唐突な大阪市「水道管路更新40年前倒し」発表のなぜいま?

コラム
この記事は約6分で読めます。

遅々として進まなかったインフラ行政と国の方針転換

先週金曜日(2026年2月13日)、大阪市は突然「使用可能年数を超過した管路の更新を約40年前倒しします」と発表した。これまで入札不調(1社も応募が無い)や使用可能年数を超過した管路解消まで約70年かける計画など、安全・安心とはかけ離れた事業計画に呆れていたところに、突然の発表である。計画の前倒しは歓迎すべきだと思うが、これまでの経緯を思えば、素直に受け止めきれない違和感が残る。市民からの陳情や指摘に対し、「予算が・・・」「引き受ける事業者が・・・」と説明されてきた経緯を思えば、今回の突然の方針転換には大きな違和感が残る。

なぜこれまで「できなかった」のか いや「しようとしなかった」のか

水道管の老朽化や耐用年数超過施設などについては、かなり以前から言及されてきたし、水道局や建設局などでも認知していた「課題」だ。本来は、長期事業としてはるか以前から組み込んでおかなければならなかったはずだが、そうはなっていなかった。2018年に策定された「大阪市水道経営戦略(2018ー2027)」でも、「管路耐震化促進・緊急10ヵ年計画」を掲げ、鋳鉄管など老朽管の更新・耐震化を課題として計画を進めていたが、財政・人員・施工制約などの条件や制約の中、更新は追いついていなかった。
こうした状況打開のため、更新を「倍速化」する手段として、民間の資金やノウハウを活用し、事業を効率的に進める手法とされる「PFI方式」を導入しようとした。2020年1月に「水道PFI管路更新事業等」の実施方針・議案が提出され、2022年にPFI管路更新事業者募集を行ったが、応募者不調で事業者が集まらなかった。工期の長さ、ひという不確定要素の多さ、収益性の低さなどから、民間事業者にとって「割に合わない事業」だったと考えられている。
なお、大阪市は応募不調の詳細な理由を体系的に公表しておらず、これらは公開資料や事業条件から読み取れる範囲での整理である。

この間、大阪市が財政的に困窮していたわけではない。うめきたや夢洲IRカジノための整備など、数千億円単位の都市開発は続けられていた。カジノ事業者の事業地の土地整備費用として788億円もの予算化も行っている。こうした予算を市民の安全・安心に向けることは、やろうと思えばできたのだ。しかしやらなかった。それをなぜ今になって約2000億円もの予算の上積みをすることになったのか。
事業量と事業費

事業量
基幹管路 約300km
配水支管 約1,480km
計 約1,780km(現行計画から+約260km)

事業費(税抜)
約8,520億円(現行計画から+約2,080億円)

余儀なく縮小実施となった基幹管路耐震化PFI事業

不調を受け大阪市は、対象を「水道基幹管路」に限定。防災上・供給上、特に重要な路線に絞り込み工期・事業期間・役割分担を再整理し、事業規模を大幅に縮小して再募集をかけた。これが、2024年4月から行っている「大阪市水道基幹管路耐震化PFI事業」で、ウォーターパートナー大阪管路株式会社との契約による事業期間約8年間(2024年度~2032年度)の事業である。これは、あくまでも災害時における供給上のボトルネックに絞った “部分最適型の前倒し” であり、しかも国土交通省からの要請によるものである。そのため、「老朽管全体を更新する計画」は放置されたままだった。

転機になった「八潮市の道路陥没事故」と国の動き

2024年度末時点で法定耐用年数超過管路率53%、使用可能年数超過管路率11%にも上る経年感の更新は、「市単独でも進められない」、「PFIでも進まない」という状態が続き、結果的に水道管路更新は先送りされてきた。

流れが変わったのは、2025年1月に発生した埼玉県八潮市の下水道管破損による道路陥没事故だった。この事故を受け、国土交通省は全国の自治体に対し、大口径の下水道管路などを対象とした緊急点検・重点調査を求めた。
また、同年4月には、京都市の国道1号線で漏水事故が発生。同年6月、全国の水道事業者に対し鋳鉄管更新計画の策定が要請され、緊急輸送道路下は5年以内、それ以外の基幹管路は10年以内といった期限が示された。

下図は、大阪市が発表した管路更新の目標設定
目標の目標
ア.計画期間
2026(令和8)~2035(令和17)年度

イ.対象管路
全ての鋳鉄管(約259km)

