行政はどこで市民と出会うのか

コラム
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見えなくなった「市民の声」の入口

「最近の若者は町会に入らない」

地域活動に関わっていると、そんな言葉を耳にすることがある。

確かに町会加入率は全国的に低下している。大阪市も例外ではない。役員の高齢化や担い手不足に悩む地域は少なくない。
しかし、この問題を単純に「若者の地域離れ」と捉えてしまうと、本質を見失うように思う。

そもそも若者たちは、どこで地域と出会っているのだろうか。

そして行政は、どこで市民と出会っているのだろうか。

この問いは、単なる町会加入率の話ではない。地域社会のあり方や民主主義の基盤に関わる問題である。

かつては地域に行政への接点があった

かつて行政と市民の間には、多くの接点が存在していた。

町会。婦人会。老人会。PTA。商店街。子ども会。

こうした地域組織は、それぞれ独立した活動を行いながらも、市民と行政をつなぐ重要な役割を果たしていた。

道路の不具合。公園の管理。防犯灯の設置。地域イベント。防災活動。

行政は地域組織を通じて地域課題を把握し、市民は地域組織を通じて行政へ要望を届けていた。もちろん問題もあった。閉鎖的な人間関係。新しい人が入りにくい雰囲気。特定の人に負担が集中する運営。

決して理想的な仕組みではなかった。

それでも、市民と行政が出会う入口が地域の中に存在していたことは事実である。

市民は行政を身近に感じなくなった

現在、多くの市民は行政との接点を持たないまま生活している。

出生届を出す。転入届を出す。税金を納める。マイナンバーカードを受け取る。

行政との関係は、手続きが中心になった。

行政サービスを利用することはあっても、行政と対話する機会はほとんどない。

その結果、「行政が何を考えているのか分からない」
「意見を言っても変わらない」
「どうせ決まったことを説明しているだけだ」
そんな感覚が広がっているように感じる。

行政への不信感の一部は、政策の中身だけではなく、出会いの不足から生まれているのかもしれない。

パブリックコメントは本当に入口なのか

行政は市民参加の仕組みを持っている。
代表的なものがパブリックコメントである。
しかし、多くの市民はその存在を知らない。
知っていても参加しない。
参加するためには制度を知る必要がある。計画書を読む必要がある。意見をまとめる必要がある。提出する必要がある。行政から見れば開かれた制度であっても、市民から見れば決して低いハードルではない。

制度が存在することと、参加できることは同じではないのである。

SNSは市民との出会いを生み出したのか

近年は行政によるSNS活用も進んでいる。情報発信のスピードは向上した。災害時の情報共有も容易になった。しかし、それは本当に「出会い」なのだろうか。

SNSは情報伝達には優れている。だが、多くの場合は行政が発信し、市民が受け取る関係にとどまる。そこに継続的な対話が生まれるとは限らない。

情報発信の手段は増えた。しかし、市民と行政が出会う場が増えたとは言い切れないのである。

地域組織の衰退が意味するもの

町会加入率の低下は、防災や見守り活動の担い手不足として語られることが多い。もちろんそれも重要な問題である。しかし、それ以上に見落としてはならないことがある。

市民と行政をつなぐ中間組織が失われつつあることである。

町会が弱くなる。PTAが縮小する。地域団体が活動停止する。

すると行政は市民の声を受け取る窓口を失う

市民もまた、自分たちの意見を届ける経路を失う。その結果、行政は市民から遠くなり、市民も行政から遠くなる。これは単なる組織運営の問題ではない。

地域民主主義そのものの問題である。

大阪で起きてきたこと

大阪では長年にわたり、「改革」と「効率化」が政治の中心テーマとなってきた。
その中で、従来の地域組織はしばしば既得権益として批判されてきた。

町会や地域団体も例外ではなかった。

地域活動協議会の設立によって地域活動そのものは継続されたが、一方で従来の地域組織が持っていた求心力や当事者意識は徐々に弱まっていった。

さらに行政内部でも大きな変化が起きた。

職員数の削減。業務の効率化。外部委託の拡大。

その結果として、地域を歩き、市民の声を聞き、人と人をつなぐ役割に割ける余裕は確実に減った。現場の職員は日々の業務に追われている。
地域へ出向く時間も、人を育てる時間も不足している。
その結果、市民と行政をつなぐパイプは細くなっていった。

効率化によって失われたもの

ここで考えたいのは、改革、効率化の名の下、何が失われたのかということである。

行政サービスの提供速度。財政の健全化。組織運営の合理化。

しかしその名の下で、地域との信頼関係、住民同士のつながり、市民と行政の対話、まちづくりを担う人材の育成、こうした数字に表れにくいものは、十分に評価されることもなく切り捨てられてきた。

効率は測れるのかもしれない。行政が関わる行事には、必ず成果報告のようなアンケートを書くことになったが、より良くしようというよりはアリバイ作りだったり、報告義務のための資料化のみが目的のように感じられる。

それよりも大切な信頼は、数値化されにくく測りにくい。そういった信頼は置き去りにされてきた。しかし地域社会を支えているのは信頼なのである。

行政はどこで市民と出会うのか

町会加入率の低下は、単なる地域活動の問題ではない。その背景には、市民と行政が出会う場所そのものの喪失がある。

かつて地域には、そのための入口が存在した。今、その入口は確実に小さくなっている。いや小さくさせている。

こんな状態で、行政はどこで市民と出会うのだろうか。

新しい場所は、図書館、子育て支援施設、学校かもしれない。
もしくは商店街かもしれない。あるいはオンラインコミュニティかもしれない。

重要なのは、市民が行政のもとへ来ることを待つことではない。

行政が市民の暮らしの現場へ足を運ぶことである。

そして市民もまた、地域を自分とは無関係なものとして切り離すのではなく、自分たちの暮らしの延長として捉え直すことである。

問われているのは町会をどう守るかではない。

問われているのは、市民と行政が再び出会う場をどうつくるかなのだ。

それこそが、これからの地域社会に求められている課題ではないだろうか。

<山口 達也>

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