なぜ、そこまでして大阪市をなくしたいのか

コラム
この記事は約7分で読めます。

「都構想のメリット・デメリット」だけでは説明不能

正直、ここまで来ると不思議なのである。

現在の「大阪市を廃止して特別区を設置するための住民投票」に至る進め方は尋常ではない。

ざっと並べるだけでも、こうなる。

  • 二度否決されたにもかかわらず、三度目の住民投票へ進む。
  • 都構想への再挑戦を掲げ、知事・市長が任期途中で辞職して出直し選挙を行う。
  • 市議会に慎重論がある中でも、法定協議会を立ち上げる。
  • 法定協議会では十分な制度比較よりも、住民投票までのスケジュールが先に見える。
  • 統一地方選挙と住民投票は同日にしないという話があったにもかかわらず、突然「同日実施」が打ち出される。
  • 本来は別制度である「副首都」と「都構想」を、一続きの話であるかのように語る。
  • 「大阪市を廃止して特別区を設置する」という制度でありながら、「大阪市廃止」という言葉をできるだけ使わない
  • さらに「府市合併」という、制度の実態とはズレのある新しい言葉まで持ち出す。
  • 大阪市そのものはなくなるのに、特別区名の前に「大阪市特別区」のように「大阪市」という名称だけを残す案まで出てくる。
  • そして肝心の制度案は、前回否決された4区案を基本とする焼き直しである。
  • しかも「大阪市を残す案」と比較するのではなく、4区・8区・24区など区割り案同士を比較し、その中から4区を選ぶ。

ここまで並べると、私は一つの疑問に行き着く。

なぜ、そこまでして大阪市をなくしたいのか。

これはもう、「二重行政を解消するため」という説明だけでは理解できない。

だから今回は、賛成・反対の制度比較から少し離れて、この異様なまでの政治的執着そのものについて考えてみたい。

理由① 都構想をやめると「維新とは何だったのか」が問われる

まず考えられるのは、大阪都構想が大阪維新の会にとって単なる政策の一つではないということである。維新は、大阪府と大阪市という二つの巨大な行政主体が存在することを「二重行政」と批判し、その統治機構そのものを変えることを掲げて成長してきた。

つまり都構想は、維新という政党の原点なのである。

ここで都構想を完全に降ろしてしまうと、かなり厄介なことが起きる。なぜなら、2020年の住民投票後も大阪は止まらなかったからである。

万博も進んだ。IRも進んだ。府市一体の都市政策も進んだ。

大阪市を残したままでも、府と市はかなりの部分で一体的に政策を動かしてきた。

これは逆に言えば、

「大阪市を廃止しなければ大阪は前へ進めない」という、かつての説明そのものが虚偽だったことになる、とも言える。

ここに維新のジレンマがあると思われる。大阪市を残したまま府市一体行政が機能していると認めれば、「では、なぜ大阪市をなくす必要があるのか」という問いが生まれる。

そして、その問いは最終的に、「では、都構想を十数年間掲げてきた維新とは何だったのか」という問いにつながってしまう。だから終われない。都構想は既に維新の生存理由になっているのだ。これは一つの仮説だが、現在の強引さを考えるうえで無視できないと考える。

理由② 本当に欲しいのは「効率」ではなく意思決定の一本化ではないか

もう一つ考えたいのが、維新が目指してきた政治の形である。府と市が別々に考えるより、一つの方向へ動いた方が速い。大規模開発も、都市計画も、成長戦略も、意思決定主体が少ない方が進めやすい。経営の世界なら、これは非常に分かりやすい。

しかし自治体は企業ではないのだ。

行政に複数の意思決定主体が存在することは、単なる無駄ではないからである。
大阪府と大阪市が違う判断をする。大阪市議会と府議会が違う議論をする。市民に近い大阪市が府とは違う優先順位を持つ。それは面倒である。時間もかかる。

しかし、その「面倒くささ」は民主主義のコストなのである。

逆に、意思決定を一本化すれば政策は速くなる。その代わり、一度決まった方向を止める力も弱くなる。だから私は、「二重行政」という言葉を聞くたびに少し立ち止まりたくなる。それは本当に無駄な二重行政なのか。それとも、

権力を二重にチェックする仕組みまで「無駄」と呼んでいるのか。

ここは分けて考える必要がある。

理由③ 大阪市が持つ「力」はかなり大きい

そして、もう一つ重要なのが大阪市という自治体の巨大さである。大阪市は単なる24区の集合ではない。政令指定都市として、大きな財源と権限を持つ巨大自治体である。都市計画、道路、福祉、教育、まちづくり。そして何より、大阪という巨大都市について大阪市民が市長と市議会を直接選び、その意思決定に関与できる。都構想で変わるのは、市役所の看板だけではない。

「大阪という都市について、誰がどこまで決めるのか」という権力構造そのものなのである。

ここを「府市合併」と呼んでしまうと、本質が見えにくくなる。大阪府と大阪市が合体して巨大な「大阪都」ができるわけではない。大阪市という政令指定都市をなくし、その区域に複数の特別区を設け、広域行政の一部を大阪府へ移す。だからこそ本来問うべきなのは、

