市民×行政のもう一つの未来
ucoから読者の皆さまへ
市民の声はどうすれば行政に届くのか
自治体が行う様ざまな行政や市民サービス、医療・教育・建設・経済などの多くの政策などに対して、ふと疑問に思うことは誰しもあるのではないだろうか。
例えば情報提供を積極的に行うといいながら、ほとんどをネットで公開しているからと刊行物がほとんどなくなっていることで、情報を遮断されている市民がいることには目が向けられていない。
こうしたことに、市民が行政に対して意見を言ったり、是正を求めたり、あるいは提案を行ったりする機会はありそうでなかなかないのが実情だと思われる。
多くの人は、不便や多少のストレスを覚えながらも、仕方がないと自身を納得させ、諦めたりそのことにフタをしてしまっているのではないだろうか。
「市民×行政のもう一つの未来」では、様ざまな市民の声をどうすれば行政に届け、市政に反映させることができるのか。また行政の進める事業に市民はどうすればスタート段階から関与する道が開けるのか。
2000年代の今、市民に代わって行政を執り行うという「昭和」のままの地域行政ではなく、市民とともにつくる行政に進むための道を考える。
市民ができる行動の一つが大阪市の陳情書制度。
今回は、障がい者支援サービスのひとつ「訪問入浴サービス」で、回数制限という規定で生じていた矛盾が1通の陳情書によって是正された事例を追いかけた。
月によって入浴できない週があるの なんとかなれへん?
2022年7月、大阪市北区の市営住宅に住むKさんは今月も入浴できない週があることに気落ちしていた。Kさんは1991年に交通事故により重度の障がいを負って以来、訪問看護や訪問リハビリを受けながら暮らしている。その一つとして重度障がい者入浴サービスを受けているが、「月8回」「年間96回」という規定の中では、年間で計8回入浴できない日がある。Kさんは毎週木曜日と土曜日が入浴の日となっていたが、2022年度の場合、4月、6月、7月、9月、10月、翌年3月は木曜・土曜は各月9回となり、12月は合計10回にもなる。そりゃそうだ1年間は52週なので、月2回とすれば104回だが、規定との差が8回にもなる。Kさんは以前からずっともやもやしていた。「なんとかなれへんのかな」。サービスの担当者から翌月の予定表をもらうたびにそう思い、ときどきは担当者に「これおかしいよね」と愚痴をこぼすこともあった。

入浴サービスでは利用者に図のような予定表が渡される。利用者はそれをもって予定を立てるのだが、月8回の場合は大きな変更はないが、月9回や10回の場合は1日もしくは2日入浴できない日が発生する。すると多くの生活支援を受けているさんKはヘルパー、訪問看護、訪問リハビリなど入浴以外のサービスの提供日のシフト変更を行う必要が出てくることになり、日程を考え、各方面への連絡調整を行うことになる。それだけでも重度障がい者のKさんにとっては重荷になるが、それ以上に精神的にもつらく、入浴が1回無くなることで1週間入浴できない日が続き体調を崩す原因にもなってきた。
もうずいぶん長い間入浴回数のことを考えてきた。これは大阪市の制度で決まっていることでKさん自身の個別の問題ではない。市の窓口に行って要望を伝えるだけで簡単に変わることではないだろう、とも思った。だからといってこのままでは、今後もずっとこうした不安やストレスを抱えることになる。入浴回数を増やす。それは福祉サービスのお金もかかる。市の予算にかかわってくるのだと思うと、議会や議員への働きかけと加賀の方がよいのかという思いもあった。以前大きな団体では市に陳情を上げるということを聞いたことはあった。何かできることもあるのではないかと、大阪市のホームページを調べてみると、陳情書というものが出せることがわかった。
書いては書き直し、諦めかけた半年間
「陳情書を書くのは初めてやし、書き上げるまでに半年かかりました。」実際に提出された陳情書を前に、提出までの紆余曲折をKさんは話す。
最初、自身の置かれている状況や訪問入浴サービスがいかに生活の支えになっているか、また週に2回のところが1回になってしまう時の思いやそのために生じる各方面への連絡や手続きなど、これまでためていた思いを書き綴ったらA4にしたら2枚、3枚となった。しかし提出方法を改めて見ると、「具体的かつ簡潔にA4のページで1枚でまとめてください」と。あぁこのままでは無理やと思い、また書き直したりしながらも、「陳情書出したとしても、こんなんで変われへんのんちゃうか」とも思ったりして、もうやめようかな、と何回も思ったという。
そうこうしているうちに年が明け、ちょうど2月に大阪市会の議会が始まるということを知り、「せっかくここまでやったから、今年中(今年度)にもうとりあえず出してしまおうと思って出したんです。」
実際の陳情書を読むと、何度も推敲を重ねたことが見て取れるが、それ以上にその切実さや入浴サービスに支えられている生活についてつづられている。規定により週2回の入浴ができなくなることで、いかに生活に支障をきたしているのかが簡潔に書かれている。

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