私たちは未来へ何を残すのか 第2回
国立映画アーカイブ※1が、クラウドファンディングを始めた。
日本の映画文化を未来へ残すため、市民から広く寄付を募る取り組みである。
市民が文化を支えること自体は、決して珍しいことではない。美術館や博物館には友の会があり、地域では文化財の保存活動や寄付も続けられてきた。
しかし、今回の出来事で気になったのは、クラウドファンディングそのものではない。
民間で支え合うしくみを、公的な文化施設が使い始めたことである。
それは、公だけでは支えきれなくなったということなのだろうか。
それとも、公が担う役割そのものが変わり始めているということなのだろうか。
※1
国立映画アーカイブは、日本で唯一の国立映画専門機関。国内外の映画や映画関連資料の収集・保存・研究・公開を行うほか、上映会や展覧会、教育普及活動などを通じて映画文化の振興を担っている。2018年に東京国立近代美術館フィルムセンターから独立し、現在は独立行政法人国立美術館の一館として運営されている。
公式サイト:国立映画アーカイブ
市民が文化を支えることは、新しいことではない
市民が文化を支えることは、決して新しいことではない。
美術館や博物館には、会員制度や「友の会」を通じて活動を支える人たちがいる。地域でも、文化財の保存活動や寄付、ボランティアなど、多くの市民が文化を未来へ引き継ぐために力を尽くしてきた。
こうした取り組みは、公的な制度だけでは支えきれない部分を、市民の関心や思いが補いながら育まれてきたものである。それは、文化を社会全体で支える豊かな営みと言えるだろう。
だからこそ、今回の国立映画アーカイブのクラウドファンディングも、「市民が文化を支える」という点だけを見れば、特別なことには映らない。
しかし、今回考えてみたいのは、そのことではない。
変わったのは、市民ではない
しかし、今回変わったのは、市民ではない。
公の側である。
国立映画アーカイブは、保存・研究・公開を担う日本唯一の国立映画専門機関である。その国立映画アーカイブが、映画の保存や修復などの活動にクラウドファンディングを活用し始めた。
そのことについて、大高健志氏※2は「民間で支え合う仕組みを、国が使いはじめた」と表現した。
この言葉は、単にクラウドファンディングという新しい資金調達の方法を指しているのではない。
これまで市民が自主的に支えてきたしくみを、公的機関が運営の中に取り入れ始めたという変化を示している。
もちろん、その背景には厳しい財政事情もあるのだろう。しかし、それだけで受け止めてよいのだろうか。
それは、公だけでは支えきれなくなったということなのだろうか。
それとも、公が担ってきた役割そのものが、少しずつ変わり始めているということなのだろうか。
※2
民間で支え合う仕組みを、国が使いはじめたとき――国立映画アーカイブ
大高健志 2026年6月28日
日本におけるクラウドファンディングの先駆け「MOTION GALLERY」代表
「さいたま国際芸術祭2020」キュレーター、映画プロデューサー
文化だけの話なのだろうか
こうした変化は、文化だけの話なのだろうか。
近年、子ども食堂やフードバンク、地域の見守り活動など、市民が支え合う取り組みは各地で広がっている。それぞれの活動は、人と人とのつながりを育み、地域社会を支える大切な役割を果たしてきた。
こうした活動が広がること自体は、社会にとって望ましいことである。
しかし、その一方で、公が担ってきた役割との関係はどう変わってきたのだろうか。
行政だけでは担いきれなくなったから、市民が支えるようになったのだろうか。
それとも、公が担う範囲そのものを見直し、市民や民間と役割を分け合う社会へ変わろうとしているのだろうか。
もしそうだとすれば、それは文化行政だけの話ではない。
私たちはいま、公が担う役割と、市民が支える役割との関係が、静かに変わり始める時代に立っているのかもしれない。
私たちは何を未来へ残そうとしているのか
市民が文化を支えることは、決して新しいことではない。
それは社会の豊かさでもある。
しかし、公的機関がそのしくみを使い始めたとき、別の見方もできる。
本来、公費で支えると決めてきたものを支えきれなくなったということなのだろうか。
それとも、公が担う範囲そのものを変えようとしているのだろうか。
もしそうだとすれば、それは財政の問題だけではない。
私たちは、公が担うべき役割をどこまで残し、どこからを市民や民間と分かち合うのか。その社会の約束そのものが、静かに変わり始めているのかもしれない。
社会が持っている豊かさは、公が責任を果たしたうえで育まれるものではなかっただろうか。
市民が支えることと、公が責任を果たさなくてよいことは、同じではない。
私たちは何を未来へ残そうとしているのか。
何を残すのか。
誰が支えるのか。
そして、そのあり方を誰が決めるのか。
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