ウ.概要
⚫特に漏水による社会的影響が大きい 緊急輸送道路下にある鋳鉄管は5年以内に解消
⚫国土交通省の要請内容に加え、本市独自の取組として「配水支管」も対象として、全ての鋳鉄管を10年以内に解消
重要なのは、ここで国の対応が「点検」だけにとどまらなかった点にある。国交省内の検討会や予算資料では、緊急度の高い管路については点検後、更新・再構築まで含めて支援するという方向性が明確に打ち出された。老朽管路の更新そのものに国費を投入する仕組みが整えられたのである。
上の「目標」の表の通り、今回計画されている259kmのうち、全基幹管路48kmとと30kmの排水支管は国土交通省からの要請となっている。大阪市独自のものは排水支管181kmで、しかもこちらは10年以内と比較的長期目標となっている。この181kmこそが、本来大阪市が主体的に判断すべき更新対象であり、国の要請ではなく市の政策判断が問われる部分である。

国の制度変更で初めて言えるようになった「40年前倒し」

これまで、水道管路更新は、「市の単独財源では重すぎる」「PFIでも成立しない」事業だった。しかし、国の鋳鉄管更新要請と補助が前提に組み込まれたことで、一気に更新を加速させることが優先課題となり、財政的にも "可能” になった。今回大阪市がアピールしている「40年前倒し」という表現は、
市の姿勢が突然変わったというより、国の制度変更によって、初めて言えるようになった言葉と見る方が自然だろう。
使用可能年数超過管路の割合: 計画期間末(2053(令和35)年)で0%(解消)
これにより、解消時期を約40年前倒し
<更新ペースの内訳>
(現行ペース)
基幹管路:約 8km/年
配水支管:約45km/年
⇩
(ペースアップ)
基幹管路:約10km/年
配水支管:約53km/年

上下水道耐震化計画ともPFI事業とも異なる「新たな事業」

大阪市はすでに「上下水道耐震化計画(2025~2029)」を策定している。ただし、この計画は、避難所や医療機関といった「急所施設」と位置付けられた施設と接続する管路を優先的に耐震化するもので、老朽管を更新する計画ではない。
今回発表された40年前倒しの「大阪市鋳鉄管更新計画」は、上下水道耐震化計画延長でもなく、先の基幹管路耐震化PFI事業の拡張でもない。全く新たな政策判断である。

問われるべきは補助金がなければ動かない構造

水道管路更新が前倒しされること自体は、評価されてよい。しかし、同時に問われるべきことがある。なぜ、国の方針転換があるまで、市民生活の安全に直結する基幹インフラの更新は後回しにされてきたのか。なぜ、水道のような重要な分野が、補助金やPFI方式に頼らなければ動かない構造になっていたのか。
大阪市は、これまで数多くの事業をPFI方式として行ってきている。学校空調や港湾整備、公園管理などは現在も進行中だ。今回の水道管路更新から浮かぶのは、行政の「財政判断の歪み」だ。鳴り物入りで進められる万博やカジノも絡む都市開発などは、市単独財源も大きく割いて実行。しかし水道管の更新など、アピールする派手さが無いメンテナンスのような事業については、国の補助が付けば実施する。コロナ対策でも国の実施する事業は行ったが、大阪独自の対策としては、ほとんど公金は使われなかった。
水道管更新を一気に進めようとした「大型PFI要請」も、長期的なランニングコストを大幅に削減するという本来の目的だけではなく、財源を調達するための装置として活用しようとしているのではないかという疑問がある。

問題は、前倒しそのものではない。本来、淡々と積み重ねるべき更新を、なぜ「非常事態」や「国の号令」がなければ動かせなかったのか。その意思決定のあり方こそが、問われている。
同じような構造が、教育・防災の分野でも展開されているのではないかと疑われる事業がある。次回は、大阪市立小学校体育館空調設備整備事業について考えたい。
ucoの活動をサポートしてください

    【ucoサポートのお願い】
    ucoは、大阪の地域行政の課題やくらしの情報を発信し共有するコミュニティです。住民参加の行政でなく、住民の自治で地域を担い、住民の意思や意見が反映される「進化した自治」による行政とよって、大阪の現状をより良くしたいと願っています。 ucoは合同会社ですが、広告収入を一切受け取らず、特定の支援団体もありません。サポーターとなってucoの活動を支えてください。いただいたご支援は取材活動、情報発信のために大切に使わせていただきます。 またサポーターとしてucoといっしょに進化する自治を実現しませんか。<ucoをサポートしてくださいのページへ>

    シェアする
    タイトルとURLをコピーしました