文化政策は、どのような社会を目指してきたのか

コラム
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私たちは未来へ何を残すのか 第3回 ―社会は文化をどのように位置付けようとしてきたのか―

はじめに

第1回では、文化施設は何によって評価されるべきなのかを考えた。
第2回では、その文化を誰が支えるのかという役割分担を見てきた。
では、その役割分担は、どのような考え方のもとで形づくられてきたのだろうか。
政策は、制度や事業を示すだけではない。そこには、「どのような社会を目指そうとしているのか」という社会像が描かれている。
文化政策もまた例外ではない。
社会は文化を何として位置付け、文化をどのように支える社会を目指そうとしてきたのか。今回は、21世紀以降の文化政策をたどりながら、その社会像を読み解いていきたい。

21世紀の日本社会は、なぜ文化を政策として位置付けたのか

2000年代に入り、日本は文化を改めて政策として位置付けることを選んだ。それは、芸術活動を支援する制度を整えるというだけの話ではなかった。

2002年、文化審議会は『文化を大切にする社会の構築について』をまとめる。その答申が目指していたのは、「文化政策」の構築ではなく、「文化を大切にする社会」の構築であった。
そこでは、文化は人間らしく生きるための基盤であり、人と人とのつながりを育み、社会を支える力として位置付けられている。
さらに、文化は行政だけが担うものではなく、市民や企業を含めた社会全体で支えるべきものとされる一方、その基盤を支える責任は国や地方公共団体が担うことも明確に示されていた。

21世紀の文化政策は、「文化を大切にする社会」という社会像から出発したのである。

文化政策は、どのような社会を目指してきたのか

その後、文化政策の言葉は少しずつ変化していく。
文化政策キーワードの変遷

2002
社会全体で支える
   ↓
2011
文化芸術立国
ソフトパワー
   ↓
2015
文化芸術資源
活用
   ↓
2018
多様な価値
好循環
   ↓
2023
価値創造
ウェルビーイング

「2002年には『社会全体で支える』という考え方が示されていたが、その後、『文化芸術立国』『文化芸術資源』『価値創造』など、政策を表す言葉は少しずつ変化していく。」
2002年には「社会全体で支える」ことが語られ、2011年には「文化芸術立国」、2015年には「文化芸術資源」、2018年には「多様な価値」と「好循環」、そして2023年には「価値創造」や「ウェルビーイング」が政策の中心的な言葉となっていった。
こうした変化を見ると、「文化と経済」が近年になって初めて結び付けられたようにも見える。
しかし、2002年の答申でも、文化は経済や科学技術、国際社会との関係の中で語られていた。変わったのは、文化と経済を結び付けたことではない。

文化に期待される役割の変化である。

文化は、人間や社会を支える基盤として語られるだけでなく、地域を活性化し、新たな価値を生み出し、社会や経済を動かす存在として位置付けられるようになっていく。
そこから見えてくるのは、文化そのものが変わったというよりも、文化に期待される役割が広がっていったと読み取れる。

文化施設は何を求められるようになったのか

政策が描く社会像が変われば、その社会の中で文化施設に期待される役割も変わる。
博物館、美術館、図書館、文化会館。
それらは文化を保存し、継承する場であると同時に、地域活性化、観光、交流、学び、そして経済的な波及効果を生み出す場としても期待されるようになった。

利用者数、地域との連携、指定管理者制度、民間との協働、クラウドファンディング。

文化施設を評価する視点もまた、大きく広がっている。もちろん、そのこと自体を否定するものではない。
新たな利用者との出会いや地域との連携は、文化施設に新しい可能性をもたらしている。
しかし一方で、文化施設は何によって評価される存在になったのだろうか。

利用者数なのか。

経済効果なのか。

地域への貢献なのか。


それとも、文化そのものを未来へ受け継ぐという役割なのか。
この問いかけは、第1回で取り上げた「文化施設に『稼ぐ力』だけを求めてよいのか」という議論にもつながっている。

作家団体は寄付を募り、資料館は閉館し、文化施設ではクラウドファンディングが広がっている。こうした出来事もまた、文化に期待される役割の変化の中で考える必要がある。

私たちはどのような社会を目指すのか

この二十年余りで、文化政策が描く社会像は変化してきた。その変化は、文化施設に求められる役割や評価にも表れている。
それは、私たちがどのような社会を目指し、その中で文化をどのように位置付けようとしているのかという、「社会の合意」そのものを問い直すことでもある。
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