2040年、大阪の水は誰のものか

コラム
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すぐその先の未来にある水の危機

水ジャーナリストの橋本淳司氏は、昨年『2040 水の未来予測』という小説仕立てにした。将来を見据えた水政策の提言書を出版した。この発刊を受けたインタビューで次のように語っている。

私たちは蛇口をひねれば当たり前に水が出てくる生活を送っています。しかし、その裏側にある水道インフラの現状や、気候変動が水資源に与える影響は、一般の人には実感しにくい。水道管の老朽化や地方でのインフラ維持の困難など、水問題はすでに現実として現れ始めています。

さらに橋本氏は、水問題の本質をこう指摘する。

未来は決まっているわけではなく、私たちがどのような選択をするかによって変わっていく。そのプロセスこそが重要です。

水問題は単なる技術や制度の問題ではない。社会がどのような価値観を持ち、どのような選択をするのかという問題でもある、という指摘である。

この問題意識は、実は国の水政策とも一部で重なっている。国土交通省や旧厚生労働省の水政策資料でも、日本の水道事業は人口減少によって水需要が減少し、料金収入が縮小することで、老朽化する水道管の更新費用を確保することが難しくなると予測されている。例えば2013年の「新水道ビジョン」では、日本の水需要は2060年には現在より約4割減少すると推計されている。

新水道ビジョン(平成25年3月 厚生労働省健康局)

この構造は比較的単純だ。
2040年の水危機の構造
そのため国の政策は、広域化、経営統合、民間活用といった「経営基盤強化」を中心に据えている。近年はウォーターPPPやコンセッション方式といった民間活用の制度も整備され、水道事業の持続性を確保する手段として提示されている。

しかし橋本氏の問題提起は、その一歩先にある。水問題は単なる「水道事業の経営問題」ではなく、地域社会のあり方そのものを問う問題だという視点である。

水は公共財であり、同時に地域資源でもある。森林、農地、地下水、河川などの水循環のなかで地域社会は成り立っている。水道はその循環の一部にすぎない。したがって、水政策を考えるときには水道事業だけでなく、水循環全体の視点が必要になる。

気候変動という要素が水管理をより難しくする

さらに橋本氏が強調するのが、気候変動による水循環の変化である。インタビューでも、雨の降り方の変化や、水源として頼ってきた雪の減少など、すでに気候変動の影響が現れ始めていると指摘している。雪が減れば春の雪解け水も減り、水源の安定性は揺らぐ。集中豪雨が増えれば洪水や水質管理のリスクも高まる。

大阪の水問題を考えるとき、忘れてはならないのが淀川水系である。大阪市の水道は、その約9割を淀川水系から取水している。水源はさらに上流の琵琶湖にあり、琵琶湖の水量は滋賀県北部の降雪や流域の降雨によって支えられており、気候変動の影響を強く受ける地域でもある。

つまり大阪の水問題は、大阪市の水道経営だけで完結する問題ではない。琵琶湖から淀川に至る広い流域の環境と水循環の問題でもある。

では大阪市の水政策は、この流域と気候変動という視点を十分に踏まえているだろうか。
大阪の水はどこから来るのか― 淀川水系という巨大な水循環 ―

大阪市が進める政府主導の水政策は最適解か?

では大阪市の水政策は、この流域と気候変動という視点を十分に踏まえているだろうか。

大阪市はこれまでも、PFIや大規模都市開発など国の政策を比較的早い段階で導入してきた。水政策でも同様に、PPPやコンセッション方式の導入が検討されている。

近年、国土交通省は全国の水道事業の経営状況を可視化する「水道カルテ」を公表している。人口減少によって料金収入が減少し、老朽化した水道管の更新が困難になる自治体が増えることが背景にある。しかし、この構図はすべての都市に当てはまるわけではない。大阪市は全国でも数少ない大規模水道事業体であり、比較的安定した料金収入と技術体制を維持している都市でもある。人口減少による経営危機を前提とした政策が、大阪にそのまま当てはまるのかは改めて検証する必要があるだろう。

ここで懸念されるのは、技術継承の問題である。水道は高度な技術インフラであり、水質管理、管路管理、災害対応など多くの専門技術が必要とされる。もし自治体内部の技術者が減り、民間事業者への依存が進めば、将来的に自治体自身の管理能力が弱体化する可能性もある。

水道事業の経営状況可視化資料(通称:水道カルテ)(国土交通省)

水道事業等の経営状況に関するダッシュボード(デジタル庁)
琵琶湖から唯一流れ出る瀬田川に、下流の淀川の洪水防御のために設置された瀬田の洗堰

「水」をどのように次世代へ引き継ぐのか

橋本氏はインタビューの中で、「規模が大きいことや最新技術が万能というわけではない」とも語っている。地域や状況に応じた管理のあり方が必要になるという指摘である。水問題に対する答えは一つではなく、立場や価値観によって選択は変わるという。

だからこそ問われるのは、次の問いかけである。

水は企業のものなのか。
行政のものなのか。
それとも地域社会のものなのか。

10年後、20年後を見据えたとき、大阪に必要なのはPPPか公営化という単純な二者択一ではない。淀川水系という流域の水循環と、気候変動の影響を踏まえながら、地域の水資源をどのように管理し、どのように次世代へ引き継ぐのかという「水の公共モデル」を市民自身が問い直すことではないだろうか。

橋本淳司が提示した問いは、そのまま大阪にも向けられている。

「2040年、大阪の水は誰のものか。」

その答えを大阪市は市民とともに考える時ではないか。
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