ジャガイモの輸入で、日本は畑を失うのか!?

コラム
この記事は約5分で読めます。

米国産の生鮮ジャガイモを、スーパーや飲食店、家庭などで扱えるようにするための協議が進んでいる。

農林水産省は8月28日、米国産の「一般流通用生鮮ばれいしょ」について、病害虫リスク評価の結果案を示し、9月18日にオンライン説明会を開催すると発表した。参加申込期限は9月11日午前10時である。

現時点で輸入解禁が決定したわけではない。農水省の標準的な手続きでは、現在は3段階のうち「病害虫リスク評価」のステージ2にあり、リスク管理措置の協議が必要な病害虫として21種の案が示された。

この後、手続きが進めば、管理措置案の策定や現地調査などを行うステージ3、さらに省令改正案へのパブリックコメントを含む国内手続きへ移る。
解禁が決まってから問題を知るのでは遅い。一般流通が日本の農地と地域産業に何をもたらすのか。いま確認し、議論する必要がある。

閉じ込めてきたものを一般市場へ出す

米国産の生鮮ジャガイモは、すべて輸入禁止になっているわけではない。

2006年から、ポテトチップ加工用に限り、厳しい条件のもとで輸入が認められている。密閉型コンテナで指定工場まで運び、摂氏130度以上の食用油で2分間以上加熱する。加工時に出た異物や残さも、直ちに焼却するか、それと同等の処理をしなければならない。

ジャガイモも、その皮や残さも外部へ漏らさない「閉鎖系」で管理することが輸入の条件なのである。

今回、米国が求めているのは、この用途限定を外し、一般の市場で流通できるようにすることだ。正式な輸入解禁要請は2020年3月に行われた。
これまで閉鎖系で封じ込めてきたものを、家庭、飲食店、小売店などへ広く流通させても、安全を確保できるのかが問われている。

一般流通後の皮や残さは、誰が管理するのか

農水省がリスク管理措置を協議する必要があるとした病害虫の21種には、ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウ、コロラドハムシなどが含まれる。
なかでもシストセンチュウ類は土壌中で長期間生存し、一度ほ場に定着すると根絶がきわめて難しい。発生したほ場では、ジャガイモなどの作付けや、土の付いた植物の移動が制限されることがある。

ジャガイモシロシストセンチュウは、2015年に北海道網走市で国内初の発生が確認された。現在も北海道の一部地域で、2029年3月末まで緊急防除が続けられている。作付禁止、土壌くん蒸、農業機械の洗浄など、長期にわたる負担を地域へ強いている。

一般流通が認められれば、輸入されたジャガイモは家庭や飲食店へ入る。調理時に出た皮や芽、傷んだジャガイモは、通常の生ごみとして捨てられる可能性がある。家庭菜園などへ持ち込まれることも考えられる。

一般流通に移した後、どのような措置によって、現在の閉鎖系と同等のリスク低減を図るのか。
なお、これはジャガイモを食べる人の健康被害を問題にしているのではない。守らなければならないのは、日本の農作物と農地である。

北海道だけの問題ではない

国内のジャガイモ生産は北海道が中心だが、北海道だけの作物ではない。

地域2024年産収穫量全国比
全国229万5,000トン100%
北海道187万トン81.5%
都府県計42万5,000トン18.5%
うち鹿児島県8万1,700トン3.6%
うち長崎県7万3,600トン3.2%
うち茨城県4万9,700トン2.2%

出典:農林水産省「令和6年産野菜生産出荷統計」

鹿児島、長崎、茨城、千葉などにも産地があり、大阪を含む全国各地の農地、市民農園、家庭菜園でも育てられている。ジャガイモは、地域の農業と人々のくらしに密着した作物なのだ。

農林水産統計は販売目的の生産が中心であるため、市民農園や家庭菜園での栽培は、この数字には十分表れない。病害虫の侵入によって影響を受ける農地は、統計上の主産地だけではない。