「大阪市役所が必要か」ではない。

大阪市民が現在持っている都市レベルの意思決定権を、本当に大阪府に移すのか。

なのである。

そして最大の理由④。「三度目なら勝てる」

ただ、もっと単純な政治判断もあると思う。今なら勝てる。万博を終えた。維新は大阪では依然として強い。副首都という新しい看板もある。二度目の住民投票から時間も経った。若い有権者も増えた。そして何より、吉村洋文という非常に強い政治的ブランドがある。ならば三度目をやれば勝てるかもしれない。政治家としてそう考えること自体は理解できる。

しかし、ここで私が引っかかる。

住民投票とは、勝つまで繰り返すものなのだろうか。一度目は僅差だった。制度を作り直して二度目を行った。それでも否決された。そして三度目。三度目で賛成多数になれば、「これが最新の民意だ」と言うのだろう。

しかし民主主義は、選挙や住民投票での多数決とともに、示された民意を政治がどう扱うのかまで含めて民主主義なのだ。

疑問①大阪市廃止ではなく府市統合というまやかし

だから最近の動きの中で、私が最も象徴的だと思っているのは区割りではない。私が一番気になるのは

「大阪市廃止」という言葉を使いたがらないことである。

もし大阪市を廃止することが大阪にとって本当に必要なら、堂々と言えばいい。「大阪市を廃止します。その代わり、こういう大阪になります」と説明すればいい。そして市民が判断すればいい。ところが「廃止」という言葉は強すぎるから使わない。「府市合併」と言い換える。副首都という未来像とセットで語る。

ここに私は強い違和感を持つ。政治に必要なのは、制度を魅力的に見せるコピーライティングではない。

何を失い、何を得るのかを正確に示すことなのである。

「大阪市廃止」という言葉を聞いて市民が不安になるのであれば、その不安こそ説明すべき対象ではないか。言葉を変えて不安を小さくすることではない。

疑問②本当に比較すべきは「大阪市を残すこと」

そして今回、私が最もひどいし、理解できないのがここである。

4区案。8区案。24区案。それぞれを比較して4区案を選ぶ。
しかし、本当に比較しなければならないのは、

「大阪市を残す案」ではないのか。

現在の大阪市を残す。府市一体条例を改善する。行政区への権限移譲を進める。区長や地域が自分たちで決められる範囲を増やす。府と市が共同で行うべき事業は共同で行う。そういう選択肢も当然ある。
その案と特別区制度を並べ、財政はどうなる。
住民サービスはどうなる。
意思決定はどうなる。
地域が決められる範囲はどうなる。
災害対応はどうなる。
都市としての成長戦略はどうなる。

そこまで比較して初めて、市民は選べる

ところが今の議論を見ていると、「大阪市を残すか、特別区にするか」ではなく、「特別区にするなら何区がいいか」という議論にすり替えている。
それでは順番が逆である。

大阪市は誰のものなのか

私は都構想という制度そのものを批判したいわけではない。
特別区制度の方が市民にとって良いという合理的な根拠が示されるなら、それを検討すればいい。
しかし、二度否決された制度を三度目にかけるのであれば、推進側には通常以上の説明責任があると思う。

なぜ今なのか。
なぜ大阪市を残す選択肢では駄目なのか。
なぜ副首都になるために必要なのか。
なぜ4区なのか。

そして、大阪市民が現在持っている何が失われ、代わりに何を得るのか。

そこを徹底的に説明する責任が維新にはある。
大阪市は、政治家のプロジェクトではない。
大阪維新の会の宿題でもない。
大阪市役所の所有物でもない。

ここで暮らしている人たちが、自分たちの暮らす都市について決めるための仕組みである。だから私は、都構想の議論を見ながら最近こう思う。問われているのは、大阪市を残すかどうかだけではない。

私たちが持っている「決める力」を、どこまで政治に預けてしまうのか。

その問題なのではないか。
そして、それこそが三度目の住民投票で本当に考えるべきことだと思う。

そしてその本質的な議論を一切しないでカモフラージュし、住民投票まで持ち込もうとしているその姑息さと大阪市民を愚弄する市政のあり方には根本的に不信感と疑義を持っている。

<山口 達也>

 ucoの活動をさぽーとしてください

    【ucoサポートのお願い】
    ucoは、大阪の地域行政の課題やくらしの情報を発信し共有するコミュニティです。住民参加の行政でなく、住民の自治で地域を担い、住民の意思や意見が反映される「進化した自治」による行政とよって、大阪の現状をより良くしたいと願っています。 ucoは合同会社ですが、広告収入を一切受け取らず、特定の支援団体もありません。サポーターとなってucoの活動を支えてください。いただいたご支援は取材活動、情報発信のために大切に使わせていただきます。 またサポーターとしてucoといっしょに進化する自治を実現しませんか。<ucoをサポートしてくださいのページへ>

    シェアする
    タイトルとURLをコピーしました