸水域と指定されている。住之江区、大正区、港区、此花区、福島区、西淀川区といった大阪湾岸地域、淀川区、北区、西区などの市内中心部でも海抜ゼロメートル地帯が続いている。そうした背景から、この海抜ゼロメートル地帯の様相はぜひ参考としておきたい。

初動段階(発災から72時間まで)

地域をとりまく様相
  • 標高が低く、津波による浸水が広範囲に及ぶ。1度浸水した水が自然には排水されない。
  • 広範囲の浸水による主な影響として、避難距離が長距離に及び、逃げ切れずに多数の人が死傷するほか、多数の避難者が発生する。高層階や避難ビルで生き延びた人の救助にも困難が生じる。
長期間の浸水・湛水長期化
  • 多数の家屋が流失・損壊することで、多数の避難者が発生する。
  • 浸水域外まで距離がある場合、逃げ切れず津波等に巻き込まれる可能性がある。
ライフライン被害
  • 送配電設備や供給側設備の被害に伴い停電が発生する。
  • 停電や回線設備・基地局の被害に伴い、通信支障が発生する。
  • 管路や浄水場・処理場の設備被害に伴い断水や下水道支障が発生する。
  • 特に沿岸部に多く立地する発電所や下水処理場は多数被災することが考えられる。
  • 発電用用水の被害により発電所の稼働低下も生じる。
  • 長期湛水により各施設へのアクセスができず、支障が長期化する。
  • 行方不明者が多数発生している地域において、長期湛水により捜索活動に支障が生じ、復旧作業の開始が遅れる。
交通インフラ被害
  • 各交通インフラが揺れ・津波の被害を受けて機能を停止する。特に沿岸部に立地する港湾施設は多数被災することが考えられる。
  • 道路被害によって車両の通行が行えなくなったり、通行できる道路にも交通渋滞が生じたりする。自動車での避難が困難になる。
避難生活・医療リソース不足
  • 浸水被害により、多数の避難者が発生する一方で、浸水により避難可能な施設が失われるため、避難所や物資が大幅に不足する。
  • 面的な津波浸水によって、応急救助活動のスペース確保が難しくなる

防災・減災は、地域の環境や場面による事前の状況確認を

大阪市内の海抜ゼロメートル地域では、発生する津波の規模によって被害の状態は変わるが、「ライフライン被害」の説明からわかることは、浸水被害が長期にわたって様ざまな場面で支障が起こるということだ。
「1度浸水した水が自然には排水されない。」ことで、下水処理場、発電所などのインフラをはじめ、交通アクセスでも多くの支障が起こる。またその「長期」という期間に注目してみた。
過去の大阪市の洪水や高潮被害の実例で見てみると、1950年に大阪を襲ったジェーン台風では、満潮と高潮が重なったことから、港区内では約40日間水に浸かったという記録がある。一方、西淀川区の野里ポンプ場では、6日程度で解消したとある。現在は当時の被害を教訓に、防潮の水門なども整備され、同様の被害が発生するとは限らないかもしれない。
近畿地方整備局の技術資料には、大阪平野の津波後排水を簡易シミュレーションした内容がある。排水機場が100%使え、資機材も確保できる前提で早い箇所で4日、遅い箇所で10日程度で排水完了となっている。こうした過程がそのまま適用できるわけではないが、少なくとも1週間程度は浸水、淡水は解消しないと考えた方がいい。外部からの支援が遅れていたり、資機材や人員などが不足しするなどよっては、数週間といった「長期」を見込む必要があるかもしれない。

大阪市内といっても、その被害の様相は一様ではない。そのため、住んでいる場所や、勤務先など事業所のある場所といった、その地域地域の性格や環境、避難可能な場所までのルート、被災した場合の復旧までの期間などを理解した上での防災対策、減災対策を考える必要があるだろう。

このシリーズは今回で終了するが、今後も防災・減災など地震被害をテーマとした情報掲載を続けていく予定だ。
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