夢洲IRカジノ用地の「適正価格とは」

市民と市政
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その不動産鑑定評価は「行政判断の根拠として使えるもの」だったのか

「夢洲のカジノ用地の賃料は、あまりに安すぎるのではないか」
この疑問が、市民の素朴な感覚を超えて、裁判で争われる問題へと発展するきっかけとなったのが、2022年秋の「しんぶん赤旗」日曜版によるスクープだった。記事は、大阪市がIRカジノ(統合型リゾート)事業者に貸し付ける夢洲の事業用地について、*賃料算定の根拠となった不動産鑑定評価そのものに不正の疑いがある*と報じた。

しんぶん赤旗 2022年10月2日号
大阪維新市政に新疑惑/カジノ用地賃料大値引き/専門家「不正な不動産鑑定」

その後、住民による提訴が相次ぎ、現在も大阪地裁で審理が続いている。その中核の一つが、いわゆる「第5事件」である。今回からは、この第5事件を軸に、夢洲IRカジノ用地の賃料がどのように決められ、何が問題とされているのかを整理していく。

第1回ではまず、その鑑定評価は行政判断の根拠として採用できるものだったのかを考える。

問題は「金額」ではなく「評価の前提」

この裁判を「賃料が安いか高いか」という話だと捉えると、論点を見誤る。原告が問題にしているのは、単なる金額の多寡ではない。

問われているのは、大阪市が「適正な対価」と説明してきた賃料が、どのような前提と考え方に基づいて導かれたのか、そのプロセスに問題はなかったのか、にある。

大阪市は、夢洲IRカジノ用地の賃料を決めるにあたり、複数の不動産鑑定業者に鑑定評価を依頼し、その結果を根拠に「適正な賃料である」と説明してきた。
しかし原告は、その鑑定評価が「不動産鑑定評価基準に照らして、行政判断の根拠として採用できるものではなかった」と主張する。

つまり、第5事件の核心は、「鑑定評価が存在したか」ではなく、行政判断の根拠として採用できる鑑定評価だったのかという点にある。

鑑定評価は「前提条件」で決まる

不動産鑑定評価は、土地を見て感覚的に値段を決める作業ではない。
どのような利用が想定されているのか、周辺環境はどうか、将来どの程度の収益が見込めるのか――そうした前提条件を設定し、その条件の下で価格は算定される。

重要なのは、その前提条件が 合理的で、一貫しており、第三者に説明可能であることだ。

夢洲IRカジノ用地の鑑定評価で採用された前提条件の中で、最も大きな論点となっているのが、IRカジノ事業を「考慮外」とした判断である。

大阪市と鑑定業者は、「IRカジノ事業は実現するかどうか不明であるため、鑑定評価では考慮しない」という立場を取った。一見すると慎重な判断のようにも見える。しかし原告は、この前提条件そのものが不合理だと指摘とている。

IRカジノは考慮しない、しかしインフラは考慮する?

原告が問題視しているのは、IRカジノ事業そのものは考慮しない一方で、IRカジノを前提として整備されてきた基礎的インフラは価格形成要因として考慮されている点である。

夢洲では、IRカジノ誘致を前提に、大規模な土地造成や交通インフラ整備が進められてきた。もしIRカジノ事業がなければ、これほどの整備が行われたかは疑わしい。
にもかかわらず、「IRカジノは不確実だから評価から外す」「しかし、IRカジノを前提に整備されたインフラは既成事実として評価に含める」という条件設定は、論理的に整合しているといえるだろうか。

原告は、こうした条件設定を、不利な要素を切り捨て、有利な要素だけを残す“つまみ食い”だと批判する。土地の評価額が不合理に低く算定される結果となっているのではないか、というわけだ。

「鑑定評価書」という確定値を出してよかったのか

もう一つの重要な争点が、この内容で「鑑定評価書」という形の確定値を出してよかったのか、という点である。

不動産鑑定評価基準では、前提条件が不合理であったり、利用者に誤解を与えるおそれがある場合、鑑定評価書として作成することが適切とはいえない場合があるとされている。場合によっては、簡易な調査報告書で対応すべきケースも想定されている。

原告は、夢洲IRカジノ用地の鑑定評価はまさにこのケースに当たると主張する。IRカジノ事業をどう扱うのかという根本的な前提が曖昧なまま、行政がそのまま使うことを前提とした「鑑定評価書」を作成したこと自体が問題だ、というわけだ。

これに対し大阪市は、「ガイドライン上、鑑定評価書を発行できないとはいえない」と反論する。
しかし、その説明は抽象的で、なぜこの条件設定でも行政判断の根拠として採用できる評価といえるのかについて、十分な説明が尽くされているとは言い難い。

問われているのは「慎重さ」ではなく「切り捨て」

大阪市の説明は、「不確実なものを考慮しないのは慎重な判断だ」という印象を与える。しかし、この説明をそのまま受け取ってよいだろうか。

IRカジノ事業は、単なる民間の思いつき事業ではない。国が国家戦略特区として指定し、制度設計の段階から深く関与してきた事業である。民間事業者が担うとはいえ、実際には国のお墨付きを得て進められてきた計画だ。

そうした事業について、「不確実だから考慮しない」とするのは、慎重さの表れというよりも、正確な鑑定評価を行うために必要な条件を、あらかじめ切り捨てているように見える。

しかも切り捨てられたのは、評価額を引き上げる方向に働く要素ばかりだった。その一方で、IRカジノを前提に整備された造成やインフラは、評価に含められている。

これは慎重な判断ではない。
不確実性の中身を選別し、都合の悪い条件を切り捨てた結果だと見る方が自然ではないだろうか。

「適正な対価」は、どうやって決められたのか

第5事件は、「夢洲IRカジノを進めるべきか否か」を直接問う裁判ではない。しかしその前提として、行政が「適正な対価」をどう判断したのかという、極めて公共性の高い問題を私たちに突きつけている。

鑑定評価は、行政判断の盾として使われることが多い。しかし、その盾が最初から歪んでいたとすれば、そこから導かれる結論もまた、疑わしいものになる。

次回は、複数の鑑定業者がなぜ「同じ数字」にたどり着いたのか――
その不自然さに焦点を当てる。
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