ジャガイモから始まる産業がある

ジャガイモの周囲には、種いもの生産、農業機械、集荷、選別、貯蔵、運送、食品加工、でん粉製造など、多くの仕事と産業がある。

北海道では、ジャガイモ、小麦、豆類、てん菜などを組み合わせた輪作が行われている。ジャガイモの採算悪化や作付け減少は、輪作体系を崩し、ほかの作物の生産にも影響を及ぼす可能性がある。

一般流通用の輸入品が、でん粉用や加工用の国産ジャガイモと直ちに同じ市場で競合するわけではない。しかし、安価な輸入品が青果市場に入れば、国内産地の価格や販路、作付けを圧迫するおそれがある。
さらに、病害虫が種いもの産地へ侵入すれば、影響は一地域に留まらない。翌年以降の全国の生産、食品加工、流通にも及びかねない。

2024年度のジャガイモの重量ベース自給率は66%で、すでに国内需要の約3分の1を輸入に依存している。海外から買う量を増やしても、国内でつくる力は増えない。むしろ、国内の生産者や作付面積が減れば、地域の産業基盤そのものを弱めることになる。

「安さ」の外側に押し出される費用

輸入ジャガイモが安く販売されれば、消費者の利益になるという説明はあるだろう。
だが、その価格には、検疫、監視、侵入後の調査、土壌消毒、作付禁止、農家への補償、地域産業の衰退といった費用は含まれていない。
また、輸入によって利益を得る者と、病害虫侵入のリスクを負う者は同じではない。事故が起きたとき、負担を引き受けるのは農家と地域、そして公費ではないか。

検疫病害虫が侵入した場合、誰が調査や防除の費用を負担するのか。作付けできなくなった農家への補償はどうするのか。失われた生産や地域産業について、輸入者や政府はどこまで責任を負うのか。
これらを示さないまま、一時的な安さだけを理由に輸入経路を広げるべきではない。

いま議論すべきは、ジャガイモ一個の値段ではない。全国の農地と、そこから続く仕事や地域経済を、これからも維持できるかという問題である。

消費者、生産者を問わず、声を上げよう

農林水産省オンライン説明会

「米国産一般流通用生鮮ばれいしょの検疫協議の進捗状況に関する説明会」

・日時:2026年9月18日(金)13時~14時30分
・開催方法:Microsoft Teamsによるオンライン開催
・参加申込期限:9月11日(金)午前10時
説明会案内・申込先

解禁はまだ決まっていない。だからこそ、農水省がどのようなリスクを認識し、一般流通後の管理や被害発生時の責任をどう考えているのか、多くの人が説明を聞き、手続きが進んだ場合に行われるパブリックコメントなどでも、様ざまな声を届ける必要がある。

輸入解禁に反対するオンライン署名

一般財団法人食料安全保障推進財団は、米国産生ジャガイモの輸入解禁に向けた手続きを止めるよう求めるオンライン署名を実施している。

  • 署名名:「日本のジャガイモを守りたい!#米国産の生ジャガイモの輸入に反対します」
  • 開始日:2026年9月4日
  • 要請先:内閣総理大臣
  • 要請内容:生食用の生ジャガイモの輸入解禁手続きを止めること
  • 署名数:9月7日の確認時点で5万4,271筆。ただし、随時増加しています。
  • Change.orgのオンライン署名
ucoの活動をサポートしてください

    【ucoサポートのお願い】
    ucoは、大阪の地域行政の課題やくらしの情報を発信し共有するコミュニティです。住民参加の行政でなく、住民の自治で地域を担い、住民の意思や意見が反映される「進化した自治」による行政とよって、大阪の現状をより良くしたいと願っています。 ucoは合同会社ですが、広告収入を一切受け取らず、特定の支援団体もありません。サポーターとなってucoの活動を支えてください。いただいたご支援は取材活動、情報発信のために大切に使わせていただきます。 またサポーターとしてucoといっしょに進化する自治を実現しませんか。<ucoをサポートしてくださいのページへ>

    シェアする
    タイトルとURLをコピーしました